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ボーイミーツガール #2000字のドラマ

2021年、夏。
買ってもらったばかりのスマホでTikTokを始めたリュウマ(17)とカイシン(17)。
2人が大好きなtiktokerミヨヨンにどっちが先に会えるかという無謀な競争の夏が始まる。

2人は授業で習ったヒップホップダンスを活かし、トレンドのダンスをアップするが、中途半端なダンスはTikTok上では即座に埋もれ、父が買ってくれた望遠鏡で新しい惑星を見つけるより発見が困難であった。
目標はバズることじゃないミヨヨンに会うことだ。2人は凹みそうな心を励まし合い、ミヨヨンをマネてダンスをし始める。この思いよ届け!とカイシンは叫び、リュウマもミヨヨン!と後に続く。

すると突如部屋のドアが開き、父親の英明が入ってくる。

「勝手に入んなよ!ノックぐらいしろよな」
「したよ。それがうるさくて聞こえなかったんだろ」

咄嗟に携帯を隠すリュウマ。画面ではミヨヨンがこれでもかと言わんばかりに可愛さを輝かせている。

「出掛けるから鍵よろしくな。あ、あとドーナツ買ってあるから。じゃあまたねカイシンくん」
「はい、ありがとうございます」

ドアを閉めるまでの僅かの時間にリュウマの顔が赤らんでいる事に気づく。

ドアを閉め、英明は少し安堵した。
最近の高校生は好きな子とデートするよりもカードゲームに明け暮れていて、誰とも付き合ったりしないまま卒業を迎えてしまうのではないか?
そしてリュウマも例外なくその1人なのではと思っていた。
どうやら憧れている子はいるらしい。

なんだか懐かしいな。
あいつらにも俺たちみたいな夏が来るのだろうか?
しかし、このご時世じゃどこにも行けないしな。

そう思いながら英明はエンジンをかけ、エアコンを最大にし車を走らせた。

2000年、夏。
高校生活最後の夏休み。
受験を控えた同級生は皆予備校に通う毎日が始まっていた。
一足先に受験に合格した英明は興奮冷めやらず畦道を走って帰っていた。
当然だが、夏に開催される大学入試などではなく、英明が合格した受験というのは運転免許所得試験のことである。

最高の夏が始まるに違いない。
目標は車で名古屋まで行くこと。
助手席には名古屋でナンパした女の子を乗せて、池田山まで行って夜景でも見て、
そんな妄想をしながら部屋でパラパラダンスの練習をしている英明。
英明は名古屋でのイベント「パラパラダイス2000ナゴヤ」に参加するために猛特訓中であった。
そこに突如ドアが開き、英明の父親である孝太が入ってくる。

「勝手に入んなよ!ノックぐらいしろよな」
「したよ。お前が大音量でそんな曲聴いてるからだろ」
馬鹿にされたと感じた英明は即座に曲を止めた。
「で、なんだよ」
「今日なこれから公民館行ってくるから、帰りはまぁ21時くらいになるわ」
「え?車は?」
「乗ってく」
「今晩俺使うって言ったじゃん!」
「そんなの知らねえよ」
「友達にも迎えに行くって言っちゃったじゃん」
「だから知らねえって」
「ちょっと!」
「乗り回したいんだったら公民館に来い。21時になったら俺を家まで届ければその後使っていいから」

孝太は毎年公民館で盆おどりを教えている。英明にとって昔から馴染みのある古くさい踊りはモテることはないと敬遠していた。
行きたくない気持ちと車に乗りたい気持ちを闘わせながらも英明は21時には公民館の前に到着していた。
しかし長引いているのか一向に誰も出てくる気配はなく、中を覗いてみると孝太が円の中心で踊ってみせている。生徒には大学生らしき男女もいて皆楽しげである。
最も衝撃的だったのはその中に同級生のギャル、佳奈美がいたことであった。
結局父を家まで送るのと一緒に近所に住む佳奈美も送ることになった。それをきっかけにドライブ友達へと発展していく英明と佳奈美。
名古屋のイベントも池田山も、
佳奈美と一緒に叶えていった。
そして、盆踊りが終わったその夜、2人の交際が始まった。

英明は公民館の駐車場に車を止め、エンジンを切る。あれからもう20年以上経つのかと感慨に耽りつつ、荷物を持って公民館の中へと入っていくと、あの時と同じように誰かを囲むように人だかりができている。ただあの時と違うのは中心にいるのは妻となった佳奈美と、もう1人見かけない女の子。2人の踊りを皆嬉しそうに動画を撮っている。

「あれ?確かこの子・・」


「リュウマ〜、これどう?」
カイシンはダンスを諦めおやつのドーナツをメガネにして遊んでいる。
「小学生でも笑わねーよ」
「ダメだー、なんも思い浮かばねぇー」
カイシンは諦めドーナツを食べ始める。リュウマも振り付けを諦め、寝そべってミヨヨンの動画を見ているとガバッと起き上がる。
「ど、どうしたんだ?」
「母ちゃんすげー」
「だからどうしたんだよ」
「行くぞ!」
「どこに?」
「公民館だよ!」
「なんで!?」
2人は公民館へと走り出す。
画面の中の世界が現実になる。
リュウマとカイシンの眼前に広がる畦道が夏の太陽に照らされ色めきだっていた。

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