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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#161]122 それぞれの正義

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

122 それぞれの正義

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。冒険者の『サポーター』
・マルクス…上位魔族、魔王の側近の一人。見た目は人間の少年の姿。人間に混ざって町で薬売りをしていた。
・ニール(ニコラス)…王族の『英雄』。リリアンの友人で、前『英雄』クリストファーの息子
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役。アシュリーの生まれ変わりであるリリアンに執心している。
・デニス…リリアンの先輩で冒険者の『英雄』。リリアンに好意を抱いている。
・アラン…ニールの教育係をしていた騎士。勝手に討伐隊を抜けたウォレスの代わりに『サポーター』として同行する事になった。
・マコト…神の国(日本)から召喚された『勇者』

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 父を殺すと言われて平然としていられるわけはない。むしろいきどおったり、戸惑ったりするのが当然だろう。
 魔族の少年マルクスは、それを聞いても怒ったり取り乱したりするような事もなく、不安そうにしながらも私たちとの対話に応じてくれた。

「なあ……マルクスは何の為にダンジョンを造っているんだ?」
 こんな時にはニールの単純さが逆にありがたい。デニスさんやシアさんが躊躇ちゅうちょしていたことを、はっきりと尋ねてくれた。

「うん…… ダンジョンで死んだ奴の魂は、父様の体を癒すのに使えるからさ」
「って、まさかその為に人を殺してるのか!?」
「ち、違うよ! おれにはそんな事できないよ! 強くないって言っただろう?」
 驚いて責めるような口調になったニールに、慌ててマルクスがぶんぶんと首を横に振った。

「ダンジョンを作って、宝箱とか色々と置いておけばニンゲンがやってくるだろう? 後は勝手に魔獣と戦ってくれる。魔獣が死んでもニンゲンが死んでも、その魂が手に入るんだ」
「って……本当にダンジョンを作るだけなのか?」
 拍子抜けをしたようにニールが尋ねる。
「ああ、そうだよ」

「他のヤツらとちがって、ダンジョンを作るだけのこいつは基本的には害はないんだ。むしろ新しいダンジョンが見つければ冒険者たちは金稼ぎができるって喜ぶしな」
 軽くため息をきながら、シアさんが言った。確かにダンジョンを巡る事を本職としている冒険者もいるのだから、ダンジョンを作る事自体をどうこう言えるものではない。

 そのシアさんに向けて、戸惑った表情のままアランさんが言葉を投げた。
「でも今、魂を集めるって言いましたよね。その為に人間を殺してるんですよね」
「ニンゲンだって魔獣を殺すじゃないか。お互いさまだろう? さっきも言ったように、集めるのはニンゲンの魂だけじゃない。それにちゃんとダンジョンの強さに見合った奴しか入れないように仕掛けをしてあるから、一方的に殺させたりなんて事はしていないぞ」
 マルクスが少しだけムッとしたように言う。

「仕掛け、ですか?」
「ああ、だから入り口には最初は鍵をかけてあるんだ」

 その言葉に、記憶の何かがひっかかった。
「その鍵を…… 冒険者に渡しているの?」
「うん、そういう事もある。あとはどこかの宝箱に入れておいたりもするし」
「ワーレンの町の近くに新しいダンジョンがあるわよね。あそこの鍵を冒険者に奪われなかった?」
 そう尋ねると、マルクスはあーーあれかと、思い出したような声を上げた。

「うん…… あの作りかけのダンジョンの鍵……指輪の形だったんだけど、ついうっかり外し忘れててさ…… そうしたら、町で怖いおじさんたちにとられちゃった。金になるって思ったみたい。殴られて蹴られてもう散々でさ。おれ、悔しいから指輪がダンジョンの鍵だって教えてやったんだ」

「何だそれ、ひどいな……」
 話を聞いたニールは、怒ったようにマルクスに慰めの言葉をかける。
 その指輪を奪った冒険者たちが、ダンジョンに居たミノタウロスに撲殺されたのは、ある意味自業自得だったわけだ…… この事はニールには言わないでおこう……

「あそこはまだ作りかけだったからちゃんと設定してなかったんだけど、完成したダンジョンなら最初はダンジョンの強さにあったやつにしか、鍵が開けられないようにしてあるんだ」
「うん……? それってどういう事だ?」
 今まで戸惑うような表情で話を聞いていたデニスさんが、ここで口を挟んだ。

「そのダンジョンよりも弱いヤツには、鍵は開けられないよ。人間って大抵4~5人くらいでまとまってダンジョンに入るだろう? だから鍵を開けられるのも、そのくらいの強さのヤツにしてある」
 マルクスが言っているのはパーティーの事だろう。

「そうか……だからSランクの俺が……」
 彼の言葉を聞いたデニスさんは本当に小さな声でそう呟くと、何故かつらそうな表情になって考え込んでしまった。

「なあ、なんでニンゲンは父様を害そうとするんだ?」
 今度はマルクス少年から私たちに尋ねると、シアさんがそれに答えた。
「お前たちがこの国に攻め込んでくるからだろう?」
「だ、だって…… それは先にニンゲンが……」
 彼は言いかけた言葉を濁すように口籠くちごもると、口をつぐんだまま下を向いてしまった。

