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内部通報UPDATE Vol.4:迫る改正公益通報者保護法施行を見据えて④-指針案の公表とパブリック・コメント(意見公募)の開始-

1 はじめに

内部通報UPDATE Vol.3の中で、改正公益通報者保護法により従業員300名超の事業者に内部通報に適切に対応するために必要な体制整備が義務付けられる旨、およびその体制の具体的内容は消費者庁が別途定める「指針」で示される旨を解説しました。

この「指針」に関し、2021年4月に、消費者庁のホームページにおいて「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会 報告書」が公表されました。この報告書の22頁以下で、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(案)」(以下「指針案」といいます。)が示されています。

そして、4月28日付けで指針案に関するパブリック・コメント(意見公募)が開始され、受付締切日である5月31日まで指針案、および後述する「指針の解説」に盛り込むべき具体的取組事項に関する意見を募集する旨が公示されました(詳細については、下記ウェブサイトをご参照ください。)。

【関連リンク】
「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(案)」等に関する意見募集について

パブリック・コメント制度(意見公募制度)とは、国の行政機関が、政令等を決めようとする際に、あらかじめその案を公表し、広く国民から意見・情報を募集する手続です。

【関連リンク】
e-Gov「パブリック・コメント制度について」

指針案の具体的な内容についてはパブリック・コメントを踏まえて修正される可能性がありますので、今回は指針案の全体像を簡単にご説明した上で、今後想定される流れについて解説したいと思います。

2. 指針案における用語説明

指針案では、役務提供先等(典型的には、労働者および役員等が勤務する会社)に対する公益通報を指す言葉として、「内部公益通報」という用語が使われています。

また、内部公益通報を部門横断的に受け付ける窓口を「内部公益通報受付窓口」、内部公益通報を受け、ならびに内部公益通報に係る通報対象事実の調査をし、およびその是正に必要な措置をとる業務を「公益通報対応業務」、改正公益通報者保護法第11条第1項に定める「公益通報対応業務従事者」を「従事者」と定義しています。

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3. 従事者の定め

指針案の第3では、従事者について、以下のとおり定めています。

第3 従事者の定め(法第11条第1項関係)
1 事業者は、内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関して公益通報対応業務を行う者であり、かつ、当該業務に関して公益通報者を特定させる事項を伝達される者を、従事者として定めなければならない。

2 事業者は、従事者を定める際には、書面により指定をするなど、従事者の地位に就くことが従事者となる者自身に明らかとなる方法により定めなければならない。

この定めは従事者の指定等について定めているものですが、ポイントは、従事者となる者自身に、自分が従事者の地位に就くということをきちんと認識させる必要があるという点です。

改正公益通報者保護法では、従事者は公益通報の内容について守秘義務を負い、この守秘義務に違反した場合には30万円以下の罰金刑に処すると定められています。従事者がこのような重い職責を担う役職であるということを従事者自身にきちんと認識させることは、企業にとっても従事者にとっても重要です。

4. 内部公益通報体制の整備その他必要な措置

指針案では、内部公益通報体制の整備等について、(i)部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備、(ii)公益通報者を保護する体制の整備、(iii)内部公益通報体制を実効的に機能させるための措置という3つの柱を立てて、説明しています。

(i)部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備としては、以下の4つの措置をとらなければならないと定められています。

① 内部公益通報受付窓口の設置等
② 組織の長その他幹部からの独立性の確保に関する措置
③ 公益通報対応業務の実施に関する措置
④ 公益通報対応業務における利益相反の排除に関する措置

(ii)公益通報者を保護する体制の整備としては、以下の2つの措置をとらなければならないと定められています。なお、②では「範囲外共有」(公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有すること)と「通報者の探索」(公益通報者を特定しようとする行為)を防止することが定められています。

① 不利益な取扱いの防止に関する措置
② 範囲外共有等の防止に関する措置

(iii)内部公益通報体制を実効的に機能させるための措置としては、以下の4つの措置をとらなければならないと定められています。

① 労働者および役員ならびに退職者に対する教育・周知に関する措置
② 是正措置等の通知に関する措置
③ 記録の保管、見直し・改善、運用実績の労働者および役員への開示に関する措置
④ 内部規程の策定および運用に関する措置

5. 「指針の解説」(仮称)

指針案の全体像は以上のとおりですが、企業のご担当者はこの指針案だけを見て、内部通報制度(内部公益通報対応体制)を細部に至るまで作り込むことができるでしょうか?おそらく、もう少し具体的な解説が必要になってくるのではないかと思います。

この点に関し、「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会報告書」4頁において、「指針案においては、事業者がとるべき措置の個別具体的な内容ではなく、事業者がとるべき措置の大要を示すこととしている。事業者がとるべき措置の個別具体的な内容については、各事業者において、指針に沿った対応をとるためにいかなる取組等が必要であるかを、上記のような諸要素を踏まえて主体的に検討を行った上で、策定・運用することが必要である。この検討を後押しするため、政府においては、指針を策定するのみならず、事業者が指針に沿った対応をとるに当たり参考となる考え方や、想定される具体的取組事項等を示す解説(以下「指針の解説」と仮称する。)を策定することが期待される。」と述べた上で、同頁の脚注7において、「指針の解説には、指針において求められる義務の範囲を超えた推奨される取組事項等も併せて示すことが適当である。この場合、指針の解説のうち、義務的事項である指針の解説を記載する部分については民間事業者向けガイドライン等の既存のガイドラインと性質が異なるものの、推奨される取組事項等を示す部分については既存のガイドラインと性質が共通するため、既存のガイドラインは指針の解説に統合するなど必要な整理をすることが期待される。」と付言しています。

また、パブリック・コメントの意見募集要領には消費者庁が報告書を踏まえて今後「指針の解説」(仮称)を作成する予定であると記載されており、関連資料として「『指針』の策定に伴う従前のガイドラインの整理等」という下記資料が公表されています。

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なお、ここで引用されている「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」とは、消費者庁が改正前の公益通報者保護法を踏まえて2016年12月9日付けで公表したガイドラインです。

6. 今後想定される流れ

今後の流れとしては、パブリック・コメントの結果を踏まえて、「指針」の確定版が公表され、更に「指針の解説」が公表される見込みです。
企業のご担当者は、これらの公表版をきちんとチェックしておく必要があります。

筆者も動向を注視し、「指針」の確定版および「指針の解説」についても、タイムリーに記事にしていきたいと考えております。


Author

弁護士 坂尾 佑平(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2012年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士、公認不正検査士(CFE)。
長島・大野・常松法律事務所、Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr 法律事務所(ワシントンD.C.)、三井物産株式会社法務部出向を経て、2021年3月から現職。
危機管理・コンプライアンス、コーポレートガバナンス、倒産・事業再生、紛争解決等を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。

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