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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#160]121 少年

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

121 少年

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。冒険者の『サポーター』
・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役。アシュリーの生まれ変わりであるリリアンに執心している。
・デニス…リリアンの先輩で冒険者の『英雄』。リリアンに好意を抱いている。
・アラン…ニールの教育係をしていた騎士。勝手に討伐隊を抜けたウォレスの代わりに『サポーター』として同行する事になった。
・ニール(ニコラス)…王族の『英雄』。リリアンの友人で、前『英雄』クリストファーの息子
・マーニャ(マーガレット)…教会の『英雄』で魔法使い。先代の神巫女でもある、
・ジャスパー(メルヴィン)…教会の『サポーター』で魔法使い。前・魔王討伐隊のメルヴィンの姿に化けている。
・マコト…神の国(日本)から召喚された『勇者』

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「アラクネかー、食えねえんだよな」
「いや、おっさんなら食えるんじゃねえか?」
「気の強い女は嫌いじゃねえが、蜘蛛くもの体は抱けねえよな」
「いったい何の話をしているんですか!!」
 シアさんとデニスさんの調子の良い会話に、アランさんのツッコミが入った。

「相変わらず、アランは真面目だよなー」
 はははと笑いながら、シアさんは皆の後ろに跳び退しさる。
 ここでは自分の助力は必要ないと、そういう事だ。

「えーーっと…… なあ、リリアン。今のってどういう意味だ?」
 ニールが首をかしげながら私に話しかけてくる。って、そんな説明を私に求められても……
「そういう事を女の子に聞いちゃダメよ」
「うぇ?」
 ニールをたしなめたマーニャさんは、ねぇと言うように私ににっこりと微笑む。
 訳が分からず戸惑うニールの肩を、ジャスパーさんが慰めるようにぽんと叩いた。

「で、あれを倒せばいいんだね」
 マコトさんがそう言って、『勇者の剣』に手を添えると、皆の緩んでいた雰囲気が一気に引き締まった。

 目の前には私たちを見下ろす大きな蜘蛛。その頭部に当たる部分には女性の上半身が付いている。あれは正確には人ではない。人の心を惑わせる為にあの姿に擬態しているのだ。

 その事を知らない冒険者はいないが、それでも手にかけるのを躊躇ちゅうちょしてしまう者はいる。そうでなくても、巨大な蜘蛛の体に相手を拘束する魔糸、さらに厄介な毒を持つアラクネは、戦い慣れた上位冒険者でなければ相手にしてはいけない。
 それが1体ずつならともかく一時いちどきに3体も相手にしなければならない。それでも妙な油断さえしなければ私たちにとって恐れる相手ではない。

「いい機会だ。それぞれの連携を見せてもらおう」
 シアさんが私たちの後ろから声をかけた。

「ふふっ。まるで試されているみたいね」
 誰にともなくそう言うと、マーニャさんは一番右手のアラクネに視線を向ける。

「ジャスパー」
 名を呼ばれた『サポーター』は、彼女の隣に並ぶとロッドを振り上げて火魔法を放った。
 二つに分かれた火の球は、振り上げられたアラクネの両の前足のみに当たる。『サポーター』は魔獣にとどめを刺してはいけないのだ。
 怒れたアラクネがさらに迫り、マーニャさんが己の杖をアラクネに向けた。

 それを見て、残り2体のアラクネが獣の叫び声をあげた。
 中央のアラクネにアランさんの風魔法が当たる。それと同時にマコトさんとニールが武器を構えるのを見て、左のアラクネの前にデニスさんと一緒に踊り出た。

「よっし、リリアン。いっちょ見せてやろうぜ」
「はいっ」
 愛用の剣を構えるデニスさんの前に、えて飛び出した。
 手にした鉤爪クローと獣人の機動力で、アラクネの足の間を縫うように駆けて攻撃を与える。ちょこまかと動き回る私に向けて、アラクネの毒液が飛んでくる。
 私に毒液を当てようと夢中になっているアラクネの隙をみて、走りこんできたデニスさんが剣を振り上げた。

 3体のアラクネがその動きを止めたのは、ほぼ同時だった。

 * * *

 アランさんが仲間に加わってからは、ウォレス様には申し訳ないくらいに旅は好調だった。
 私たちに正体がバレたジャスパーさんも、だからと言って何かをしでかすわけでも私たちに嫌な顔をするわけではなく、むしろ口数が増えた。どうやら、口を開くとバレるからと教会に止められていたらしい。

 今のジャスパーさんは、私の知っていたジャスパーさんとは別人のようだ。今の彼はとっても自信家で高圧的で、以前の冒険者をやめると泣き言を並べていた彼とは正反対で。
 でもデニスさんによると、昔の彼はこんな感じだったのだと。
「ったく、懲りてねえな」
 デニスさんが苦い顔でそう言う。でも昔とは違い、今は実力が伴っていないわけではない。慢心からの油断はするなと、その程度しか言えないらしい。

 王都を出立してから二十日程経ったこの日、私たちは一度報告の為に王都へ戻る事になった。
 ジャスパーさんの転移魔法で跳ぶと、着いたのは馴染みのある西門の近くだった。不意に魔法陣から現れた私たちに少し戸惑う門番たちに、挨拶をして門を抜ける。
「ニ-ル」
 以前の呼び方でニールを呼び止めたアランさんがあれを見ろと目くばせをすると、その先を見たニールの顔がぱあっと明るくなった。

「久しぶりだな! 元気してたか!!」
 ニールの駆け寄る先にいるポーション売りの少年に既視感きしかんを覚えた。
「あっ」
 既視感が明確になる前に、シアさんが少し大きく声を上げて慌ててニールの後を追う。何かの予感を感じて私も二人の後を追った。

