十二番目の天使/オグ・マンディーノ
何か良さそうな本はないかと探していたときにネットでの評判を読んで、自分に合いそうだと思って購入したものです。
作者のオグ・マンディーノさんはアメリカの作家兼講演家で、「世界中で最も多くの読者を持つ人生哲学書作家」として知られているそうです。今作の中にもいくつかの哲学系、啓発系書籍が登場しており、私も読んだことのある物もあって、ちょっと嬉しくなりました。
ざっくりとあらすじ。仕事で成功を収め、愛する家族と共に故郷に移り住んだジョン。小さな町の住人からは大歓迎を受けるが、そのわずか2週間後に妻子が事故で他界してしまう。絶望し自殺を考えるようになったジョンは、ある小さな少年ティモシーと出会ったことで、人生に希望を取り戻していく。
以下、ネタバレ含みます。
まず、幸せの絶頂だったはずのジョンが冒頭からいきなりどん底に突き落とされて、深い悲しみの中を彷徨っていく様子がとても痛々しく、読んでいて苦しくなりました。自殺を思い、机の引き出しに閉まってあった拳銃を事あるごとに出してきては眺めたり、少し思い止まってみたりする描写が何度も出てきて、せつなくなり、どうにか楽にしてあげたい気持ちにさせられます(自殺は望ましくはないけれど)。
このジョンという人、終始優しさや正直さに溢れていて、家族はもちろん、周囲の人に愛されているのがよくわかる。ジョンに町のリトルリーグの監督になるよう依頼する友人のビル、掃除婦のローズ、職場の仲間のラルフなど、彼を快く支える人がたくさん登場します。家族を亡くしたことへの同情はもちろんあるだろうけれど、きっとジョンの人間性もそうさせるのだと思う。
こういうドラマチックな展開って、仕事で成功して傲慢になり、周囲を顧みないことへのしっぺ返しとしての不幸、というパターンがよくあると思うけど、ジョンはそうではない。成功して、家族も大切にして、新たに住む場所として故郷の小さな町を選んで...と、何も悪いことをしていないのに、ある日突然死にたいほどの悲しみに襲われてしまう。この展開は、こういうことは特別な人に起こるわけではなくて、誰にでもあり得る話である、ということを表しているようにも見えました。だからこそ、後述するティモシーの生き方が一際輝いて見えるのだ、と。
ジョンは物語の序盤でビルの依頼でリトルリーグの監督を務めることになり、この出来事が運命を変えていきます。4チームの監督によるメンバー決めで最後まで残った、ティモシーという小さな少年。このティモシーとの出会いが、ジョンの心に光を灯すことになるのです。
ティモシーは打つのもダメ守るのもダメで、正直言ってチームのお荷物のような存在です。それなのに、どんなときにも全力で取り組み、「絶対にあきらめない!」「毎日、あらゆる面で、僕はどんどん良くなっている!」と呪文のように口にして、それを信じて疑わない。最初のほうこそチームメイトにからかわれていたけれど、その汚れのない前向きな姿勢はあっという間に波及していき、彼の言葉は全員を巻き込んでの大合唱になっていく。それはジョンやビル、チームメイトだけでなく、観客席に座る人々にも広がっていく。
彼が何故こんなにも頑張るのか、自分を信じて疑わないのか。終盤に向かってそのワケが明らかになるのですが、本当にもう運命とはなんて残酷なんだろう...と思わずにはいられませんでした。後半部分にはその伏線がポツポツと現れてきて、読み進めるたびに想像が深まってどんどん怖くなってくる。ジョンがそれを知る場面では一緒になって泣いてしまうほどでした。
小さなティモシーの、驚くべき、計り知れない強さ。ジョンの目を通して私も目の当たりにして、自分の人生をまっとうするということの意味を考えさせられました。これまであきらめていたこと、後回しにしていたことをすぐにでも頑張りたくなる。そんな一冊です。リトルリーグのお話なので野球用語がたくさん出てきますが、野球に詳しくない方にもオススメです。