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遠い記憶  十七話

私は、学校で一番好きだったのは、図画工作の時間だった。
絵を、描いたり、何か作るのは、本当に楽しい時間だった。
毎年の様に、秋の作品展では、市の作品展に出たり、
県の作品展にも選ばれ、賞を頂いた。

しかし、母は一度も、作品展に足を運ぶ事は無かった。
賞状も、毎年の様に頂いたが、

いくら、見せても、鼻先でフンと言うばかりだった。
何気に、絵描きさんに、なりたいと言うと。

馬鹿が!
そげんなもんでは、食えんと一言。

小説家になりたいと言うと。
馬鹿が!
そげんなもんでは、食えん。判らんとかー。

何もかもが、母の理想では、無かった。 

日頃から、服も自分で、既製品をほどき、新聞紙に
写し、型紙を作り、見よう見まねで、作って着ていた物だった。

母は、背が低く、既製品があわず、
服を、手直しに出していた。
その仮縫いに、着いて行った事がある。

この子ね~この服、自分で作ったんやよと母、
すると、その先生
へ~、凄いね~と、
私の作った服の、裏始末を、見る為に、ちょっと、
袖の裏を見る。

その時、思った。
えーっ。
服縫って、お金貰えるの!

確かに、どれだけ、賞状貰っても、お尻も拭けない。
かと言って、画用紙にも出来ない。
売れる訳でも、無い。
賞状いくら、貰っても何の役にも立たない。

服を作るのは、好きだった。
好きな事して、お金貰えるって事は、私には、大きな発見だった。

私は、その時思った。

資格取ろう。
洋裁の資格取ったら、食べて行けるかも。

あれは、6年生に、上がるかその前だったか。
約6年過ごした、お宮を出る事になった。

お宮から、100メートル程先にある、駅前の一件家、
家の、半分を間借りである。
それでも、社務所より、遥かにいい。
まともな、家だ。

部屋は、5部屋ある。
台所は、昔の土間である。
釜戸もあった。
風呂も、屋根がある。
当時は、凄いと思った。

早速、一部屋、私の部屋が出来た。
弟も、自分の部屋を持った。

台所の土間は、父がフローリングにした。
トイレは、相変わらず、外のポットンである。
中庭もあり、
それまでとは、全然違う。
まともな家だ。
雨漏りも無い。

一時、幸せを、感じた。

それから、間もなく、弟と遊んでいた時の事。
弟が、姉ちゃん、尻破けとる!

私は、何だろうと、パンツを見ると、
真っ赤に染まったパンツ。

訳判らず、母の元へ。
母は、何とも、めんどくさそうな顔。

来たんじゃ無いか?と、言う。
来たって、何が来たんだろうと。

そこへ、母は、自分の生理用の、ショーッを私に、投げて渡す。
母の投げた、それは、私の顔へ。

それ、履いとけと。
汚れたパンツは、洗っとけよ!と、

私は、ハイと言いながら、風呂場へ。
母の生理用のショーッを、履いても、赤いのは止まらない。

私は、ちりしを、何枚かたたみ、当てた。
次の日、私は、意を決し、医務室へ。

そこで、医務院の先生が、ゆっくりと、おしゃべりしながら、
ちりしを、何枚か折り芯にして、その上に脱脂綿でくるみ、
ナプキンを、3個程、作ってくれた。
その、使い方も丁寧に教えてくれた。

その後、数日経ってから、母は、弟と私を連れて、バスに乗る。
着いた所は、市内で一つしか無い、デパートである。

その、デパートは、毎年秋の作品展で、私の作品が並ぶ所である。
デパートに、入る入り口で、母は私の手の中に、千円札を握らせた。

何だろうと、思いながら、着いて行くと、
母は、婦人服の下着売り場に、私を置き、弟の手を取り別の場所に。

一人取り残された私は、辺りを、見渡す。
マネキンが、ブラジャーを、着けている。
又、大人用の下着がづらり。

私は、さすがに、どうしていいか判らず、戸惑う。
そして、母の姿を探す。

と、向こうの方に、子供用、それも、男の子用の売り場で、
弟のズボンを、弟の身体に合わせている、光景が。

私は、側に行き、お母さんと言いながら、母の腕に手を伸ばした
瞬間である。
母は、私の手を払う、その時パチンと音がした。

早よう行かんか!と、
私は、あの時払われた腕の痛みとパチンとした音が、今だ忘れられ無い。

私は、気恥ずかしさと、戸惑いと、
色んなブラジャーが、並び、
ショーッも、どれがいいか、判らない。

自分の手の平で、膨らみかけた、自分の胸に手を当てた。
そして、ブラジャーの膨らみに手をかざして見た。
こんなもんかな?
ショーッは、生理用と書いてあった。
もう、どれが良いか、判らないが、まだ、大人では、無い。
一番小さな、Sサイズを、手に取ってかごに入れた。

そして、レジに立つ。
母は、私に遅れて、弟と一緒にレジに立つ。
無言であった。
レジの、お姉さん、○○円ですと言う。
私は、母から、握らせられた、千円札のしわを伸ばしながら、差し出す
次は、母である。
私は、母の持ってるかごの中を見て、びっくりした。
我が家は、裕福で無いと思っていたが、
どうして、下に男の子もいないのに、男のこの服ばかりで一杯の、
かごなのか?

その後、又、バスに乗る。
母と、弟は楽し気に、はしゃいでいる。
私は、バスの窓におでこをくっつけて、外の景色を追う。
何とも、言えない寂しさと、悲しさと、屈辱感が襲って来た。

バスが、我が家前に止まる。
弟が先に降り、母が降りる。
私は、数歩遅れて、バスを降りる。

はしゃぎながら、歩く二人。
弟が、玄関の引き戸を、右に開けて、中に飛び込む。
その後を、母が中に入る。
数歩遅れて、私が玄関前に立ったその時、
先を、歩いて玄関の中に入った母、後ろ手に、玄関の扉を
ピシャッと、閉める。
まだ、私は、玄関の外である。
玄関の扉は、私の目の前で、右から左へと、パタンと音をたてた。

その時、母と、私の間を繋いでいる、太いパイプの様な物に、
小さな、亀裂が入った様に、感じた瞬間だった。

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