「うわあ! おじさん!」
「俺はおじさんじゃねえ!」

 ニールよりもシアさんに驚いた少年が慌てて逃げようとしている。スピードを上げて二人を追い越し、少年の腕を掴んだ。
「な、何するんだよ! おれは何にもしていないのに!」
「何もしていないのならなんで逃げるんだ?」
「おじさんに見つからないように、逃げてたんじゃないか」

「悪い事はしません。話をしたいだけですから」
 そう言った私の顔を見て、きょとんとした彼は、もう一度私の顔を見てから驚いたように目を見張った。
「君か…… 君も居たんだね」
 諦めたようにそう言うと、抵抗しようとしていた腕の力を抜いた。

「私がわかるのね。マルクス」
 彼の名を呼ぶ。魔王の側近の一人、上位魔族のマルクスだ。
「うん、君の魔力の匂いはうすうすと感じていたよ」
 そう言って、見た目の幼さの割に大人びた表情でふぅと息を吐いた。

 * * *

 普通に旅をしていたら、おそらくマルクスには会わなかっただろう。
 どうやらシアさんの存在に気付いていて、彼の行く先を避けて移動してたらしい。魔族の彼も、魔力の匂いを嗅ぎ分けることができるそうだ。
 今回はこうして前触れもなく転移で帰って来たので、事前に逃れる事ができなかったのだろう。

 家に上げてお茶を出しても、マルクスはまだ警戒を解こうとはしていなかった。
 さっき言ったように話を聞きたいだけなのに。見た目は私よりずっと幼い少年だし、なんだか調子が狂ってしまう。

「ワーレンのダンジョンを作ったのも、マルクスですよね?」
 お茶菓子を勧めながら尋ねると、こくこくと大袈裟おおげさに首を縦に振った。
「うん…… おれ、皆みたいに戦うのは得意じゃないからさ。ああやって色んなものを作って稼ぐしかなくて……」

「へっ!? ダンジョン??」
 当たり前のように私の家にまでついてきて居たニールは、私たちの会話を聞いて変な声を出した。
 ニールにとって、このポーション売りの少年マルクスは『友達』なんだそうだ。

「ダンジョンの何を作るんだって??」
 まだ状況を把握できていないニールが、答えを求めるように私の方を見る。
「ダンジョンそのものですよ。彼はダンジョンクリエイターです。デニスさんが昔入ったダンジョンも彼の作だと思います」
 最後はデニスさんの方を向いて伝えた。

「……言っていたな。ワーレンのダンジョンと製作者が同じだろうって」
「はい、しかも新しい物だったので、まだ彼の魔力の残り香があったのでしょう。匂いを嗅げない人間でも気配のようなものを感じたはずです」
「今、ダンジョンを作っているのはおれだけだから……」
 マルクスが横から遠慮がちに言葉を挟んだ。
 
「……シアン様、リリアンさん…… 彼は何者ですか?」
 アランさんは私たちの会話を聞いていて、何かに気が付いたのだろう。不安そうな顔で答え合わせを求めた。

「魔族だよ。魔王側近の上位魔族だ」
「えええええええ!!!!」
 シアさんの言葉に、ニールが隠しもせずに大声を上げた。

「彼には何度も会っていたのに…… そんな事、ちっとも気づきませんでした」
「そりゃあそうだろう。こいつは魔族らしくなさすぎる。普通のやつらにはわからないさ」
「多分、今までもこんな風にあちこちを巡っていたのでしょうね」

「うん、おれは他のやつらよりも見た目が人間に近いから。バレた事は一度もない」
「ずっと起きていたの?」
 そう尋ねると、うんうんとまた首を縦に振った。
「でも別に悪い事はしてないよ。ダンジョンを作って、あとはああしてポーションや道具を売ってたくらいで」

 まだ驚きを抑えきれないニールが、私たちの会話に割って入る。
「そうだ。お前の父さんの体が弱いから、その為に稼ぐんだって…… え…… もしかして、父さんって……」
 自分の言葉につまづいて、またニールの口が止まった。

「魔王だろう?」
「ああ、ニンゲンは父様のことをそう呼ぶな」
 あっけらかんとしたシアさんとマルクスのやり取りに、デニスさんが首を傾げた。
「つまり、魔王が弱ってきているって事か?」

「それは前からだろう?」
 今まで黙ってお茶を飲んでいたマコトさんが、さらりとした言い方で口を挟んだ。
「僕が最初の『勇者』としてこの世界に来た時からずっと、魔王は弱り続けている。すでにだいぶ力を失っているようだが……」

「そうだ。父様は前よりもっともっと弱っている。だから、おれたちがどうにかしないと父様が死んでしまう」
 悔しそうにマルクスが言うと、皆が複雑そうな表情をした。それもそうだろう。私たち討伐隊は、その魔王を倒す為に選ばれているのだから。

「あーー…… 俺たちは一応、魔王討伐隊で…… 魔王を倒す為に旅をしているんだが……」
 困ったようにデニスさんが言うと、マルクスが泣きそうな顔になった。

「リリアンさん…… 彼は本当に上位魔族なんでしょうか? それにしては、だいぶ……」
 アランさんが言い難そうに言葉を濁す。言いたいことはわかっている。
「確かに他の上位魔族のような強さや恐ろしさは彼にはありません。でもあれだけのダンジョンが作れるのですから、決して力がないわけではないと思います」

「……なぁ、シアンさん…… これ、どうすればいいのかなぁ?」
 一番戸惑った様子のニールが、すがるような声で言った。

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(メモ)
 ポーション売りの少年(#19、#100)
 マルクス(#79)
 ワーレンのダンジョン(#15、#17、#33)
 父様(Ep.5)


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