 人間には人間の正義があるように、魔族にも魔族の正義があるのだろう。
「なんだか、複雑な気分ですね」
 ぽそりとアランさんが寂しそうな声で呟いた。

「それでも僕たちは世界の為に、魔王を倒さなくてはいけない。僕はだからここに来たんだ」
 マコトさんがその言葉に続いて、すまない……と、獣人の私にしか聞こえないだろう小さな声が聞こえた。
 そこから、誰も声を上げられなくなってしまった。

 あっと思い出したようにマルクスが顔を上げた。
「おれ、もう帰らないと。遅くなると皆が心配するんだ」
 皆……というのは、他の上位魔族の仲間たちの事だろう。奴らの事を知っているシアさんと、互いに複雑な視線を交わした。

「ああ、そうだな。マルクスごめんな、引きとめて」
 奴らの事を知らないニールは、まるで友だちを家から送り出すような言葉をかけた。そんなニールの態度に、マルクスは曇らせていた表情を少しだけ明るくさせた。

「大丈夫。またな!」
 そう言って立ち上がった彼は売り物の入ったマジックバッグを肩にかけると、まるで友だちの家から去る時のように、手を振って当たり前の様に玄関から出て行った。

 マルクスを見送って居間のソファーに戻ると、誰ともなくふぅーーっと深く息をついた。
「しっかし…… なんだかやりにくくなったなぁ……」
 シアさんの言葉に、皆で頭を抱える。

「シアンさん…… どうにかならないのかな? 俺、マルクスと仲良くしたいよ……」
 ニールの言葉に、シアさんもまた困ったように視線を落とした。

 一人だけ、皆とはやや違う表情で考え込んでいたマコトさんが、すっと顔を上げた。
「どうやら君たちは、あいつらとは違うようだね」

「あいつらって? 魔族の事か?」
「いいや、違う」
 教会の事だと、マコトさんはデニスさんに向かって言った。

「君たちは、何故『神の国』から勇者が呼ばれるのか知っているかい?」
「魔王を倒す為、でしょう?」
「それもある。でもその前に『世界を救う為』なんだよ」
「……マコト。それってどういう意味?」
 そう尋ねるニールの額には、幾つもしわが寄っている。

「魔王を倒さなくても、世界は救えるかもしれないって事か?」
 シアさんが尋ねると、肯定の意味だろう、マコトさんは薄く口角を上げた。
「正確には、もう手遅れだけどね……」
 マコトさんはそこで言葉を止めた。それ以上は話してはくれないようだ。
 おそらく私たちはまだ信用されてはいない。

「でも魔王は倒さないといけないです」
 そう、私はギヴリスと約束したのだから。

「そうだね。でもこれで最後にしよう」
 マコトさんは私に向かってうなずいた。

 * * *

 この先の魔族領入りに備え、荷物を整理することになった。
「魔族領に入ると、マジックバッグは使えなくなるからな」
「そうなんですか? そんな記録はどこにもありませんが……」
 アランさんがそういぶかしがるのも当然だろう。

「過去の討伐隊の記録は、何故か後には継がれていないんだ。今回俺が顧問役になったのは、その為でもある」
 マジックバッグから出した物を並べながらシアさんが応える。
「他にも色々あるが…… まあ、リリアンにも教えてあるから、聞くと良い」

 なるほど、そういう事にすれば私が話しても自然に受け止めてもらえる。
 この中で私の前世がアシュリーだと知っているのは、シアさんとデニスさんだけだものね。

「マジックバッグが使えない以上、荷物は必要最低限に抑えないといけません。普通に持ち歩いても日もちのする干し肉などを大量に買ってきましょう。もちろん魔法使いの転移の魔法も使えなくなるので、補充に戻る事はできません。さらに魔族領では結界も張る事はできないので、火を焚く支度も多めに必要ですよね」

「あったりまえだけど宿もねえ。野営の道具も自分で背負って行かねえとな。金はケチらないで軽くて暖かいやつを準備しろ」
「私は獣化すればいいので、大丈夫です」
 そう言うと、皆の視線が私に集まった。

「あーー、確かにリリアンは……そうだな」
「えっ、何それズルい。ってか毛皮はあったかそうだなあ。なあ、俺リリアンと一緒に寝――」
 バシンッ!
 何か言いかけたニールの頭を、アランさんが強めにはたいた。

 ニールが何を言おうとしたのかよくわからなかったけど、ニールの方を見るデニスさんとシアさんがやたらと怖い顔をしている。
 痛そうに頭を抱えているニールを見て、マコトさんがクスっと笑った。

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(メモ)
 ダンジョンの鍵(#35、Ep.14)
 ミノタウロス(#12、#33)
 Sランク(Ep.14)
 魔族領(Ep.8)
 (#32)


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