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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#146]111 勇気ある行動/デニス

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

111 勇気ある行動/デニス

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。神から貰った力で、鑑定をする事が出来る。
・デニス…Sランクの先輩冒険者。今回の討伐隊での冒険者の『英雄』。リリアンに好意を抱いている。
・シアン…デニスの兄貴分のSランク冒険者。前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役
・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王で、2代前の『英雄』
・ニコラス(ニール)…前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥。正体を隠して冒険者をしていた。

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 わずかな時間の隙間を使って、シアンさん、リリアンと一緒に、ケヴィン様の執務室を訪問した。

 表向きは冒険者代表たちによる先王ケヴィン様へのご挨拶、という事になっている。
 が、テーブルを囲む皆の様子は、とてもそういう風には見えない。

「あれはメルじゃねえ」
 らしくない、真面目を通り過ぎた苦い表情でシアンさんが言った。

「ええ、魔力の匂いが違います。でも、どこかで嗅いだことのある匂いに思えるのですが……」
「リリアンがか? それともアッシュか??」
「昔、ではなく、今……ですね」
「王都でなら、どこかですれ違ったりしていてもおかしくはないが……」
「でもそういう事ではない気がします」
「俺はリリアンと違って、眼帯をしている時にはわからないからな。それにずっとこれを外しているわけにもいかない」

 そんな風に、深刻な様子でリリアンとシアンさんが話し合うのを、俺は口も挟めずに黙って聞いていた。

 ってか、二人ともケヴィン様の前だと言うのに、いつも通り過ぎないか?
 気になってちらりと目線を正面に向けると、偶然なのかケヴィン様と目が合ってしまった。

「随分と、緊張しているようだな」
「あ、はい。そりゃあ…… あ、いえ!」
 急に話し掛けられ、つい二人につられていつもの口調で言いかけてしまい、慌てて取り繕う。

「彼はリリアンの事情は知っているのかね?」
 ケヴィン様が尋ねると、シアンさんも何ともないように手を上げて応える。
「ああ、知っている」
「なら、問題はなかろう。われらは歴代の討伐隊の集まりなのだよ。デニス殿、其方そなたも仲間のうちだ」
 ケヴィン様はそう言って、穏やかな笑みを俺に向けた。

「……俺に内緒で、二人でケヴィン様と会っていたんだな」
「なんで俺をにらむんだ。俺もむしろ連れ込まれたクチだぞ」
「元はと言えば、私が呼んだのだ。喧嘩けんかをするな」
「いえ、あれでもシアさんとデニスさんは、仲はいいんです」

 ほほうと、興味深げに俺たちに向かって目を細めたケヴィン様に、慌てて頭を下げた。

「ひとまず、彼の者の正体を確認する術は今のところはない。気にはなるが今日明日で答えが出る事ではないだろう。この後は其方たちの紹介を兼ねた祝賀会がある。堅苦しいのは苦手かもしれんが、楽しんでほしい」

「勇者はいつ来るんだ?」
「明日、召喚の儀が行われる。お前たちも同席するか?」
 シアンさんの問いに、何故かケヴィン様は『お前たち』とシアンさんだけでなく、リリアンも含めて応えた。

「召喚が行われるのは、王城でしたよね?」
「ああ、王城の奥に召喚の間がある」
「なら、私は他に行く所があるので、遠慮いたします」
「わざわざそういう言い方をすると言う事は訳有りだな?」
「はい。教会の奥にいる方に、もう一度会わなければいけないんです」
「ああ、あの時の不思議な人物か。確かにその日なら教会には人も少なくなろうが…… 一人で大丈夫かね?」
 俺にはリリアンの言っている事が全くわからないが、ケヴィン様は知っているらしい。だがその口ぶりが、俺の不安を誘った。

「事情はわからないが、俺も一緒に行こう。リリアン一人では行かせられねぇ」
 黙っていられず、つい口を挟んだ。
「何でですか? 別に危険はありませんよ?」
「ケヴィン様、そうなのですか?」
 今度はケヴィン様に尋ねると、髭を撫でながら少し苦い顔をする。

「うむ…… 危険では、ないだろうが…… あの女性はどうにも不穏ふおんな感じがするのだ」
 不穏って……
「転移で行って、用事が済めばすぐに戻りますから。大丈夫です」

