【豊嶋康子展@東京都現代美術館】隠しコマンドがありそうよ
豊嶋康子
発生法──天地左右の裏表
@東京都現代美術館
現代アーティスト豊嶋康子さんの初期から現在までの作品400点以上が一挙に展示されています。
入り口すぐ上の《ジグソーパズル》(1994)を観た瞬間、(すき…)となりました。そして、壁にずーっとつながりつづけている《エンドレス・ソロバン》(1990)でワクワクし、小さな《弾痕ステッカー》(1995)で小さくガッツポーズしました。
今回の展示は制作年代順にはなされていません。敢えてばらして横断的に見せるという意図なのだと思います。
また、リーフレットの会場図に「軸」「歪み」「枠内」「余白」…といった、”作家自身が抽出した、作品の特徴を示すいくつかのキーワード” がマッピングされていますが、これもワードでひとかたまりにならず、散らばったり重なり合ったりしています。
以降はあくまで、作品の現物をはじめてみた私に今回の展覧会のみで生じた個人的な感想です、という前置きをしつつ
展示の中には面白いと思ったものと、正直ちょっと印象が薄いのと両方あって、あとで調べたら、あまり印象になかったのはほとんどが最近(2012年頃以降)の作品でした。
初期の作品は、”私たちを取り巻くさまざまな制度や価値観、約束事”を示す素材が文具やジグソーパズル、安全ピンといった既製品であったり、問題集の解答、振込、投資のような社会的なプロセスであったりと、いずれも現実的で具体的な何かです。それが、近年はうんと抽象的になり、幾何学的なモチーフを多用しています。
作家の全体像に初めて触れる鑑賞者にとっては、30年以上にわたっての作品が揃うなら、思考や表現手法の”変遷”が軸にされているほうが、とっつき易いのではと感じます。けれどそうはなっていない。実際、私は順路の初めの方にあった後期作品は完全にすっとばしていました。(もう一度、最初から見直そうかと思ったけれど再入場はご遠慮くださいと言われてしまってくやしい、余談ですが、全体的に展示室のスタッフの圧が強かったのは気のせいかしら…)
さらに《隠蔽工作》(2012)以降の展示作品のうち《前例》(2015)を除いて素材は木が中心です。抽象的概念を目に見える形に落とし込むのに木材を使用されているよう。私は、何故、素材に”木”なのかが気にかかり、囚われてしまいました。
そのうえ、年代順でない展示法が故に、木製の作品がどの展示エリアにも存在していて、木の匂いが会場全体に漂っていました。ずっと木の匂いの中で作品を見ていた感覚で、多分にそちらに感覚がひっぱられてしまった気がします。
匂いにまつわる感覚というのはなかなかに強固なもの。木の懐かしいような匂いとともに、レディ・メイドでない木製の《パネル》(2014)、《棒グラフ・帯グラフ・円グラフ 》(2019)、《地動説》(2020-2023)といったハンドメイド作品を閲覧するうち、私にはなんだかこれらが単調な木工クラフトや木製玩具のように思えて仕方なかったのです。そうなると全体的に文具や賞状、成績表、キャッシュカードなども昔みたことのある、でも今はほぼ目にしない姿をしているうえ、一番最後の展示作品が《スピログラフ》(1994)だったので「あ、これ昔遊んだわ懐かしい…」と尚更、展示全体の印象がノスタルジックなものに軟着陸してしまいました。
いろんな違和感を残しつつ。
でも、こういったいくつかの違和感を覚えたということは、私の中にいつのまにか存在していた思考の枠組みを外されたに他ならないともいえます。だとするとそれはやっぱり作家とキュレーターの思う壺だったということなんでしょうか。
展覧会図録の発行が2月ということで、こちらを読んでみたいなあと思うのです。
それにしても「天地左右の裏表(↑↓←→BF)」って隠しコマンドのようですね。予想もつかないところに思いがけない何かが発生するんですよきっと。
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