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【連載小説】ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい[#144]109 闘技大会

ケモ耳っ娘になったからにはホントはモフられたい~前世はSランク冒険者だったのでこっそり無双します~

109 闘技大会

◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…前世(前・魔王討伐隊『英雄』のアシュリー)の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。神から貰った力で、スキルの偽装や姿を変える魔法を使う事が出来る。
・デニス…Sランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・シアン…デニスの兄貴分のSランク冒険者。前・魔王討伐隊の一人で、今回の討伐隊の顧問役
・ケヴィン…人間の国シルディスの先代の王で、2代前の『英雄』
・アラン…デニスの後輩のAランク冒険者。騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしていた。

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 闘技場の客席は民衆で埋め尽くされていた。

 娯楽の乏しいこの国で、約20年毎に催される闘技大会は、民衆の最大の楽しみとなっている。
 魔王を討伐する為の、神聖な儀式の一つであるはずなのに。おそらく緊張感を抱いている者はわずかしかいない。

 何故ならば、シルディスのほぼ中心にある王都にまで、魔族の侵攻はほとんど届かないからだ。
 魔族復活の兆しとして、まず国境近くの何かが消える。それは山であったり、草原であったり、町や人里の事もある。
 それからしばらく後、魔族は人の国への侵攻を始める。しかし、王都を目指す魔族たちのほぼ全てが、王都に辿り着く前に討伐隊一行か騎士団により制圧される。
 そして大きな被害がではじめる前に、討伐隊が魔王を倒し国に平和が戻る。

 まるで筋書きでもあるかのように繰り返されるこの流れに、民衆は慣れてきてしまっているのだ。

 今回の闘技大会に、前・魔王討伐隊の一人であるシアン・ギャレットの弟子が二人も出場しているのだと、どこから沸いたのかそんな噂が冒険者たちの間でもちきりになっている。
 デニスさんがシアさんの弟子と呼ばれるのはわかるけれど、私は違う。でも周りからはそう見えるのだろう。でも別に否定する必要もないし、わざわざ本当の事を主張する気もない。

 そして、どうにも一部の冒険者たち――特に中央地区の貴族の坊ちゃん冒険者たちは、この事が面白くないようだ。ただでさえ狭き門なのに、有力な戦士の参加はそりゃあ歓迎はされない。もしくはコネか何かを使って通過するつもりだとも思われているのかもしれない。

 さらに西以外の地区の冒険者ギルドマスターたちも、遠回しに不満を言い立てたのだと。
 自分が取りまとめているギルドを贔屓ひいきにしている冒険者が名を上げれば、より高難易度で信頼度の高い依頼が集まる。そしてさらにそれを目当てに冒険者たちも集まってくる。
 その名声を西ギルドに独り占めをされるのは、彼らにとっても喜べない事なのだ。

「前回もアッシュと俺がとっちまったからな。まあ文句を言うやつは誰が選ばれたとしても、それが身内じゃなきゃ文句言うもんだよなあ」
 そんな話をしながら、シアさんが意地悪そうな笑みを見せると、彼の細い目はさらに細まって、まるで悪人のような笑い顔になった。

 冒険者カードのランクは、今朝一番でAランクに書き直してもらった。
 予選では教会の魔法使いにステータスを鑑定される。高すぎても、低すぎても不自然だ。『偽装の魔法』でギリギリ不自然でない程度に調整しておいた。

 予選を終えると、残った冒険者は100名ほどになる。
 例年なら、ここからさらに人数を絞ったうえで、民衆の前でのトーナメント形式になるけれど、今回は全員まとめて闘技場に集められた。

 案内されて上がったステージは、前回よりかなり広い。シアさんに指示されていた通りに、デニスさん、アランさんとはそれぞれに離れて場所を取った。

「なんで闘技大会に獣人が出てるんだよ!?」
 不意に肩を強く叩かれ、そのまま弾かれるように地面に倒れた。体を起こしながら振り返ると、見知らぬ男性がひどく憎々しげな顔で私を見下ろしている。
 少なくとも西の冒険者ではない。装備の豪華さからすると、おそらく貴族の坊ちゃん冒険者だろう。

