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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#159]120 『サポーター』/ニール(2)

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

120 『サポーター』/ニール(2)

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・ニール(ニコラス)…王族の一人。前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーの生まれ変わりであるリリアンに執心している。
・デニス…リリアンの先輩でSランク冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・マコト…神の国(日本)から召喚された、今回の『勇者』

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 ウォレスが居なくなってから、さらに転移の魔法で町を二つ跳んだ。訪れた町の名前は聞いたけれどそれがどこに位置する町なのかが全くわからない。
 一応勉強もしたハズだけど、街道沿いの大きな町ならともかく、街道を外れた小さな町の名前まではさすがに憶えていない。

 報告の話をすると、マコトも手伝ってくれる事になった。『神の国』では文章をまとめたりする仕事もしていたそうだ。心強い。
 さらにデニスさんを加えた3人でリリアンの部屋を訪ねる。リリアンにも事情を話すと、マジックバッグから1枚の地図を出して見せてくれた。

「うわ、すごい……」
 地図には至る所に書き込みがしてある。町の情報はもちろん、ダンジョンの場所や、魔獣の生息地、変わった薬草の繁殖地なんかも書きこんである。
 でもところどころに読めない文字も書かれていた。

「これはニホンゴだね」
 その文字を見て、マコトがそんな事を言った。
「はい。マコトさんの国の文字ですよね」

 つまりこれは『神の国』の文字らしい。リリアンもこれを読めるんだろうか? 
 でも少なくとも俺は見たことも聞いたこともない。もちろん学校や教師から習える物でもない。
 それなのに、なんでリリアンにはわかるんだろう?

「今まで行ったのはこの町とこの町と――」
 そんな疑問を口にする間も与えられずに、リリアンが地図のあちこちを指で差す。
 町の名前を読み上げてくれるので、手元のメモに書き留める。どうやら国中を縦横無尽じゅうおうむじんに跳んでいるようだ。

「で、今いる町はここですね」
 リリアンが差した先を見ると、覚えのある地方の名前が書かれていた。

 そりゃそうだ。ここは俺が育った地方だ。リリアンの指から視線を少しずらすと、懐かしい町の名前も書かれている。

「なあ明日さ、ちょっとだけこの町に寄れないかなぁ」
 そう言って俺が指差した場所を見て、リリアンの耳がぴくりと震えた。

 見事、討伐隊に選ばれたというのに、母様には手紙で報告したきりだ。
 母様に報告をして、褒めてほしい……なんて、子供っぽいだろうけど。でも母も元は討伐隊の一員だった人だ。きっと喜んでくれる。

「うん? ここに何かあるのか?」
「俺の故郷なんだ。母様に挨拶に寄りたくてさ」
「いいんじゃないか? シアンさんに話してみよう」
 デニスさんの言葉に、リリアンはにっこり微笑んで、マコトもうなずいて賛同してくれた。

 * * *

 俺の故郷に寄り道をしたいと話すと、シアンさんも快諾かいだくしてくれた。
 マーニャさんとジャスパーは教会に用事があるからと別行動をすることになった。
「まあ、アレクがいるからな。遠慮しているんだろう」
 シアンさんがそう言った。

 マーニャさん……つまりマーガレット様が神巫女だった時と、母様やシアンさんが討伐隊だった時はちょうど同じ頃合いだ。シアンさんの口ぶりからすると、気まずい様な事でもあったのかもしれない。
 それに用事があるのなら、わざわざ付き合わせるような事でもないと、そう思った。

 俺の故郷は大きな街道から外れて山の方に向かった所にある、小さくてのどかな田舎町だ。
 その町の外れに、生まれた時から母様と過ごしていた屋敷がある。

 貴族の家としては、かなり小さい方らしい。
 でも俺と母様だけの二人家族で、俺にとってはこれでも十分に広い家だったし、使用人も最低限しか入れていなかった。王都で他の貴族の家を見て、でかさにびっくりしたほどだ。

 自分の家なのに、まるで来客のように屋敷の扉を叩く。
「どなたですか?」
 と、若い男性の声がして、あれ?と思った。

 執事はいるけれど爺さんのハズだ。こんなに若い声のわけはない。それにどうにも知っている声に思えた。
 首を傾げている俺の代わりに、シアンさんが前に出て名乗ると、ゆっくりと扉が開いた。

