【私小説】神の音 第6話
*
あーあ、またひとつ恋愛が終わってしまった。
僕は心の中で懺悔した。
次はどうしようかなあと思ってみたけど、僕は不細工なので恋愛の自由なんて許されてないんだと悟った。
あーあ、僕の恋愛経験でいったい何ができるんだろうと思ったが、まあ無理なんだろうと思った。
仕方ない?
仕方なくない?
どっちなんだろう?
はあ……。
溜息が出る。
僕は自分の将来に不安を抱いた。
結婚できるかなあ?
考えても杞憂になるだけだ。
僕は考えるのをやめた。
「カミツキ、夜ご飯を買ってきてくれないか?」
クチタニ君が僕に頼んだ。
「早く行ってきてくれよ。上司の命令は絶対なんだからな」
僕は急いでコンビニへ向かった。
最近は命令されることも身体に染みついている。
何か違和感を感じるが、それについて考えるのはよした方が良いだろう。
杞憂になるだけだからな。
僕はコンビニで頼まれたカルボナーラと肉まんを買ってきた。
クチタニ君はそれを見て「よくやった」と言わず、早速カルボナーラと肉まんを口に豪快に入れた。
僕は汚いと一瞬思ったが、それを考えるのをやめた。
クチタニ君は何をしてもカッコいいからな。
汚いことなんて一度たりともないのだ。
僕はきつく自分にそう言い聞かせた。
「残りやるよ。感謝しろよ」
僕はクチタニ君からカルボナーラの残りをもらった。
僕は食べたくなかったが、クチタニ君の命令は絶対なので、僕はカルボナーラの残りを食べた。
「将来、お前はどうやって生きるんだい?」とクチタニ君は言った。
「将来、カミツキは何になりたいのか訊いているんだ」
僕はそれに答えた。
「僕は将来、普通に大学に入って普通にサラリーマンになって普通に過ごすんだ」
「それがお前の夢なのかい?」
「そうだよ。僕はちょっと恵まれた普通の人生を歩みたいんだ。僕の人生は普通の人よりちょっとずれちゃっているけど、普通になって今の現状から元に戻りたいんだ。中学生だった頃の普通の人生に……」
「そうか。それがお前の夢か。ぬるいな」
「ぬるい? それはどういう意味ですか?」
「言葉通りの意味だよ。お前はそんな人生で満足できると思っているのか?」
「……はあ? 満足できると思うよ。今の現状よりはね」
――現状。
僕の今の現状。
普通の人の人生より一年遅れている現状。
僕は今の人生を否定している。
これは自分の人生じゃないと――。
「……まあ、今の現状より良い人生を歩みたいのは確かです」
「……そうか。そんな人生で満足するかねえ。まあ、しばらくは様子見しとくか」
「……様子見?」
僕は目をパチクリした。
まるで自分の人生を観察するような言い方だったからだ。
「様子見ってどういうことです?」と僕は問いかけた。
「今は分からんでいいよ。後で分からしてやる」と彼は言った。
その後、僕は久しぶりに部屋で一人になった。
何だか解放感が感じられたが、きっと気のせいだろう。
僕は久しぶりに電話をかけてみようと思った。
誰にだって?
僕の唯一の友達と言える人さ。
僕にも親友がいるんだ。
意外だって?