「あー…… 転移なら、道中誰かに見られる心配もないんだろう? ダメでないなら、デニスも連れて行ってやってくれ」
「シアンさん?」
「俺はケヴィン様と一緒に、勇者の召喚に立ち会ってくる。わからない事もまだ多い。一人行動は控えた方がいいだろう」
 シアンさんの言葉に、ケヴィン様もうなずいてみせる。

「おそらく、危険はないと思うのですが…… わかりました」
 そう言いはしたが、リリアンはまだ少し不満そうだった。

 * * *

 たかが冒険者でもSランクにもなれば、貴族や町の有力者の家に招かれる事もある。少しはマナーらしきものを身に付けてはいるつもりだ。
 でもさすがに、王城でのこんな盛大なパーティーに出席した経験なんて、あるわけがない。

「肩が張ってるぞ」
 俺の緊張をほぐそうとしてか、シアンさんが笑いながら俺の肩を叩いた。
 ってか、おっさんはなんでそんなラフに笑っていられるんだよ…… やっぱ、すげえな。
 シアンさんだけでなく、リリアンも緊張している様子はない。
「まあ、私は前世での経験もありますから」
 そう言って、慣れた様子で俺の手に自分の手を添えた。

 会場に入ると、あっという間に貴族たちに周りを囲まれた。やれ、闘技大会では凄かっただとか、今までにどんな活躍をしたのかとか、矢継ぎ早に話し掛けられる。
 こういった対応にはそれなりに慣れているはずなんだが、ここが王城だという緊張が上回ってしまい、上手く口がまわらなかった。
 俺の左右を固めたシアンさんとリリアンが、程よく話を取り持ってくれて、正直いってすげえ有り難かった。

 だいぶ長い時間を使い一通りの話が終わって周りが空くと、すっかり喉がカラカラに乾いていた。部屋に入って最初に給仕に渡された酒に、全く口をつける余裕もなかった。

「少し休もう」
 シアンさんの言葉に甘えて隅のテーブルに席を取った。
「軽く食べられるものを取ってきますね」
 自分も気を張って疲れただろうに、リリアンが俺に返事をする間も与えずに、食事の並ぶテーブルの方へ行ってしまった。

 椅子に深く腰を掛け、ふぅーーと大きく息を吐く俺に、シアンさんがニヤニヤと笑いながら茶々を入れた。
「討伐隊になったら、行く先々でこんな招待を受けるからな。少しは慣れておけよ」

「……討伐隊になったから、魔物や魔族と戦ってばかりになるのかと思ったけれど、そうじゃないんだな」
「ああ…… それもおかしい話だよな」
 シアンさんは不快そうに表情を歪ませながら、そう答えた。

「シアンさん、デニスさん!」
 よく知っている声に顔を上げると、向こうからニール……いや、ニコラス様が手を振りながら近づいてきた。
 ああ、そうだ。マーニャとメルヴィン様の事で有耶無耶うやむやになりかけていたが、ニコラス様の事にもかなり驚いた。

 慌てて立ち上がろうとしたが、その前に「よぉ、ニール!」と、いつものように手を上げて応えるシアンさんに気を抜かれた。
「あ、おい! おっさん!」
「どうしたんだ? ニールはニールだろう?」

 慌てて制止しようとした俺に、逆に不思議そうな顔をする。改めてニールの顔をみると、嬉しそうな顔ではなく、不安そうな顔をしている。
 そうか、ニールも俺たちの反応を気にしているんだ。そう気付き、浮かせかけていた腰をまた椅子に落とした。 

「やあ、。驚いたよ」
「ごめん、だましてて…… 俺……」
「いや、騙すつもりじゃなく、黙ってただけなんだろう?」
 そう言うと、ニールはほっと安心した表情になった。

「あ、ニールもいたんだ」
 ちょうどいいタイミングで、皿を持ったリリアンが戻って来る。いつもの感じで名前を呼んだ彼女に、ニールはむしろ拍子が抜けたような顔をした。

「シアンさんには前にばれてたからわかるんだけど、リリアンもあんまり驚いてなかったよな……」
「まあ、貴族だって事は聞いてたし。知ってもニールには変わらないしね」
 ニールの言葉に、リリアンはあっけらかんと笑って答えた。