「いらっしゃいませ。まさかこちらにいらっしゃるとは思いませんでした」
 内から扉を開けて頭を下げたのは、つい十日と少し前まで一緒の家で暮らしていた、俺の教育係で騎士のアランだった。

 * * *

「ニコラス様の護衛兼教育係の任を終えまして、次の任にアレクサンドラ様の屋敷の護衛を志願したのです」
 そう教えてくれたアランの表情が少し緊張しているように見えるのは、座っている場所のせいだろう。
 アランの隣では、母様がにこにこと嬉しそうに笑っている。
 最初にアランが、自分は護衛騎士だからと離れたところに立っているのを、命令だと言って無理やり自分の隣に座らせたのはこの人だ。

「ニールがいかに王都で頑張っていたか、アランが事細かに教えてくれたよ」
「ニコラス様が討伐隊に入ったので、またしばらく故郷には帰れないだろうと思いまして。せめてこの1年間のニコラス様の様子をお伝えしようと」
「あのウォレスを負かしたそうじゃないか」
 昔の仲間のシアンさんが居るせいもあるのか、珍しく母様が客への口調を『作って』はいない。

「ああ、あの試合はなかなか良かったぜ」
 ご機嫌な母様の言葉に、シアンさんも調子よく答えた。その向こうに座るデニスさんはアランよりもさらに堅い表情をしている。
 リリアンはここでもマイペースに美味しそうにお茶を飲んでいて、俺の隣に座ったマコトは、君のお母さんさっぱりした感じのいい人だね、と俺にこっそり耳打ちをした。

「まあ、結局そのウォレスは討伐隊をやめちまったけどな」
 シアンさんの言葉に、おやと言うように母様が目を見張る。
「何かあったのか?」
 と、今度は俺に向かって言った。

「ああ…… 俺と一緒は嫌らしい」
「ニールにつくのは嫌なんだとさ」
 俺に続けたシアンさんの言葉に、母様は苦い表情でため息をいた。
 普段何を言われているとか、どんな事をされているとか、そんな話を母様の耳に入れた事はなかったはずだけれど、母様にも何か思う事があるのかもしれない。

「それなら、代わりにアランを連れて行ったらどうかな?」
「え!?」
 母様の提案に声が出た。アランも驚いて母様の方を見ている。

「ああ、アランなら適任だと思います」
 少し場に慣れて来たらしいデニスさんが、母様の言葉に賛同する。それを聞いて、母様はにっこりと微笑んだ。
「それはいい案だな。どうだアラン、一緒に来ないか?」
「い、いや。私にはここの護衛の任が……」
 戸惑うようにシアンさんに言い訳をするアランの肩を、母様がポンと叩いた。

「私の大事な息子を任せられる者はそうはいない。アランなら、私は安心できるし、嬉しいんだけどな」
 そんな風に自分の話を目の前でされると、どんな顔をしていればいいかわからない。

「それにここの護衛の任はお前でなくてもできる。でもニールをちゃんと守って、怒って、しつけてくれるのは、誰にでもできるわけじゃないだろう」
「……アレクサンドラ様」
 母様の言葉にうなずいたアランを見ていると、なんだか嬉しいような恥ずかしいような不思議な気分になってきた。 

「ニール、またアランと一緒に居られて、お前も嬉しそうだな」
「ええっ!? そんなことはないけどっ」
 慌てながら否定すると、シアンさんがニヤニヤしながら俺の髪がぐしゃぐしゃになるほどに撫でた。

 一緒に居られるからとか、そういうのじゃなくてさ。けれどさ、アランは俺に色々と教えてくれるし、騎士として爺様のもとでも仕事もしてたから、王族の事もわかっているだろうし、それに冒険者もしてたから……

 いろんな言い訳が頭を巡る。そんな俺を見て、アランはぷっと吹き出した。

は、また以前みたいに私に怒られたいみたいですね」
「な、なんだよーー 怒られるって決まったわけじゃないだろう?」
 何故か表情が緩みそうになるのと、ふてくされたふりで誤魔化ごまかした。

「ニールを頼んだよ、アラン」
 そう言いながらも、母様まで笑っている。いつの間にか俺以外がみんなで笑っていて、でもなんだかあったかい様な、そんな感じがした。

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(メモ)
・アラン…デニスの後輩のAランク冒険者で騎士。騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしていた。
・アレクサンドラ…ニコラスの母親で、元魔王討伐隊の『サポーター』。シアン、アシュリーたちの昔の仲間の一人。

 地図(#31、#89)
 次の任(#114)
 (閑話4)


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