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第3章 こたえは自分の中にある~さまざまなプログラムの施行 3-1.自分の感性をみつめるP①

第2章で書いた小学生対象のプログラムを皮切りに、
2018年度までの間、トータルとして41回のプロジェクトを実施してきた。
この章では、そのうち特徴的なプログラムやプロジェクトを抜粋して紹介する。

ひとつめは、自分の感性=五感や感覚、感情をみつめることをテーマとしたプロジェクトだ。

2009年6月26日、U中学校2年生4クラス、4クラス×1コマ(50分)
<大学院に通う養護教諭が医学部の教員と共同で取り組む研究(体験学習の効果測定)のため、中学2年生を対象に、生活における気づく力や感動する力をシートへの書き込み言葉によって把握するワークの手伝いを、大学生30名が担当>

※日程、時間は、実際に中学校に入った時間のみ記載。プロジェクト自体は準備のため、6月頭から動いている

2009年の夏、近隣のU中学でのプログラムは、中学からの要望で同時期に3プロジェクトを実施した。感性プロジェクトはそのうちの一つだった。
このプロジェクトは、当時U中学の養護教員だったM先生が、当大学医学部と共同で研究する「体験学習の効果測定研究」のためのデータとなる”出来事と感覚に関して中学生に聞くシート(調査票)”を効果的に埋める支援だ。報告書ではこのプロジェクトを「体験学習効果測定研究支援プログラム」と称している。2年生が対象。

この「体験学習効果測定研究支援プログラム」は、調査票を配って書いてもらうだけでは中学生の文章能力の差により、本当にその体験がその子に効果をもたらしているのかどうかがわからないところを、大学生が関与し、質問したり、その子の思いを具体的に聞き出すことで、実情に近い効果を測定するというものだった。
このプロジェクトまでに、小学校中学校で思いを引き出すプログラムを6度やってきており、「体験学習効果測定研究支援プログラム」とは思いを引き出す点で親和性があった。

ゴールは「中学生のシート」シートはM先生が用意されたものを使うため、大学生に期待されるゴールは「一度生徒が書き込んだアンケートシートの内容を膨らませること」。
とはいえ、それは「やることのゴール」。大学生が関わる以上の目標点は、「その子らしい思いがシート上に言葉で表現される」こととした。

シートは「出来事」と「感覚」についての質問が全部で8個ある。
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問1.最近(2年生になって)どのような出来事があり、それについてどう思いましたか?楽しかったこと、感動したこと、悔しかったことなどなんでもいいです。
①学校の授業や行事で
②部活動や習い事で
③家の生活で
④遊びで
上記1~4のうち、特に印象に残った出来事は?

問2.最近(2年生になって)、どのような感覚(におい・味・音・光・手触りなど)が印象に残っていますか?またその場面も記入してください。
①においや味
(どこでなにをしていて?)
②音
(どこでなにをしていて?)
③光・明るさ・暗さ
(どこでなにをしていて?)
④手ざわり・肌ざわり
(どこでなにをしていて?)
上記1~4のうち、特に印象に残った出来事は?
===
事前に中学生にはシートを書いてもらい、回収してこちらにいただいていた。
その記述をもとに、大学生は各個人への掘り起こし方法を考える。

6月頭に参加者を募集、学生向けの事前説明会を開催し、今回の目的やゴール、具体的な内容のイメージを共有した。
その際に、このシートを実際に大学生にも書いてもらった。
そしてそのシートをもとに、ペアを組んで大学生役と中学生役に分かれ、シートの堀り合いを行った。

大学生をしても、問1の、楽しかったこと、感動したこと、悔しかったこと等々心を動かされる出来事があまり書けない。
それよりもなによりも、問2の感覚についてが、より出ない。

自分たちがシートを書くこと、質問をすること・されることを経験することで、自分の知覚状態を理解することから始める。
これは書くPの基本スタイルでもある。
自分がやって腑落ちしないと、他者に説明してさせたところで、思うようなものはできない。(が、意外と学生はそれができると思って、この作業をスルーする傾向にある。なので、あえて「まず自分がやってみる」ことをさせている。当然、我々講師人はそれに先駆けてやっている。)