「なあ! 獣人は闘技大会には出られないんじゃないのか?」
「……前例がないだけで、禁止はされていないはずです」
 周囲に主調するように声を荒げる彼に向かって言いながら、立ち上がって砂を払う。

「そうなのか?」
 彼が納得のいかない表情で、かたわらに居る審判に尋ねる。審判がうなずくのを見ると、不満げに捨て台詞を吐いた。
「チッ! 女神の加護も受けられねえヤツに討伐隊が務まるわけがない」 

 こんな事をするような人に女神シルディスが加護を与えるとは思えないのだけど…… それを言っても厄介ごとが起こるだけだろうと、口をつぐんだ。

「お前ら、俺の愛弟子たちが参加しているのが面白くないんだろう? どうせ敵わねえもんなあ」
 闘技場内にシアさんの声が響き渡った。

 先王の横で身を乗り出しながら言った彼を制するように、先王ケヴィン様が立ち上がり、そして宣言した。
「顧問役のシアン殿からの提案で、今回の闘技大会は少し趣向を変えて開催する事とした」
「ちまちまと一戦ずつやっていても面白味がない。前回まではトーナメント戦だったが、今回はバトルロイヤルでやってもらおう。自分のやりたい奴からやればいい。なんなら気に入らないヤツに皆で一斉にかかってもいいんだぞ?」
 闘技場にいる全ての者に聞こえるよう、風魔法で広く届けられた二人の言葉に、皆がざわついた。

「デニス、リリアン、どうだ?」
 わざとらしく、私たち二人に答えを求めてくる。って、いまさら拒否は出来ないだろうに。

 手を上げて応えると、周りの視線が私とデニスさんに集中した。
 なるほど、離れて場所を取るようにと言われたのは、一人ずつで戦えるように。さらに互いに巻き込まない為もあるのだろう。

「ポーションも回復師もたっぷり用意してあるんだろう? じゃあ、遠慮はいらないよな?」
 そう言いながら、シアさんも私たちに向けて手を上げて返した。

「いいのかね?」
「いいんじゃね? このくらいでやられる二人じゃねえし。一人で大勢を叩きのめすところを見せた方が、リリアンが選ばれる事に反対するヤツも居なくなるだろう」
 ケヴィン様とシアさんはもう風魔法を使っていない。でも私の狼の耳には二人の会話が聞こえてくる。

「俺らの目的通りに事を進めると、今回も冒険者の代表が二人とも西ギルドから選ばれる事になる。さらにニールもギルドの冒険者だ。そうなれば、他の地区のヤツは面白くないだろう。だから文句がつかないように、ここでハッキリと力の差を見せつけておいた方がいいんだよ」

「大した自信だな」
 ケヴィン様の声に続いて、くくっとシアさんの笑い声が聞こえた。
「これだけ炊き付ければ、殆どのやつらはまずあいつらを潰しに行くだろう? 俺のアッシュがこのくらいでやられる訳はねえよ」
 彼が、私をアッシュと呼んだのが聞こえた。

 全く……シアは私を見せ物にしようとしている。わざとらしいパフォーマンスもその為だろう。
 でも別に嫌ではない。彼は、私が勝つと信じているのだ。

 審判の試合開始の号令と共に、大勢が私を目がけて走って来た。

 ――今まで、出来るだけ目立たぬように気をつけてきたのには訳がある。
 前世より、教会には何かがあると思っていた。私のこの特別な力が、彼らに知られれば自由に動く事はできなくなる。私は魔王討伐隊に入らなくてはいけないのだ。それまではできるだけ普通の冒険者に紛れていた方がいい。

 でももう隠す必要はない。

 前世で魔王討伐隊に入る前の私のランクはSだった。
 勇者の一行となった事で『神の加護』を受け、私はSSランク相当に上がっていただろう。
 だろう、というのは鑑定が出来ないからだ。鑑定をして表示されるランクはSまでで、それ以上は無い。

