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【速報】内部通報UPDATE Vol.5:迫る改正公益通報者保護法施行を見据えて⑤-消費者庁「指針」の求める内部公益通報対応体制とは?-

1. はじめに

2021年8月20日、消費者庁は「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(以下「本指針」といいます。)を公表しました。

【関連リンク】
消費者庁「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」の公表について

内部通報UPDATE Vol.4では、指針案が公表され、4月28日付けで指針案に関するパブリックコメント(意見公募)が開始された旨を解説しましたが、本指針はこのパブリックコメント手続を踏まえたものとなっています。

【関連リンク】
e-Govパブリックコメント「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(案)」等に関する意見募集の結果について

パブリックコメント手続において寄せられた意見等を踏まえた指針案の変更点は以下のとおりです。

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今回は、本指針の中で企業のご担当者にとって特に重要と考えられる「内部公益通報対応体制」の整備等について、解説します。

2. 内部公益通報対応体制の整備その他必要な措置

本指針では、内部公益通報対応体制(公益通報者保護法第11条第2項に定める、事業者が内部公益通報に応じ、適切に対応するために整備する体制)について、(i)部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備、(ii)公益通報者を保護する体制の整備、(iii)内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置という3つの柱を立てて説明しています。

(1)部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備

本指針では、事業者は「部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備」として、①内部公益通報受付窓口の設置等、②組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置、③公益通報対応業務の実施に関する措置、および④公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置をとらなければならないと定められています。

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①では、「内部公益通報窓口」を設置することに加えて、窓口に寄せられる内部公益通報について調査をし、是正に必要な措置をとる部署および責任者を明確に定めることが求められています。

これにより、制度の透明性を確保し、通報しようと考えている従業員等に「どこの窓口に通報すればよいか分からない」、「どの部署が責任をもって調査してくれるのか分からない」といった不安を抱かせないようにすることが期待されます。

②では、組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置をとることが求められています。

内部通報UPDATE Vol.2で解説したとおり、通報者の抱く不安の1つとして「内部通報が上層部にもみ消されるのではないか?」というものが考えられますが、②の措置により、このような不安を解消することが期待されます。

③では、正当な理由がある場合を除いて、事業者は内部公益通報受付窓口において受け付けた内部公益通報について必要な調査を実施し、調査の結果、通報対象事実に係る法令違反行為が明らかになった場合には速やかに是正に必要な措置をとることが求められています。

その上で、是正措置をとった後にその措置が機能しているかを確認し、適切に機能していない場合には改めて是正に必要な措置をとることが求められており、継続的なモニタリングと改善により、制度の実効性を確保することが期待されます。

④では、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関し行われる公益通報対応業務について、事案に関係する者を公益通報対応業務に関与させない措置をとることが求められています。

通報者の不安として、「不正・疑惑の張本人が調査に関与した場合には、もみ消される危険があるでは?」という、いわゆる利益相反の問題が考えられますが、④の措置により、このような不安を解消することが期待されます。

(2)公益通報者を保護する体制の整備

公益通報者を保護する体制の整備については、公益通報者保護法という法律の名前から見ても明らかなように、非常に重要な部分です。

内部通報UPDATE Vol.2では、仮想事例を用いて通報者の抱える不安や懸念を考えてみましたが、通報者が「自身が公益通報を行ったことを理由として、解雇や降格、嫌がらせなどの不利益を被るのではないか?」、「通報者であることが職場で特定されてしまい、職場にいづらくなってしまうのではないか?」と考え、通報を躊躇してしまう事態を防がなければなりません。

本指針では、事業者は公益通報者への不利益な取扱いを防止する措置として、①不利益な取扱いの防止に関する措置、および②範囲外共有等の防止に関する措置をとらなければならないと定められています。

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①では、不利益な取扱いを受けていないか把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとることに加えて、不利益な取扱いを行った労働者および役員等への懲戒処分その他適切な措置をとることが求められています。

②については、「範囲外共有」(公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有すること)と「通報者の探索」(公益通報者を特定しようとする行為)を防止することで、通報者の保護を図っています。

すなわち、「範囲外共有」を防ぐ措置をとり、範囲外共有が行われた場合には適切な救済・回復の措置をとることに加えて、当該行為を行った労働者および役員等への懲戒処分その他適切な措置をとることが求められています。

また、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとり、通報者の探索行為を行った労働者および役員等への懲戒処分その他適切な措置をとることが求められています。