「そういや、リリアンにも家名があったんだな」
「あれは違います。獣人の族長や巫女、戦士が、対外的に使う種族名の代わりみたいなものです」
 闘技大会の終わりに、ケヴィン様はリリアンを『リリアン・グレイ』と紹介した。

「族長の妹という事を強調したいからだと、ケヴィン様には言われました。でも本来は家名など持たない、ただの……」
 そこで何故か、リリアンが言いよどんだ。
「うん? なんだ?」
「あ……いえ、ただの冒険者ですから」
 そう彼女が言ったところで、シアンさんが皿に山と盛った料理を持って来て皆に勧めはじめた。そのまま町ではなかなか食べられないご馳走に、皆の話題は持って行かれた。

 * * *

 王城での緊張から逃れてやっと西の外れの家に帰る事ができたのは、すっかり辺りが暗くなってからだった。

 闘技大会でも、その後でも、今日は本当に色んな出来事があった。でも、まだ俺の今日はこれで終わりじゃあない。とうとう『英雄』になれたんだ。今度こそは……

 意を決してリリアンの部屋の扉を叩くと、可愛らしい声で返事が返って来た。
「話があるんだが、少しいいか?」
 そう告げると、迷いも見せずに扉は開いた。

 招き入れられ、窓際に据えられたソファーに着席する。
 寝るところだったのか、部屋の中はすでに薄暗い。窓から差し込む月の明かりが、向かいに座るリリアンの顔を横から白く照らしていた。

「俺をお前のマスターにしてくれ」
 決めた心が揺らぐ前にと、単刀直入に彼女に告げた。

 それを聞いて、リリアンは口元に手をあてて、少し考えるような素振りを見せた。
「……確かに、討伐隊のリーダーになるはずの王家の『英雄』ニールには『獣使い』のスキルはありません。今回の旅にはシアさんも同行してくれる事になっていますが、あくまでも同行するだけで討伐隊の正規なメンバーではありません。私とデニスさんは『英雄』とその『サポーター』という関係にありますので、マスター登録をしてもらう為の理由も利点も充分にあると思います」

 へ……?
 やたらと理屈っぽい言葉が返ってきて、心で首を傾げる。俺が言いたいのはそういう事じゃない。お前の唯一の相手になりたいんだと、そう願っているんだ。

「あ、いや…… 登録というか……」
「何か違いましたか??」

 いや、ペアでマスターになる事を願うのは、告白するのと同じようなもんだって、そう言ってなかったか?

「いや、お前と……ずっと一緒にいられたらなと、そう思って……」
「はい、安心して下さい。私は元討伐隊ですから。『サポーター』がどんな役目を担っているかは、充分にわかっています。『英雄』のデニスさんに添うのが私の役目です」

 なんだろう? するするとつかみどころのない水の中のスライムの様に、俺の言葉をすりぬけた返事が返ってくる。
 曖昧な言い方じゃあ彼女には通じないのだろうか…… それなら……

「俺…… お前の事が好きだ。だから……」
 だから……? えっと…… なんて言えばいいんだ?
 続ける言葉に迷っていると、リリアンがすぅと優しい大人びた笑みを浮かべたのが見えた。

「ありがとうございます。私もデニスさんの事が好きです」
「……!! なら……」
「アシュリーの家名を、受け継いでくれてありがとうございます。 アシュリーはデニスさんと家族になりたいと願っていた。それが叶ったのを知って、とても嬉しかったです。私たちは、仲間であり、家族です。デニスさんだけでなく、シアさんも」

 ……それは…… 多分、一人の男としての『好き』ではない。
 所謂いわゆる、仲間としての信頼だとか、家族愛だとか、そういったたぐいのものだ……

「やっと討伐隊になれました。でもまだまだ、大変なのはこれからです。今日はしっかり休んで明日に備えましょう」
 その言葉で、やんわりと部屋を出るように促される。
 彼女はにっこりと笑うと、おやすみなさいと言って扉を閉めた。

 俺の勇気ある行動は、全く想像もしていなかった形で終わった。

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(メモ)
 教会の奥(#64)
 『獣使い』、マスター(#7)


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