 討伐隊の一行は、魔王を倒しパーティーが解散になると『神の加護』の効果は消え、元のSランク……いや、稼いだ経験値の分は上がっているのでS+ランク程度に戻る。

 私はリリアンとして生まれた時に、『死んだ時のアシュリーのスキル』をそのままで有していた。
 アシュリーは討伐隊に入った状態で死んだ。
 という事は、生まれた時からSSランク相当のスキルと『神の加護』を持っているという事だ。そこからさらにリリアンとして経験値を積み、爺様の訓練まで受けている。

 全てのかせを外した身は、驚くほどに軽かった。

 私に向かってくる者たちは、無駄に高そうな装備を身に付けている者ばかりだ。さっき私に言いがかりをつけたあの男性も混ざっている。金の力でランクをあげ、袖の下を使って予選を抜けてきた、貴族出身の者たちだろう。
 少女の私になら簡単に勝てると、そう思われている。

 考えなしに突っ込んでくる者たちを、に向かって避けると、勢いの止まらない者たちは右から左から前から後ろからぶつかり合い、それぞれが構えた模擬剣で互いを傷つけあった。
 気付いて足を止めた者も、後ろから走りくる者に追突されて倒される。

 混乱するステージに降り立つと、目の前に居る冒険者たちの模擬武器を順に弾き飛ばす。場外にまで出た物はもうステージには戻せないルールだ。
 それでも素手で向かってくる者を、気絶させ、もしくは場外に投げ飛ばした。
 

 制御を外した事で、むしろやりすぎて皆を潰してしまいそうだ。慌ててこっそりスキルを抑制した。
 そんな操作も『スキルの偽装』を最上位レベルで発動させているので、教会の『鑑定』には全くひっかからない。

 次々と相手をあしらいながら、ドリーさんに言われた言葉を思い出す。

 ――人間の使う借り物の神秘魔法が、主から直接たまわった神秘魔法を破れる訳はありません――

 教会の神秘魔法を借り物だと言った。
 そして、私の神秘魔法は、神から賜った『本物』なのだと。

 私は何――――――

 一瞬思考が切れ、次に気付いた時には周りで立つ者がだいぶ減っていた。

「爺さんのシゴキに比べたら可愛いもんだな」
 デニスさんの声と一緒に、彼にのされた冒険者の鈍い悲鳴が聞こえた。

 殆どの冒険者をなぎ倒してしまうと、私以外で立っているのは、デニスさんとアランさんだけになった。

 私もデニスさんも、アランさんに手心を加えたわけではない。
 彼は彼で、他の者たちと周囲で戦いつつ、様子をうかがっていたのだろう。
 見ると小さい擦り傷が幾つも出来ている。手にしている模擬剣は最初に持っていた物ではない。途中で失って、別の者から奪ったのだろう。

 こんなに乱戦になれば、あれが普通なのだ。
 一時いちどきに何人もの冒険者を相手にして、こうして立っているアランさんもそれなりには強い。彼は私の鍛錬にも耐え抜いた。その成果がこの結果に十分に現れている。
 ただ今回は、二番手までに入れなかっただけだ。私たちがいる所為せいで。

 アランさんは、私でなくデニスさんに挑戦する事にしたらしい。
「お前とこんな風にやるのは、本当に久しぶりだな」
 そう言うと、デニスさんは模擬剣を構え直した。
「胸を借ります」
 そう答えて、アランさんもデニスさんに模擬剣を向けた。

 アランさんは誰にでも敬語を使っていて、区別がないので忘れそうになるが、あの二人は先輩後輩の間柄なのだ。
 私が王都に来る以前には、デニスさんがああしてアランさんを鍛えていた頃もあったのだろう。

 アランさんが踏み込み、それを見てデニスさんも動いた。交わす剣は互いに押さず、他の者たちよりはかなり長く続いた。
 しかし、デニスさんがもう一段階本気度を上げたところで、戦況が変わった。

 最後はデニスさんがアランさんの剣を飛ばし、その眼前に切っ先を突き付けたところで、二人の戦いの決着はついた。

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(メモ)
 (#32)
 また(Ep.8、#58)
 SSランク(#12)
 ドリーの言葉(#29)


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