(3)内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置

本指針では、事業者は内部公益通報対応体制を実効的に機能させるための措置として、①労働者および役員ならびに退職者に対する教育・周知に関する措置、②是正措置等の通知に関する措置、③記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者および役員への開示に関する措置、④内部規程の策定および運用に関する措置をとらなければならないと定められています。

①では、労働者等および役員ならびに退職者に対する法および内部公益通報対応体制の教育・周知に加えて、従事者(公益通報対応業務従事者)に対して公益通報者を特定させる事項の取扱いについて特に十分に教育を行う必要がある旨が示されています。これは、従事者が公益通報者を特定させる事項について刑事罰付きの守秘義務を負っているところ、従事者にそのことを十分に認識させ、適切に職務を全うできるように特にしっかりと教育を施す必要があるとの問題意識が背景にあるものと考えられます。

②では、通報者に対し、通報対象事実の是正に必要な措置をとったときにはその旨を、通報対象事実がないときはその旨を速やかに通知することが求められています。これは通報者の内部通報制度への期待に応える観点から重要です。もっとも、適正な業務の遂行および利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲という留保が付いている点に注意が必要です。

③のうち、内部公益通報に関する運用実績の概要の開示は、内部公益通報の促進にとって有益と考えられますが、適正な業務の遂行および利害関係人の秘密・信用・名誉・プライバシー等の保護に支障がない範囲という留保が付いている点に注意が必要です。利害関係人の秘密等が守られないとなると、調査への協力を得にくくなり、結果的に内部公益通報制度にとってマイナスに働いてしまうことから、細心の注意を払い、バランスの取れた情報開示を行うことが肝要です。記録の保管や制度の見直し・改善は、内部通報制度に限らずさまざまな社内制度にとって重要なことですが、特に内部通報制度においてはセンシティブな情報を取り扱っているということを意識する必要があります。

④では、労働者および役員等の「そもそも自社の内部通報制度がどのようなものか分からない」といった疑問を解消するために重要であり、各社工夫を凝らして自社に最適な内部規程を策定することが期待されます。本指針の内容を網羅しつつ、自社の各種仕組みとマッチし、かつ理解しやすい規程にすべく、条項を練り上げ、細部を作り込む必要があります。

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3. 重要なのは自社に最適な内部公益通報対応体制を構築すること

本指針は企業が整備すべき内部公益通報対応体制の大要を示すものであり、本指針の求めに対応しつつ、自社として最適な体制を練り上げていく必要があります。

指針案に対する「パブリックコメント手続において寄せられた意見等に対する回答」では、「各事業者におかれては、自組織の状況を踏まえ、経営判断に基づき各事業者にとって現実的かつ最適な措置を取ることが必要と考えます。」という回答が多く、企業はさまざまな論点について1つずつ最適解を選びながら、他の制度とも調和した、自社にとってベストとなる内部公益通報対応体制を設計・構築していくことが求められていると読めます。

内部公益通報対応体制を未整備の企業は、本指針に沿ったものを1から作り上げることが必要となりますので、来年の公益通報者保護法施行を見据えて早めに設計・構築に取り掛かることをお勧めします。

既に一定の内部通報制度を整備している企業は、本指針に照らし足りない部分を特定し、十分かつ適切な改訂を行う必要があります。こちらも余裕をもって改訂内容を検討しておき、施行直前に慌てずに済むようにしておくことをお勧めします。

4. 次は「指針の解説」

内部通報UPDATE Vol.4で解説したとおり、今後、消費者庁は「指針の解説」を公表する予定であり、企業のご担当者はこちらも要チェックです(「指針の解説」の立て付けについては、パブリックコメント手続において公表された下記関連資料をご参照ください)。

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指針案に対する「パブリックコメント手続において寄せられた意見等に対する回答」は61頁に及びますが、「御提案の内容も踏まえながら、『指針の解説』の策定作業を行ってまいりたいと考えています。」という回答が多く、「指針の解説」は相当程度ボリュームのあるものになることが予想されます。

「指針の解説」の解説記事をタイムリーに作成・公開できるように、筆者も引き続き動向を注視していきたいと思います。


Author

弁護士 坂尾 佑平(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2012年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士、公認不正検査士(CFE)。
長島・大野・常松法律事務所、Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr 法律事務所(ワシントンD.C.)、三井物産株式会社法務部出向を経て、2021年3月から現職。
危機管理・コンプライアンス、コーポレートガバナンス、倒産・事業再生、紛争解決等を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。

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