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キッカケ

 ある日突然、シドニーでの着物によるファッション・ショーの仕事が舞い込んできた。
 広く日本文化を海外の方に知ってもらうためのイベントの目玉として着物ショーが発案されたらしい。
 他にはお茶の先生、お華の先生、水引の先生、書道の先生、組み紐の先生、日舞の先生、折紙細工の先生、尺八の先生、お箏の先生、三味線の先生、水墨画の先生、焼き物の先生など、他にもいらっしゃったが先生の肩書を持つ方々ばかりで、もちろんお付きのお弟子さんたちもご一緒だが、ほとんどの方が「静」の方で、グループ全体に若く「動」の動きをするのは我々だけだった。
 当初はモデルも連れていく予定だったのだけど、他の先生方がお弟子さんを含めても2~4人程度なのに我々だけ大所帯というわけにもいかず、舞台と音響、照明装置は元々準備されているのを利用し、モデルは現地調達となった。

 幸いなことに京都には呉服商がたくさんあり、趣旨を説明すると無償で着物を貸してくださるところも多くあった。以前から面識のあった著名な着物作家さんからも数点借り受けた。他にも帯や帯締め、簪などの髪飾りなどすべての用意を整え、スーツケース10個くらいにまとめ上げた。

 借り受けた着物からショーの構成を考え、曲の選定をし、簡単な照明プランを考えて、準備万端整え、7月某日出発となった。
 うちのスタッフは私が舞台監督兼裏方兼音響兼照明を担当し、他に着付け師2名、モデル兼裏方3名の6名。自分のスーツケース以外にそれぞれが2つずつくらいのショー用スーツケースを運ぶのが結構大変だった。

 さて、肝心のモデルであるが現地交流ということも考え、地域の中高校に声を掛けてもらって素人さんを起用することとした。
 ウォーキングや振付けは当日覚えてもらうしかないが、参加して楽しかったと思ってもらえるようにしようと少し工夫を凝らした。

 まずは京都→伊丹→成田で他の先生方と合流し、カンタス航空で一路オーストラリアへ。
 今はどうか知らないが、当時のカンタス航空は世界一安全な航空会社と呼ばれていた。それはそうだろう。整備に納得できなければどれだけでも時間をかけるのだから。整備ができないから飛びませんなんてこともあったと聞くからその徹底ぶりはスゴイの一言。結局今回も2時間待ちとなった。その間に各先生方にご挨拶っと。

 当時は今と違って夜便の東海岸はメルボルンしか直行便がなかったのかもしれない。そこでトランジットして今度はゴールドコーストへ。
 日本の7月ということは向こうは冬。メルボルンの空港では分厚い外套を来た空港スタッフたちが立ち働いていた。
 そして今度はゴールドコースト。距離にして北海道と九州くらいだと聞いたが、こちらは半袖と短パン。さすが大陸気候ということなんだろうか真冬でこの格好、夏はどうするんだ? と考えてしまった。

 ゴールドコーストといえばビーチ。真冬でも泳いでいる人たちがチラホラ。せっかくだからビールでも飲みながらと思ったのだが、飲みながら歩く行為は違法で罰金だとか。もちろんその辺にビンや缶を捨てるなどもっての外だ。面白いのは立ち止まって飲む分にはいいらしい。
 日本の海水浴場もこれくらい徹底すれば美観を保つのも少しは楽になるだろうに。
 ホテルもリゾート感満載で仕事に来たのに遊び心が疼いて仕方なかった。
 結局ショーが終わった後のレセプション用に用意したタキシードを着、他のスタッフも振袖に身を包みカジノへと出掛けた。
 カジノといえばラスベガスの印象が強く、わざわざ正装して行ったのだけど、入ってみれば短パンTシャツの面々ばかりで浮きまくってしまった。
 挙句、赤ら顔のおっちゃんがニイちゃんたち何かあったのか?と聞かれる始末。ちょっとイベントがねとお茶を濁しておいたが、恥ずかしいったらありゃしない。
 おまけに、たまたま座ったスロット台が良かったのか、どんどん出るんだけど、他のスタッフがなくなればもらいに来るって感じで全然増えない。最終的にはみんなの酒代が出たからいいかって感じでカジノは終了。ホテルに戻って部屋で宴会の続きになったのは言うまでもない。
 やってることは国内とほとんど変わらん。

to be continued


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