【私小説】神の音 第1話

  *

 こんな人生、認めたくなかった。

 二〇〇八年三月、僕は高校を中退した。

 中退した理由は、周りが僕を除け者にしたからだ。

 二〇〇七年三月、中学三年生だった僕は卒業を間近に控えていた。

 市を冠しているが、まるで田舎な中学校に通っていた僕は最後はみんなで仲良く卒業をしたかった。

 でも、それはできなかった。

 声だ。

 人の声が聞こえた。

「ねえねえ。カミツキ君ってどう思う?」

 この声が僕を変えさせた。

 僕は周りに何かを思われるのが苦手だったのだ。

 僕は家に引きこもるようになった。

 周りに何かの印象を抱かせるのを避けてきた僕にとってその声は恐怖を抱かせるものだった。

 その後、家にクラスのみんなと先生が僕に対して謝りに来た。

 なんで謝りに来たのかは僕には分からなかった。

 とりあえず、「ごめんなさい」と言えば済むと思ったらしい。

 それくらい目的が不明確だった。

 僕は謝りに来たみんなに「ありがとう」と言った。

 なんで「ありがとう」と言ったのかは僕自身も分からなかった。

 その後、僕は卒業式に出席した。

 卒業式は世間一般的な華やかなイメージではなく、寂しいものだった。

 歌を歌わない卒業式。

 歌を歌うことが気難しい卒業式。

 僕のクラスは十人に満たなく、歌を歌うことは気難しいものだった。

 僕はそんな卒業式を「最悪な」と表現した。

 それくらい陰鬱な卒業式だった。

 卒業式が終わった後、僕はクラスメイトとメールアドレスを交換した。

 絆を確かなものにするためには、メールアドレスを交換することが現代の日本の若者には必要不可欠なものなのだ。

 僕たちはメールアドレスを交換し終わると、野球をして絆を改めて確かめ合った。

 卒業式は最悪だったが、卒業式が終わった後は最高だった。

「別々の学校に行ってもみんな仲良しだよね?」

 その言葉が僕の思い出として彩った。

 だが、その言葉は真実になりえなかった。

  *

 二〇〇七年四月、僕は市で一番の進学校に入学することができた。

 僕は楽しみだった。

 高校生活が。

 新しい青春時代が。

 だが、そんな思いは長くは続かなかった。

 入学式初日、僕は同じ中学校の友達に話しかけようとしたが、知らんぷりされてしまった。

 なんでだろうと僕は思った。

 やがて僕はその友達のSNSのプロフィールを見た。そして気づいてしまったのだ。

 僕がSNSの掲示板で悪口を言われていることに。

 僕は悲しくなった。

 僕は陰口を言われることが大の苦手なのだ。

 なのになんで中学の時と同じようなことをしたんだ。

 僕はまた学校に通えなくなってしまった。

 なんでこんなことになってしまったんだろう。

 分からない。

 分からないんだ。

 本当に。

 僕は批判されることが大の苦手なのに、周りに陰口を言われている僕自身に対して激しい嫌悪感を抱いた。

 いや、抱いたのか?

 僕は嫌悪感を抱いているようで、嫌悪感を抱いていなかった。

 嫌悪感を抱いたのは、その友達だった。

 僕は、その友達を激しく恨んだ。

 なぜ僕をシカトの対象にしたのかと。

 なぜ僕でなくちゃいけなかったのかと。

 中学の時はいつも下の立場だった僕をなんやかんや言いながら付き合ってくれたのに。

 なぜ高校時代――青春時代の時にこんなことをしでかしたのだ。

 やはりあの出来事のせいなのか?

 僕があの時引きこもりになったから。

 引きこもりにならなければそんなことが起きなかったのか?

