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AppleのUXライターに学ぶ「言葉のレンズを通してデザインする方法」

先日行われたAppleの開発者向けイベント「WWDC22」で、AppleのUXライターが登壇してインターフェースのライティングについて解説するセッションがあったことを、こちらのツイートで知りました。

早速動画をチェックしたところ、あまりにも学びが多過ぎて大興奮だったので、自分にとって学びや発見があった部分を中心にまとめておきたいと思います。有難いことにTranscriptが公開されているのでその翻訳(DeepLは神)と要約がメインになりますが、私は決して英語が得意ではないので、今回のnoteは私自身のためのメモとして考えていただければ幸いです(汗)。

UXライターの仕事は「言葉のレンズを通してデザインすること」

登壇者はKaely CoonJennifer Bushの2人。2人ともライターで、Appleのプロダクトやサービスを横断したHuman Interface design teamsに所属。職種としてはUXライターやコンテンツデザイナーと呼ばれ、アウトプットはコピーやテキストと呼ばれるが、本質的な仕事は言葉のレンズを通してデザインすること。

Appleは創業当初から、すべての人のためのデバイスをデザインしたいと考えていたので、Macはわかりやすいシンプルな言葉で作られている。そして今、Appleのすべてのプロダクトにおいて、電源を入れるとすぐに "Hello "と声をかける。

当時から、彼らはインターフェースが会話的であることを追求してきた言葉がデザインとシームレスに連携しているので、ユーザーは言葉に気が付かないかもしれない。しかし、言葉はユーザー体験のあらゆる部分で重要な役割を担っている。言葉は、映画を見る、集中力を高める、など、ユーザーがやりたいことを実現するために存在する。

では、アプリから文字がなくなるとどうなるか。

Apple Musicのアプリでは、ビジュアルが各セクションのヒントになるが、アルバムとプレイリストの違いが理解できるか?ブラウズやラジオの聴き方は?文字はスクリーン上に決して多くはないが、ユーザーは何が期待されているのか、次に何をすればいいのか、を理解する手助けになる。

ライティングとはコミュニケーションであり、言葉はもちろん、その言葉の構成、表示するタイミング、そしてそれを読む人の気持ちも含まれる。

アプリをデザインするプロセスの中で、早くからライティングを意識すればするほど、それを使う人にとってより良い体験になる。

アプリのライティングに役立つフレームワーク「PACE」



アプリのテキストを上手くデザインするには、次の4つのコンセプトについて考えることが大切。

  1. Purpose(目的)

  2. Anticipation(先読み)

  3. Context(文脈)

  4. Empathy(共感)

この4つの頭文字をとった「PACE」は、ライティングにおける有効なフレームワーク。

①Purpose(目的)

アプリの画面を開発する際は、まずその画面の目的を考え、それがヘッダーになる。今回の事例の場合は「あなたの名前と写真を共有する」が目的。

次に考えるのは、情報の階層。必要な情報をどのような順番で並べるか。ユーザーは、必ずしもテキストを画面の上から順番に読むとは限らない。ヘッダーである「Sあなたの名前と写真を共有する」を読んだ後に、すぐにボタンの「名前と写真を選ぶ」を読むかもしれない。

ヘッダーとボタン以外のテキストにも、重要な役割がある。情報を階層化することで、より伝わりやすくする。画面の目的に合わせて、情報を階層化し、取捨選択することで、不要なテキストは削除する。

これはiPhoneの高温警告画面のドラフト。文字が多く、たくさんのことをやろうとし過ぎている。緊急電話のボタンも大きすぎる。最終的にどのようなデザインになったか?

見出しは「Temperature」だけ。温度計の画像から温度が高いことが伝わるため、それを明示する必要はない。そして、一文で「iPhoneは冷やさないと使えませんよ」ということを伝えている。ボタンは「Emergency」とだけ書いてあるので、もし緊急電話をかける必要があれば、どうすればいいのかが一目瞭然。

詳細を説明しすぎるよりも、シンプルさを目指す。たとえば、新しい機能を紹介するときは、なぜその機能があるのか、なぜそれが重要なのかを伝える。

この「Wind Down Shortcuts」というヘッダーのイントロ画面では、「スクリーンタイムを減らすことは、寝る前にできる最善のことのひとつです」と伝えている。

画面に何を書くべきか悩んだら、その目的に立ち返る。情報の階層を考え、何を省くかを考えることで、すべての画面に目的を持たせることができる。

②Anticipation(先読み)

アプリ内の言葉を会話の一部と考えると、より効果的になる。良い会話は、行ったり来たりするもの。あるときは聞き、あるときは話し、質問する。同じように、アプリでも、その時々に最適なコミュニケーションの方法を考えている。

週末にゆっくり寝ようと思い、時計アプリでアラームを変更するとする。このとき、アラームを変更するのはすべてのスケジュールではなく、明日だけ。

アクションシートでは、「この変更をスケジュールのすべての週末に適用しますか?」と尋ねられる。最初の選択は「次のアラームだけ変更」で、明日のアラームのことだけを考えている可能性が高いということを先読みしている。

翌朝、アラームが鳴る前に起きてiPhoneを使い始めると、「アラームを鳴らされたくないかもしれない」と予測する。そこで、「どうやら起きているようですね。アラームとスリープモードを解除しますか?」と問いかける。

