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わたしの旦那さんは変だ。〜どうせならできる上司になりたい。〜

仕事ができるだけでは、できる上司にはなれない。私は、そんな現実を思いもよらぬタイミングで突きつけられることになった。


夫婦になるための届け出

婚姻届。お役所に提出する数ある文書のうち、忌み嫌われない唯一無二の文書といっても過言ではないと思っている。そんなことより、どうでもいい、かつ、しょうがないことなのだけれども、役所ってお休みの日に対応してくれるところないのかしら。じゃないと、絶対に手続きって無理だなと思う。もちろん役所に勤める人にもお休みが必要なのは理解できるし、ぜひとも休んでいただきたいと思うのだけれども、役所が開いている時間に手続きするのって、勤めに出てたら厳しくない?


さて、婚姻届の話。

提出にあたり、多くのカップルが心躍らせ、準備を進めるものである。私も御多分に漏れずそうなるものだと、20代に突入したばかりの夢見がちな若い女子であったころは信じてやまなかった。


しかし、いざ自分が用意することになってみると、その届は、業務で扱う文書と相違なかった。全くわくわくしなかったかというとそうではなかったから、「相違なかった」では少しばかり語弊があるかもしれないが、それでも世の「もうすぐご夫婦」なカップルに比べると冷静だったように思う。


わたしは、その届を準備・提出するにあたり、いろいろと調べ、スケジュールを立てた。婚姻届には、承認者の署名が必要であるためである。この署名を、夫も私もそれぞれの両親にお願いすることとしていた。夫は結婚するまで実家住まいだったが、私の実家は県外。提出したい日がある以上、逆算して計画的にミッションを遂行しなくてはならない。わたしは緻密な計画に基づき、かつ、人間誰しも過ち(書き損じ)を犯すこともきちんと考慮に入れて、予備を用意するよう彼に頼んだ。ちなみに、婚姻届の用紙の確保は、結婚前、妻(上司)が、夫(部下)に命じた数少ない業務のうちの一つである。


部下は私の求めに従い、予備を含めてきちんと用紙を用意した。2部。

私はそれを聞いて肩を落とした。

2部しかなかったら、これから記入する4名(夫、私、夫の父、私の父)のうち1名にしか失敗が許されない。しかし、確かに私は、予備の部数を明確に指定しなかった。これは上司の落ち度である。


できる上司(私)は追加で彼に命じた。


「手間をかけて申し訳ないのだけど、書き損じの対策のためにも5部くらい追加で予備をもらってきて。」


素直な部下(夫)は文句ひとつ言わず、予備を5部きちんともらってきてくれた。


そこで私は、次の業務を命じた。


「届のやり取りは郵送になって時間がかかるから、申し訳ないのだけど、あなたとあなたのご家族に先に書いてもらってから私に送ってください。本当は私も書いてからお願いすべきだとは思うんだけど。」


彼も彼の両親も大変おおらかに私の願い叶え、彼の側の記入欄を仕上げた書類を私に提供してくれた。1部。


私はさらに肩を落とした。1部しかなかったら、私の側は誰も失敗が許されない。しかし、確かに私は仕上げる書類の部数を明確に指定しなかった。これは上司の落ち度である。


できそうでできない上司(私)は彼に問うた。

「予備はどうしたの?」


疑うことを知らない部下(夫)は何の気負いもなく答えた。

「俺が書き間違えたり、あとはお父さんも・・・」


どうしてそのミスが未来の妻サイドでも起こる可能性があると疑わないの・・・。


今回は彼のご家族にもお手間おかけすることになるため、まずはチャレンジしてみようと、私は送られてきた1部にすべてを賭けることにした。そして私は賭けに勝った。ひとつのミスなく仕上げて見せたのだ。そして、その書類を今度は私の実家へと依頼文を添えて送った。


その週末、私は惰眠をむさぼっていた。私の趣味は寝ること、と言ってもいいくらい私はよく寝る。何かの予感がしたのか、ふと目が覚めた。携帯を見ると父からの電話。何事かと思って出てみると、私が知る限り最も焦った声で、父は私に謝った。

「書き間違えた!」


あまりに焦る父に、私は冷静だった。そりゃそうでしょうよ。間違えるよ、初めて書くんだもん。私は父に提案してみた。

「訂正印とか・・・」


娘の人生の一大事に父(と母)は大変まじめだった。

「でも、せっかくのやつだからきれいなもので提出した方が・・・。」


わたしは、窓口で訂正印だらけになるに違いないこの書類に、どのタイミングで訂正印が押されようとも大勢に影響はないようにも思ったが、それでも両親の気持ちが嬉しかったことも確かだったのでそれを汲むことにした。


そして、再度、上司として部下に書類の提出を命じたのである。

「本当に申し訳ないのだけれど、予備を含めて5部、もう1回もらってきて。」


そして、今回は先に私の実家に送ることにした。

「お手間なんですけど、書き損じ対策のため、3部くらい記入、押印して送り返してください。」


彼の実家にも同様に。


そして、今度こそ、私は両家の署名、押印がある書類を3部(予備2部を含む)、手元にそろえることに成功したのである。提出予定日の前日のことであった。


すべての記入を終え、何とか役所の窓口に持参した。そして最後の門番(書類の不備をチェックしてくださる役所の御担当者)に言われるがままにペタペタと訂正印を押し、わたしたちは晴れて夫婦となった。


できる上司の最低条件

できる上司の条件について、まさか自身の婚姻届をきっかけに考えることになるとは思ってもみなかった。

けれども、私もいつかキャリアを積んで、部下を持つ上司になる日が来るかもしれない。そのときまで忘れないようにしなくちゃ。


・仕事ができること

・先見の明があること

・指示が明確なこと

・余裕を持ったスケジューリングができること。

これができる上司の最低条件である。