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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#158]120 『サポーター』/ニール(1)

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

120 『サポーター』/ニール(1)

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女
・ニール(ニコラス)…王族の一人。前『英雄』クリストファーの息子で、現国王の甥
・ウォレス…シルディス国の第二王子。ニコラスの事を卑下している。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーの生まれ変わりであるリリアンに執心している。
・マーガレット(マーニャ)…先代の神巫女でもある、教会の魔法使い
・デニス…リリアンの先輩でSランク冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・マコト…神の国(日本)から召喚された、今回の『勇者』
・ジャスパー(メルヴィン)…デニスの後輩冒険者。前・魔王討伐隊『英雄』のメルヴィンの姿に化けている。

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 王都を出てから十日ほどが経った。
 討伐隊としての旅はこんなにも慌しいのかと、正直驚いている。

 いや、のんびりとした旅になるのだと楽観視していたつもりは無い。でももっと街道を歩いたり馬車に揺られたりする時間もあるもんだと思っていた。
 結局そんな時間は最初だけで、あとはほとんどなかった。
 街での用事が終われば、さっさと次の町に一瞬で移動する。またその町での神器の所持者を訪ね、用が終わればその日のうちにさらに別の町に向かうこともあった。

 そんな事を繰り返す。
 神器集めも大事な事なんだろうけど、こんな事で本当に魔王を倒せるのだろうか、皆の為になっているのだろうか、なんだかわからなくなりそうだった。

 旅の最中でも、リリアンたちは毎朝早く起きて鍛錬をしている。
 その後は洗濯やら旅の荷物の手入れやら補充やら。こういう事は『サポーター』の仕事なんだと、シアンさんが教えてくれた。
 でも汚れ物を皆の部屋に取りに来るのは毎回リリアンだし、どうやら洗濯もそれ以外の雑事もデニスさんが手伝って二人だけでやっているみたいだ。

 だから、俺も手伝う事にした。
 冒険者だった頃と同じように、またリリアンに色々教えてもらえる。こうして知らない事を覚えるのは嬉しいし、リリアンたちとおしゃべりしながら洗濯するのも悪くない。こういう仕事をするのも嫌いじゃあないし、ちょっと楽しい。

 そうしたら、マコトも手伝ってくれるようになった。
「ずっと一人暮らしをしていたからね。家事をするのは慣れているよ」
 さすがにマコトは『勇者』なんだからとリリアンは止めたけれど、結局今朝もこうして皆でおしゃべりをしながら仕事をしている。

 そんな俺たちを見ても、ウォレスは手伝おうとはしなかった。
「手は足りているんだ。別に俺がやらなくてもいいだろう?」
 ウォレスは俺たちに向かって、そう言い捨てた。
 シアンさんがあいつに言ってくれても、ウォレスはちっとも変わらなかった。
 それどころか、いくら先代の討伐隊の一人であっても、ただの冒険者のシアンさんに偉そうにされるのが気に入らないようだった。

 とうとうウォレスがイラついたように皆に宣言をしたのは、宿の食堂での夕食の時間が終わる頃だった。
「俺は帰る」

「えっ…… 帰るって、どこに?」
 つい反射的に聞いてしまった俺に、いつものように馬鹿にした視線を寄越す。
「王都に決まってるだろう? お前と違って、俺は田舎の山猿じゃないんだ」
 俺に向かって、相変わらずの棘だらけの言葉をぶつけると、改めて皆を見回した。

「こんな山猿の下について戦うなんて、まっぴら御免だ。そのうちに殴り倒して腕輪を奪ってやろうと思っていたが、気が変わった。もうお前らと仲良く旅をするつもりもないし、俺は俺のやり方でやらせてもらう」

「でも貴方は『サポーター』なのよ。討伐隊の任務はどうするの?」
 いつも色っぽいマーニャさんの言葉も、今はあきれた声に聞こえる。
「『英雄』と違って、別に居なくてもいいんだろう? なんなら、そいつがなればいいじゃないか。ともかく、もう俺は下りる」
 シアンさんを指さして言った。

「では、その剣を置いて行ってください」
 リリアンの言葉に、ウォレスは彼女をジロリとにらんだ。
「それは、ニールのお父様、クリストファー様の剣です。本来なら次の『英雄』が継ぐべきものでしょう。討伐隊の一行であるならともかく、そこからも抜けるのであれば、貴方には持つ資格はありません」

「チッ」
 ウォレスは皆にもはっきりと聞こえるほど大きな舌打ちをすると、無造作に腰のベルトを解いて剣を外し、俺に向かって投げて寄越す。

「ふんっ。ほら、やるよ」
 不満げにそう言うと、そのまま自分の部屋に上がって行ってしまった。

「……はあーーーー……」
 シアンさんが大きなため息をく。

「すまない、皆。俺のせいで」
「いや、おっさんのせいじゃないだろう」
 デニスさんもはぁと息を吐きながら言った。

「まあ、いいんじゃないか? 彼の言うとおりに『サポーター』は居なくてもいいものだしね」
 マコトもそんなことを言う。
「正直、神の加護を受けていてもアイツでは力不足だったしな」
 ジャスパーにまでそんな事を言われるなんて……

「俺らん時の討伐隊はこんなんじゃなかったんだけどな」
「まあ、あの時とは随分とメンバーが違いますしね」
 二度目のため息をついたシアンさんを、慰めるようにリリアンが言った。

 * * *

 翌朝早くにウォレスは一人で王都へ向かったらしい。アイツの部屋は裳抜もぬけの殻になっていた。

 リリアンとシアンさんは早朝にウォレスが出立するところを見かけていたらしい。でもえて止めもしなかったと。
「まあ、仕方ないですよね」
 ちょっと困ったような笑顔で、リリアンはそれだけ言うと自分の部屋に上がっていってしまった。
 そのリリアンが実はウォレスに迫られていたことを、その後でシアンさんから聞いて知った。

 俺のせいじゃないかと、そう思いかけたところで、わしゃわしゃとめいっぱい両の手で頭を撫でられた。
「余計な事を気にするんじゃねえぞ。リリアンにちょっかい出したのはウォレスで、お前じゃねえんだから」

 シアンさんはそう言いながらも全く手を止めようとしない。
「それより、いなくなったのは王族の『サポーター』なんだから、お前がやらなきゃいけない事も増えるんだからな。頑張れよーー」
「へっ!?」
 やらなきゃいけない事ってなんの事だ!?
 一瞬でその事で頭がいっぱいになった。

「おいおい、ニールの髪がすごい事になってるぞ。どうしたんだ?」
 デニスさんの笑い声でシアンさんの手が止まっても、頭の中ははてなマークでいっぱいになっている。

「なあ、やらなきゃいけない事って、魔王討伐の事??」
「それもそうだけど、王族なんだから旅の報告とかもしないといけないんだろう?」

 ああああああああ!! そうだ、確かにそんな事を言われてた。
 
「な、な、な、なにすればいいんだろう??」
 爺様からその話があった時に、俺はまだ成人したばかりだしそういう業務に慣れていないからって、ウォレスがやるって話になってたんだ。
 でもウォレスがいなくなったのなら俺がやらないと。

「ひとまず報告の為に、今まで行った町の事はまとめておいた方がいいんじゃねえか? 今晩にでも手伝おうか?」
「ありがとう、デニスさん。色々教えてほしい……」
 デニスさんの優しい言葉に、少し不安が薄らいだ。


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