この会話は、まるでデバイスがあなたのニーズに応えてくれているような、直感的な印象を与えることができる。

アプリで文章を書くときは、常に「次はどうなる?」を考える必要がある。ユーザーが次にする行動や質問を先読みすることで、何を言うべきかがわかる。

このマップの例では、帰宅することが予測される時間に、通勤時間を知らせる通知が表示される。「家まで8分」「交通量は少なめです」と表示される。次に何をするのかを予測することで、意思決定をサポートしている。アプリの言葉はユーザーとの会話であると考えると、先読みが必要になる。

「次に何がくるか?」という問いに答え、正しい方法で人々に直接語りかけることができれば、アプリの体験を機能的なものから魔法のようなものにすることができる。

ボイス&トーンについて

会話を成立させるために、UXライターはボイスとトーンについてよく考える必要がある。まずアプリのボイスを開発し、それからトーンを変化させる。まずは、「何を言って、何を言わないか」を考えることから始める。

エキサイティングで楽しいゲームを開発中なのか?安全性と信頼性が必要な銀行アプリなのか?子供向けのアプリなのか?どのような語彙を使うか、誰と話すかを考えてみる。

よく使われる用語のリストを作っておくと、ウェブサイトやEメールなどのコミュニケーションで使用するボイスを作成するのに役立つ。

ユーザーの気持ちを察することで、トーンを考えることができる。

Apple Watchの転倒検出機能により命の危機を救われる事例が再び報告される
https://gigazine.net/news/20190922-apple-watch-detect-unexpected-fall/

ここでは、Apple Watchが「ひどく転倒したようです」と言い、大丈夫なら「大丈夫です」と答えることができるようになっている。ストレスを感じる場面で、落ち着きがあり、明快なトーンになっている。

Appleにはどのデバイスを使ってもわかる一貫したボイスがあるが、声のトーンは状況によって変化する。例えば、電話で友人と話すときと、銀行で話すときとでは、声のトーンがどのように変わるか考えてみる。

この事例では、ユーザーを祝福するトーンなので、感嘆符がついている。しかし、感嘆符の使用頻度には注意が必要。頻繁に使うとバカに見える。

③Context(文脈)

アラートはユーザーの体験に割って入るので、特に文脈に注意して、明快で役に立つものにする必要がある。

アラートの中には、破壊的なアクションや、アカウントからデバイスを削除するような、元に戻すことができないものもある。

このアラートでは、「iPhoneを削除しますか?」と質問し、ボタンは「削除」または「キャンセル」になっている。この文脈では、ユーザーが重要な選択をする必要があり、その選択によって情報が失われる可能性があることを示している。「削除」は破壊的なアクションであるため、そのボタンは赤で左側にある。「キャンセル」ボタンは右側にあり、何もせずにアラートをを解除する。

しかし、キャンセルの使い方には注意が必要。

このサプスクリプションのアラートのように、「キャンセルの確定」というタイトルでは、左の「キャンセル」と右の「確定」のどちらのボタンを選べばいいのかわからなくなる

新しいタイトルは 「プラチナムサブスクリプションをキャンセルしますか?」で、どのサブスクリプションをキャンセルするのかを具体的に示し、ボタンは「サブスクリプションのキャンセル」または「サブスクリプションの継続」。

アラートメッセージを作成する際には、ボタンラベルで取るべき行動を具体的に説明することが重要。このアラートでは、ボタンのラベルだけを読んでも、何を選択しているのか理解できる。

④Empathy(共感)

共感が得られるUXライティングというのは、すべての人に向けて書かれたUXライティングのこと。あなたのアプリには、ミュージシャンやゲーマー、他の開発者など、特定のオーディエンスがいるかもしれないが、慣用句やユーモアは誤解を招いたり、翻訳されないことがあり、一部のフレーズは人を排除する意味を持つ。シンプルで平易な言葉を使うのがベスト。

最後のヒント「書いた文章を声に出して読む」

適切な言葉が見つからない場合は、最もシンプルな方法である「書いた文章を声に出して読む」をやってみる。声に出して読むことで、友人と話すときのような、会話に近い文章にすることができる。また、声に出して読むことで、不要な言葉や繰り返しの言葉、文法的な間違い、タイプミスを見つけることができる。

インターフェイスのためのライティングは、スクリーンの向こう側にいる人への好奇心で始まる。相手を尊重し、理解しながら話すことで、きっと最適な言葉が見つかるはず。

まとめと雑感

以上がセッションの中で、私にとって大きな学びとなった部分のまとめになります。自分はUXライターオタクみたいなところがあるので、AppleのUXライターが話しているのを見れるだけで大興奮だったのですが、いわゆる「キャンセルのキャンセル問題」的な話や、ボイス&トーン、UXライティングにおいて最も扱いが難しいユーモアについての考え方を、AppleのUXライターから聞くことができたのは、本当に大きな学びになりました。

これまでGoogleのUXライターSlackのUXライターがUXライティングについて話すのを聞いたことはあったのですが、そこにAppleも加わったので、共通する部分などを抽出すると、より精度の高いUXライティングができるのではないかと思いました。

今後もこういう機会やコンテンツがあれば、しっかりと自分の知見として蓄積していければと思います。


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