中学生と同じ経験をしたところで、ではこの状態から、どうすればゴールおよび目標に近いアウトプットが得られるのかを検討し始める。
当日は50分しかない。
参加者は、Tゼミや私とT先生が担当する特別講義(オルタナティブビジネス論、表現する力をきたえるプログラム)の時間を利用し、また有志でMTGをする。同時進行で他2つのプロジェクトも動いているので混在状態の中、皆よく時間を作って集まり、メーリングリストで共有していた。

1週間前にMLに上がった投稿が以下。書くP経験者が率先して意見をまとめているようだった。
<3年Sさんの投稿>
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まず、26日のシートについてですが、全て埋める必要はなく、これは!という1つを掘り下げていく形になります。
私達の役割としては、多くの言葉を引き出すことにあります。

次に自分たちがシートをやってみて出てきたことです。
まずシートの1の部分ですが、
・エピソードはでてくるが、エピソードから引き出される感情表現が難しい。
・記憶が曖昧なため、細かい部分が曖昧になってしまう。
シート2に関しては、
・(中学生目線でいくと)なんのためにしているのだろう?という疑問が湧くのではないか?
・自分が書いていることがあっているかどうか分からない。
・はじめての経験、非日常的な体験で掘り下げてみるのはどうか?
・日常をいかに掘り下げるか?
・大学生のいい手本を見せるのはどうか?
・いきなりにおい、味というのは難しいので、どこへ行った?何をした?から逆に掘り下げてつなげていくのはどうか?

といったことが話し合いの中ででました。皆さんはどうだったでしょうか?
シートをやった感想を皆で共有することによって、中学生に対するアプローチの方法が
見えてくるきっかけにならないでしょうか?
ご協力おねがいします。

エピソードから引き出される感情表現についてどういう風に中学生と掘り下げるかについてですが、例を体育祭として考えたところ・・・
体育祭→悔しかった
○悔しさを音で表現する→例を挙げるときは待ったく違うところから
○程度を聞く→どれぐらい悔しかった?
○悔しさを体で表現すると?
○周りの人はどうだった?
○体育祭が終わった後はどうだった?悔しさはどれぐらい残ってた?
といったような掘り下げかたを確認しました。

また私たち大学生が、先生とは違うというところを明確に生徒たちに伝える方法として、
○しゃがんで話す
○一緒に勉強しようよ、一緒に考えていこうと問いかける
○君たちの環境をしりたいということを伝える
○君たちの意見で世の中が変わるかもしれないと大げさかもしれないが、興味が沸くようなことをいう
○大学の研究でつかうといって協力してもらう
などといったアプローチ方法を確認しました。

最後に短時間でのプログラムなので、自己紹介が肝になるのでは?という意見から、
短い中で、中学生と仲良くなるために、
○中学生時代の自分
○はやりのなにかに関連させる(水嶋ヒロに似ている××です)
○××ちゃんに会いにきた
○××と呼んでください
○将来みんなの夢をかなえたいから勉強しにきました
といった自己紹介方法を考えました。
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50分という短い時間の中で、最大の効果を引き出す。
30人の大学生は、4クラスに散らばるため、1クラス7-8名で集中して運営する必要があった。
そのために出来ることは、とにかく事前準備を念入りにすることしか勝ち目はない。

その時、私はブログにこんな文章を書いている。
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用意できるものはすべてするしかない。
想定できる要素をすべて拾い出す。

今回、実査的なものは1コマだが、
そこに初めて勝負をかけるなんてことは危険すぎる。

事前学習という大切な要素をどこまで大学生が理解して取り組めるか、自分のものにするかが
問われるプロジェクトとなっているのだ。

事前研修受ければできるってもんじゃない。ってのが今回のPの特徴だ。

自学、自主的な集まり、そしてML。
使えるものはすべて使って、自分なりの装備をしてほしい。

場は与えた。
あとは自分たちでやるだけだ。
乱暴なようだけど、こういう時が一番学生が伸びる。

自分でどうにかしなくては!という時に、人間は力を発揮する。
火事場の馬鹿力という言葉に象徴されるが、
書くPでは、その時に出せれば、それは基礎となり、ストックとなり、自信となる。
学生自身が、自分を理解するきっかけになることが多いのだ。
この効果が大きいからこそ、書くPは何度でもやりたいものなのだ。
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