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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#147]112 真/ケヴィン

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

112 真/ケヴィン

◆登場人物紹介(既出のみ)
・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王で、2代前の『英雄』
・ニコラス(ニール)…前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥。今回の討伐隊、王族の『英雄』
・シアン…Sランク冒険者。前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役
・マーガレット…2代前の『英雄』で、且つ今回の討伐隊の教会の『英雄』。マーニャの名で冒険者をしていた。

・ルイ…前・魔王討伐隊の『勇者』の少女。シアンに想いを寄せていた。

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 謁見の間の裏手より、地下に潜る階段を下り、さらに奥に向かう廊下を進む。
 この廊下はさほど広くはない。人が3人並んで歩くのが精一杯だ。この先が本来ならば客人を入れる場所ではないと言う事だろう。

 突き当りの飾り気の無いドアを開けると、応接室になっている。
 この部屋が使われるのは勇者が召喚される時のみだ。

「うわぁ」
 私の後ろから入って来たニコラスが感嘆の声を上げた。それほどにこの部屋の調度は素晴らしい物が設えてある。
 しかし、調度の素晴らしさに相反あいはんして、やけに壁が寂しく感じる。白一色で装飾も無い。元々客人を招く為ではなかった部屋を、無理に応接室に仕立てたのであろう。

 部屋の中央で一度足を止める。壁一面に並べて飾られた肖像画。これらは全て過去に召喚された勇者たちだ。
 一番新しい額には、控えめに微笑むショートカットの少女が描かれている。
「ルイ……」
 シアンが小さく彼女の名を呼ぶのが聞こえた。

 その隣で微笑むのは、私の永遠の想い人の絵だ。最後にあの笑みを残して、彼女は神の国に帰って行った……と、ずっと私は信じていた。
 彼女らが生まれた国に帰る事が叶わずに、勇者の剣に命を吸われたなどと…… 本当は思いたくもない。

 もしも…… その話が本当だとしたら、この国は魔王を倒す為に、そしてこの国を生かす為に、何人の勇者の命を食らってきたのだろうか……

 * * *

 応接間から続く透き通る扉の向こうに『召喚の間』があった。
 ここの壁も応接室と同じ真っ白な壁だが、あちらとは違い正面の壁際に据えられた棚に多くの魔道具が収納されている。これらは全て繋がっていて一つとして動かす事はできないそうだ。

 床には我々には読めない字で、不思議な魔法陣が描かれている。
「神の国の文字に似ているな…… あいつなら読めたかもしれねえ」
 私にだけ聞かせる声で、シアンがささやいた。

 召喚を行う大司教には、司祭が4名付き添う。その後ろには教会の『英雄』マーガレットが。
 私の隣には、討伐隊のリーダーになる王家の『英雄』ニコラスが控え、彼が年若いのを理由に顧問役のシアンも同席させた。

 魔法陣を囲う様に司祭たちが立つ。マーガレットに壺を手渡された大司教が、その中身を魔法陣の中央に撒いた。
 部屋中に強い酒精の匂いが立ち込める。慣れぬ匂いに、ニコラスは眉をしかめ、シアンは慌てて懐から出したハンカチで口元を覆った。

 大司教がおそらく教会から持ってきた魔道具を魔法陣の中央に置く。周りの司祭たちが呪文のような物を唱えるのに合わせ、大司教が魔道具に手をかざすと、大司教の指輪からぼんやりとした光が現れ、次々と魔道具に吸い込まれていった。

「あの時も、こうして『勇者ルイ』を呼んだんだな」
 シアンが小さく言うのに、黙ってうなずいた。

 思えば、何て身勝手な事なのだろう。
 呼びつけられた勇者たちにも、神の国での生活があるはずだ。それを無理矢理この国に呼びつけて、彼らの人生を奪う。我らにそんな権利があるのだろうか。

 しばらくの間、中央の魔道具に吸い込まれる光を眺めていると、そこに湛えられていく光が溢れんばかりになっていった。指輪からこぼれる光が途絶え、ようやく大司教は手を下ろした。

 司祭たちは呪文らしきものを唱え続ける。それと共に魔道具の光はさらに大きく膨らんでいった。
 光はそのまま急激に広がると、最後は召喚の間いっぱいに弾けて散った。

 突然の強い光に目を眩まされ、一瞬視界を失う。ようやく世界を取り戻すと、魔法陣の中央に見慣れぬ服を着た人物が立っていた。

 襟足だけ少し長めにしたさっぱりした短髪。黒い髪は神の国の住人の特徴の一つだ。長いまつげで飾られた瞳の色は深く、顔立ちも整っており、なかなかの美形だろう。
 女性……だろうか。今までの『勇者』もほとんどは女性だった。その人物は見た目だけでは判断のできない容姿をしている。

「なるほど」
 その声を聞き、ようやく彼の者が女性ではないとわかった。

「突然に呼ぶのは止めにしないか? 僕が風呂にでも入っていたらどうするんだ?」
 ゆっくりと、周りを見回す。

 どうも様子が変だ。今まで私が見ていた『勇者』…… カナエも、ルイも、まずは動揺し慌てふためいていたというのに、この『勇者』はやけに落ち着いている。

 彼の顔に見覚えがある…… そうだ、さっきのあの応接間の肖像画の一番端、初代の『勇者』によく似ている。

「失礼だが…… 其方そなたはもしや、初代の『勇者』と縁のある御方か?」
「何を言ってるんだい? 僕はマコトだよ。以前にもこうして僕を呼んだだろう?」

 そうして名乗った名前は、まさしく話に聞く初代『勇者』と同じものだ。
 彼は皆の顔を一通り見回すと、そこで首を傾げた。
「うん……? おかしいな。僕を知っている者はここには居ないのか? アーネストはどうした?」

 それは古の初代の王の名前だ。その後も次々と名を挙げるが、どれもここには……いやこの場でなくとも、王族にも教会関係者にも居ない者ばかりだ。

 皆が首を横に振るのを見て、ほんのしばらく考え込んでから、また彼は口を開き、
「今は王国歴何年だ?」
 私に、尋ねた。

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(メモ)
 勇者の剣に命を吸われた(#83)
 肖像画(Ep.15)
 (#50)


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