失敬だなあ、と僕は一人で誰に問いかけてるわけでもなく独り言を進める。
名前はコウ君。
年は僕より一歳上だが、地元の小学校で知り合った中でも一番仲が良かった。
まあ、田舎の小学校だったので年の差で先輩後輩のようなぎこちない関係はなかった。
僕は小学五年生だった時、新潟の小学校に転校した。
その時に唯一泣いてくれた人がコウ君だった。
コウ君とは転校した後も交流が続いた。
転校した二年間の地元に帰ってきたほとんどはコウ君と遊んでいた。
それくらい仲が良かった。
二年後、僕が地元に戻ってきた後もよく遊んだものだ。
中学校に進学しても僕らはよく遊んだ。
コウ君は僕より一年先に都心の進学校に進学した。
コウ君は僕より頭が良く優秀だったから、僕より勉強はできた。
僕が都心の高校に再入学した時、彼は僕に勉強をよく教えてもらった。
そしてゲームの楽しみ方も。
早速電話をかけてみる。
「もしもし? コウ君久しぶり! 元気?」
『元気元気! タケルは元気?』
「元気だよー!」
こんな感じのたわいのない会話が僕を元気づける。
やっぱり親友は良いものだ。
『タケルはさあ、大学どうするの? 俺と同じ大学に来ないか?』
コウ君は関西の有名な大学に通っている。
僕のレベルじゃ通えるのか疑問が残るので、僕は躊躇している……わけではなく行きたいと思っている。
ただ、成績が振るわない。
「うーん、行きたいんだけどさあ、僕の成績じゃあ受験までに間に合わないよお……」
『大丈夫だって! 今から勉強すれば絶対間に合うよ!』
コウ君は健気だなあ。
僕は勇気づけられるなあと思った。
「うん、分かった! コウ君と同じ大学に通えるように頑張るよ!」
僕は決意を固めた。
紅葉が散り季節が移り替わる中、僕はコウ君と同じ大学を目指して勉強するようになった。
バカでも今から勉強すれば間に合うかなあ。
そんな思いが僕の中を渦巻いていた。
でも、そう思うことが間違いなのだ。
やればできる。
僕はそう言い聞かせた。
しかし、最近は学校に通うのも億劫に感じてしまう。
なぜなら僕は告白を二回しているからだ。
一つ目はトモエちゃん関連。
二つ目はヤウチさん関連。
一つ目はメールを出したことで周りに知られているが、二つ目はブツダ君の件で感づかれてしまっている。
二つの出来事が僕を苦しめる。
まあ、仕方ないと言えば仕方ないのだが……。
「ねえ、カミツキってさあ結局どっちが好きなんだろう?」
また僕を噂する声が聞こえる。
「さあ、私はヤウチさんだと思うけど」
――いい加減にしてくれ。
「へえ、私はまだタケマルさんのことが好きだと思うけどなあ」
もううんざりだ。
こんな話はとっとと自然消滅してほしい。
僕は疲れた。
下宿に帰っても癒しがない。
下宿に帰ったらクチタニ君がいる。
クチタニ君は僕に命令するだろう。
内心はすごくうんざりしている。
彼の行動は脅迫に近いと思う。
でも、どこかで信頼している自分がいるのも確かだ。
僕は彼を信じていいのだろうか?
分からない。
分からないけど信じるしかない。
僕はクチタニ君に導いてもらうことで人生を良いものにしていくんだ。
そう決めたんだ。
だから僕はクチタニ君を信じるしかないんだ。
「おーい、カミツキいる?」
僕はその声に反応する。
クチタニ君だ……。
「はーい、どうぞ」と僕はすぐに応えた。
「やあ、カミツキ! 髪切りに来たぞ!」
「髪……切り?」
「そう! 髪切り! 要するに散髪! 伸びきった髪をキレイにしないとね!」
散髪……もうそんな時期か。
僕の髪は伸びきってボサボサだ。
まあ、言うほど汚くはないけど、切る時期にはうってつけだろう。
でも、クチタニ君に切ってもらって大丈夫だろうか?
色んな意味で。
僕の不安感は拭えなかったが、クチタニ君はハサミを取り出しウキウキ顔で部屋に入ってきた。
もう遅いと運命づけられる。
「さあて、髪切り髪切り! 余分な髪をカットしないとねえ♪」
こ、怖い……。
彼の笑顔はまるでどこかの笑うセールスマンのようだった。
もう彼に従うしかない。
「切るぞー♪」
僕は覚悟を決めた。
でも、僕の目はもう涙で溢れていた。
ジョキン! ジョキン!
髪型が散々になってきた。
もう鏡も見れない……。
「後は……自分でやっといてくれ。髭剃りがあるから髭剃りで余分な髪を剃って」
僕は横側の髪をツーブロックのように剃れと言われた。
僕は彼の言うとおりにした。
もう嫌だ。
僕の感情は嫌な心でいっぱいだった。
「一応言っておくけどさあ、これ、カミツキが切ったってことだよなあ?」
……は?
「カミツキが切ったってことだよなあ?」
……こ、怖い。
僕はクチタニ君の手によって丸め込まれてしまった。
――次の日、学校へ行くことが億劫に感じた僕は学校に行かない選択肢を選ぼうとしたが、学校を休み過ぎるのもあれなので結局通うことにした。
「カミツキー! いつまでそんなとこで突っ立っているんだ! 早く教室に入ってこい!」
僕は先生に言われるまま教室に入った。
するとクラスメイトの反応がとても痛かった。
「いじめにでもあったのかな?」
「でも、面白いし写真撮っとこ♪」
クラスメイトの反応はとても冷ややかだった。
でも、僕は負けない。
そう誓った。
僕を見る人が僕を異常だと思っても関係ないんだ。
僕は強くならないといけないんだ。
そう思った。
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