 分からない。

 やっぱり分からないんだ。

 僕がしたことがいけなかったのは分かる気がする。

 でも、今じゃなくてもいいじゃないか。

 僕は君と友達で居続けたかったんだ。

 中学からも。

 高校からも。

 たとえ高校で奇跡的に友達ができたとしても、僕は君と友達で居たかったのに。

 その後、僕は「自意識過剰だ」と言われ、周りに相手にされなくなった。

 二〇〇七年十月、剣道部に入ろうと思い剣道部に見学しに行ったが、何の問題もなかったと言えば嘘になる。

「あいつ、あのカミツキじゃね?」

「ああ、あの自意識過剰の」

「なんで今更学校に来るんだよ」

「もうやめちまえよ、学校」

 なんて声が聞こえたのだ。

 僕はここに居場所がないことを再確認したのだ。

 周りの声に怖くなり、「自意識過剰だ」と言われる毎日に嫌気がさしたのだ。

 いつの間にかSNSの友達も僕の通っている学校の人のだけは友達解除されていた。

 もう、戻れない。

 僕には好きな人がいた。

 名前はツキコという。

 年は僕より一歳下で中学の時の後輩だ。

 彼女は社交的で僕とは正反対の性格だった。

 明るくて、いつも楽しそうな人だった。

 僕と彼女の接点は、バスケットボール部に所属していたことだった。

 彼女はバスケットが得意で、僕は苦手だった。

 運動面に関しても正反対であった。

 僕は彼女に情けない部分を見せたくなかった。

 笑われたくなかった。

 だから、僕は高校を中退することにした。

 将来的に入るであろう僕が通っていた高校に。

 さようなら、ツキコ。

 もう会うことはないだろう。

  *

 二〇〇八年四月、僕は都心の高校に再入学した。

 慣れない環境に移り変わる中、僕は「コーポ石畳」という下宿でお世話になることになった。

「コーポ石畳」のおじさんとおばさんが僕を心配そうに見つめていた。

 まあ、理由は分かる。

 僕は高校を一回中退した身だ。

 だから僕がこの先一人で生活できるのか心配しているのだろう。

 僕はおじさんとおばさんにそんな思いを持たれているのだろうと確信し、迷惑をかけないように最低限努力することにした。

 まずは、声を大きく出す練習からだ。

「コーポ石畳」には、かつて幼稚園で一緒だったマスイズミ君と、中学校のバスケットボール部関連でお世話になったホシノ君がいた。

 そして、クチタニ君。

 彼ら三人組の集まりがその下宿にあった。

 僕はその三人組のグループに入りたかったが、彼らのようなコミュ力はなく仲間に入れてもらえるような力がなかった。

 彼らと仲良くなりたかったが、僕は高校での友達を増やすためにテニス部に入部した。

 バスケットボール部にも誘われたが、中学校の思い出に良いことがなかったので僕はバスケットとしばらくお別れをすることになる。

 僕はテニス部に入って変わろうとしたが、根本的な性格は変わることはなかった。

 いつまでたってもウジウジしてる。

 そして周りに見下されるいつものパターンだ。

 僕は周りに見下されていたのを理解していたので、年が一つ上だったことを言わなかった。これ以上見下される上に年上だってことがバレることがマイナスになると思ったからだ。

 僕は周りに見下されながらもテニス部に通い続けることはやめなかった。

 理由はひとつだけある。

 僕には好きな人がいるのだ。

 名前はタケマル・トモエ。

 同じテニス部の女子だ。

 テニスが得意で勉強も得意で特進クラスに所属している彼女のことを好きになったのはツキコの影響があるかもしれない。

 眼はツキコと違ってパッチリ二重。顔は丸顔で可愛らしい感じだ。

 僕は彼女に告白しようと計画していたが、男子と女子の壁は大きくなかなか話しかけることができなかった。

 だけど目は合っていた。

 目が合うことはネットでも両想いな状態が多いと言われている。

 僕は彼女と両想いなのかそれとも片思いなのか思い悩んでいた。

 思い悩んでなんやかんやで二年の時が流れていた。

 二年間、彼女に声をかけることができなかったのは失敗だったが、まあ僕自身が臆病な性格だったので仕方ないと言えるだろう。

 二〇一〇年七月、僕はテニス部の大会に出場することなくテニス部をやめることになった。

 まあ、中学校のバスケットボール部の頃から万年補欠だったのだ。

 無理もない話さ。

 そんな不甲斐ない僕は、勉強をすることにした。

 情けない僕自身を変えるためには何かに取り組むことが一番だと思った。

 そして、トモエちゃんにお近づきになるために僕は進路指導室に通うようになった。

 トモエちゃんはどこの大学に行くのだろうと考え込みながら勉強していた。

 そんな僕は自身を哀れだと思いながらトモエちゃんに声をかけようと思い進路指導室で待った。

 彼女が現れるのを待ちながら。

 そして彼女は僕のところへ話に来た。

「あ、カミツキ君!」

 その声はまるで透き通るような音だった。

 そんな声が僕自身に向けられている。

「いつも進路指導室で勉強しているんだね」

 へ、返事をしなきゃ。

「う、うん。一般進学コースの僕はい、色々と不安だからね」

「そうなんだ。勉強頑張ってね」

 彼女は透き通るような音を出し終わった後、すぐさま去って行った。

 僕には一つの疑問が生まれた。

「どうして僕に話しかけたんだろう?」

 前々から目が合うことがあったにせよ彼女から話しかけることはなかった。

「ぼ、僕に気があるのかな?」なんて独り言を呟きながら、そんなことを思った自身を気持ち悪いと思いながらも彼女、トモエちゃんにお近づきになりたいと思いこれからどうしようと考えるようになった。

 そんな思いを持ちながら僕は「コーポ石畳」に帰ろうと進路指導室を出たのだった。

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