危機管理INSIGHTS Vol.15:スポーツ界の危機管理④-2023年のスポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>の改定-
1. はじめに
2023年9月29日、スポーツ庁は、「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」(以下、「中央競技団体向けコード」といいます。)を改定しました(以下、改定後の中央競技団体向けコードを「改定中央競技団体向けコード」といいます。)。
スポーツ団体ガバナンスコードについては、スポーツ庁が、2019年6月10日付けで中央競技団体向けコードを、同年8月27日付けで「スポーツ団体ガバナンスコード<一般スポーツ団体向け>」(以下、「一般スポーツ団体向けコード」といいます。)を策定・公表していましたが、今回は、前者の中央競技団体向けコードが改定されたということになります。
中央競技団体向けコードおよび一般スポーツ団体向けコードの概要は、以下のnote記事をご参照ください。
2. 改定の理由
中央競技団体向けコードが改定された理由について、スポーツ庁の「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>の見直しの概要」という公表資料では、以下の2点が挙げられています。
スポーツ界と社会の状況の変化や東京大会・北京大会等の開催によりスポーツへの期待が高まっている一方で、依然としてスポーツの価値を脅かす不祥事事案が発生
2023年度にはコードに基づく全中央競技団体への適合性審査が一巡することから、これまでの課題であったコードの実効性の確保の観点から見直しを実施
1点目の「スポーツの価値を脅かす不祥事事案の発生」という点に関しては、さまざまなスポーツ・競技において、会計不正やハラスメントのような一般企業でも起こり得る問題から八百長やスポーツ賭博といったスポーツ界特有の問題まで、多種多様な不祥事が発生・発覚し、その度に大きく報じられています(スポーツ界における不祥事の分類については、下記のnote記事をご参照ください)。
2点目の適合性審査については、危機管理INSIGHTS Vol.10:スポーツ界の危機管理②-スポーツ団体ガバナンスコード-にて解説していますので、ご参照ください。
3. 改定までの経緯
スポーツ庁は、2023年8月9日から18日までの期間に、中央競技団体向けコードの改定案に関するパブリック・コメントを実施しました。このパブリック・コメントの結果概要によると、20団体・個人から、のべ44件(重複を排除すると合計34件)の意見が提出されました。意見の内訳は、以下のとおりです。
これを見ると、原則2(適切な組織運営を確保するための役員等の体制を整備すべきである)を筆頭に、体制整備、規定整備、教育といった不祥事の予防的側面に関して、特に多くの意見が提示されたことが分かります。
4. 改定のポイント
改定の概要については、スポーツ庁の「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>の見直しの概要」という公表資料において、以下のとおり整理されています。
前提として、既存の13の原則自体について、変更はなされていません。
その上で、中央競技団体向けコードの実効性確保のため、概要、以下の記載の見直しを行いました。
このうち、危機管理の観点から特に重要性が高いのは、①「統括団体が実施するコンプライアンス研修の活用を含め、競技横断的に取り組むことを記載」した点と、②「不祥事発生時の適時適切な公表に関する記載を追加」という点であると考えます。
①については、不祥事予防のために欠くことのできない要素である「コンプライアンス教育」に言及している点が注目に値します。具体的には、「コンプライアンス教育については、競技にかかわらず共通する内容も多いことから、統括団体が実施する研修の活用を含め、競技横断的に取り組むことも考えられる。」と記載し(改定中央競技団体向けコード34頁)、競技横断的な取組みを一例として明記しています。
②については、不祥事発生時の対応として重要性の高い情報の公表に関する記載を端的に明記した点が注目に値します。具体的には、「発生した不祥事の事実関係、処分の内容、根本的な原因及び再発防止策等を、その事案に応じて適時適切に公表することが望まれる。」と記載しています(改定中央競技団体向けコード53頁)。不祥事はステークホルダーが大きな関心を寄せる事項であり、不祥事の事実関係に関する迅速かつ適切な事実の公表が重要であることは言うまでもありません。日本取引所自主規制法人が2016年2月24日に公表した「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」の「④迅速かつ的確な情報開示」において、「不祥事に関する情報開示は、その必要に即し、把握の段階から再発防止策実施の段階に至るまで迅速かつ的確に行う。この際、経緯や事案の内容、会社の見解等を丁寧に説明するなど、透明性の確保に努める。」と明記されていますが、当該プリンシプル公表から7年以上経過した現在においても、情報開示や公表の重要性は変わらないどころか、一層重要性を増しているように思われます。
5. おわりに
近年、国内・世界で活動するスポーツ選手が目覚ましい活躍を見せており、報道等でスポーツの話題が広く取り上げられるとともに、報道等で取り上げられるスポーツの種類自体も多くなっている印象を受けます。
注目を集めることは、選手らを含む当該スポーツに関わるさまざまな方にとっては、もちろんプラスの面が大きいかと思いますが、一方で注目を集めることの副作用として、マイナスの面・影の面が白日の下に晒される可能性も大きくなります。ひとたび中央競技団体や選手・監督等の問題行動・不祥事が発覚してしまうと、イメージの悪化やスポンサー離れといった事態が生じかねません。
そのような事態を回避すべく、中央競技団体向けコードの適用のある団体は、改定内容を適切に把握した上で、一層のガバナンス強化を図ることが望まれるところです。本稿がそのために一助になれば幸いです。
Authors
弁護士 坂尾 佑平(三浦法律事務所 パートナー)
PROFILE:2012年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)、ニューヨーク州弁護士、公認不正検査士(CFE)。
長島・大野・常松法律事務所、Wilmer Cutler Pickering Hale and Dorr 法律事務所(ワシントンD.C.)、三井物産株式会社法務部出向を経て、2021年3月から現職。
危機管理・コンプライアンス、コーポレートガバナンス、ESG/SDGs、倒産・事業再生、紛争解決等を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。
弁護士 中村 朋暉(三浦法律事務所 アソシエイト)
PROFILE:2022年弁護士登録(第二東京弁護士会)、一橋大学法科大学院学修アドバイザー。
三浦法律事務所の新卒第1期生として2022年4月から現職。
危機管理・コンプライアンス、コーポレートガバナンス、ESG/SDGs、訴訟・紛争等を中心に、広く企業法務全般を取り扱う。
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