【18歳以上向け?】無限の感覚 第12話

  *

「創造世界《クリエイティヴィア》管理員《ライブラリアン》識別番号《コードナンバー》『354846』よ。なぜ罪を犯した?」

 ――ここは創造世界《クリエイティヴィア》の罪を裁く場所。僕は尋問されている。

「僕の心は病んでいたんだ」

「病んでいた、とは?」

「なにも感じない。なにも感じないんだ」

 僕は過去を振り返る。

「昔からよくいじめられていたんだ。中学三年のころ、本当に病んでしまい不登校になった時期があった。先生は同級生を連れて僕の家にやってきたけど、ただ謝りに来たって感じがして、僕の中では、なにも解決しなかった」

「中学三年とは、どういう意味かな? よくわからないのだが……」

「僕は、『僕の世界』のことを『宇宙世界《ユニヴァーシア》』と呼んでいます。宇宙から形成された世界だから」

「はあ」

「話を続けてもいいでしょうか?」

「どうぞ」

「中学は省略表記だ。正確には中学校と呼びます――」

 ――僕は宇宙世界《ユニヴァーシア》に存在する学校というものを尋問者に説明していく。小・中・高・大――と、順々に。

「なるほど。それが学校というものか」

「ええ、いろんなニンゲンがひとつの部屋に閉じ込められながらコミュニケーションをしなければいけないんです。それが、すごく苦しかった」と、僕は言った。

 僕は創造世界《クリエイティヴィア》を例に説明する。

「創造世界《クリエイティヴィア》での管理員《ライブラリアン》は宇宙世界《ユニヴァーシア》では社会人という分類に当てはまると思います。管理することは働くに近いかと。学校は働いているのに社会人として扱ってくれない――いわゆる賃金の出ない『拷問所』というところでしょうか」

「で、結局なにが言いたいのだ。話題をそらさないでほしい。私がキミに聞きたいことをもう一度だけ言おう。なぜ創造世界《クリエイティヴィア》管理員《ライブラリアン》識別番号《コードナンバー》『354846』であるキミが――『私情にとらわれた世界』の情報《データ》を『次元《じげん》世界《せかい》管理《かんり》保管庫《ほかんこ》』に収納《インサート》した――罪を犯したのか? と、聞いているのだ」

「わかりました。端的に言いましょう」

 僕は端的に説明する気持ちで言う。

「僕は中学よりランクが上の高校へ進学した。でも、中退してしまった。なぜか? それは中学のときのいじめが原因で脳ミソの感覚がおかしくなってしまったからだ」

「感覚がおかしくなる。もしや、あのマーブル状の映像は――」

「――ええ、あれが僕の見ている世界の感覚です。だけど実際には、ほかの宇宙世界《ユニヴァーシア》の地球《アース》に存在するニンゲンと同じ風景を見ていると思います」

「なのに、なぜ、あんな映像が……」

「簡単なことです。僕をいじめていた同級生に感覚を狂わされたからに決まっているじゃないですかっ! いじめが原因で『死』の因子が体に刻み込まれた。僕をネガティヴな心にしたのは強者である彼らだっ!」

 僕は本音をさらけ出す。

「真実はね、ずっと前から異質な存在として扱われていたんだ。幼少期から、ずっと。だけど『死』の因子が刻み込まれたのは中学のころだと判断できる。中学を卒業する直前に感覚がおかしくなり始めたんだ。世界が僕を笑っていると思ったのは、そのころだ。間違いなく。中学を卒業して地元の高校に入学した。だけど、中退した。一緒に入った中学の同級生が僕を除《の》け者《もの》にした。『除け者にしろ』と、彼らの高校での友達に言ったんだ。僕が高校で友達をつくろうとしても手遅れだった。みんなが僕のことを無視して笑い者にした。証拠はない。だが、そういうのは証拠を出さないものだ。みんなで僕をだまして笑っているんだっ!」

 尋問者は僕の顔を見る。

「気持ちいい話じゃないでしょう? そりゃそうだ。僕だって気持ち悪いさ。ただ、原因は僕じゃない。彼らが僕を壊した原因だ。なのに、彼らは責任を取らない。結婚して子供をつくって幸せな毎日を送っている。僕は彼らによって犠牲者となったにも関わらず、不幸せな毎日を送っているってわけだ」

 尋問者の目は、ただ僕の目に焦点を当てている。

「だから僕は小説を書き始めた。『無限《むげん》の感覚《かんかく》』という小説を。これが僕の処女作。僕は感覚が気持ち悪くなった自分を修復するための『治療器具』を作成したんだ。小説を書くことで周囲のニンゲンから共感してもらえば僕は『認められた』と思えるようになる。――で、実際に書いてみたわけだが……まったく共感されなかった」

「そうだろうな。キミの世界は独りよがりだ」

「……そう。そんな独りよがりな世界だからこそ、僕は自分自身を責めた。呪った。『死』の因子のせいで僕には『感動』という感情が欠落している。風景を見ても『風景がある』としか感じることができない。風景描写? 風景は風景だろ? それ以外になんの価値がある? と、思っていたさ。僕は結局、世間で認められる小説家にはなれなかった。だから僕は『死』の因子による能力で創造世界《クリエイティヴィア》を観測し、管理員《ライブラリアン》となった」

「354846。『死』の因子はキミのつくった架空のモノだ。そんなものは、あらゆる世界のどこを探しても存在しない」

「いや、存在する。だったら、なぜ僕は――ここにいるんだ?」

 尋問者は回答する。

「それはキミの『意志の力』によるものだ。キミは宇宙世界《ユニヴァーシア》を出たいと思った。その意志を創造世界《クリエイティヴィア》が受け取ったのだ。キミの想いを」

 尋問者は淡々と説明する。

「354846という識別番号《コードナンバー》は、そういう存在にキミがなりたいと思ったのだろう。だから識別番号《コードナンバー》が354846ミコシバ・シローとなった。それもキミの想い。意志の力の影響だ」

「僕の想いが創造世界《クリエイティヴィア》に伝わったってことなのか」

 僕は少しだけ納得した。

「でも、待てよ。だったら、どうして『僕のつくった世界』である『無限《むげん》の感覚《かんかく》』を認めてくれないんだ?」

「『私情にとらわれた世界』は物語を崩壊させるからだよ」

「どういう意味なんだ?」

「キミは自分に酔っている。不幸な自分を愛しているナルシストだ。キミに救いはない」

「救いがない……だと?」

「物語というものは私情を挟まないのが鉄則だ。キミは『無限《むげん》の感覚《かんかく》』で私情にとらわれた表現が多く見られる。キミの世界では純文学というジャンルに近いだろう。だが、創造世界《クリエイティヴィア》では完全なる世界をめざすために私情を殺す。結局、感情は無意味なのだ。『なぜキミを創造世界《クリエイティヴィア》に呼び寄せたのか?』ということに対して本当の理由を教えてやろう」

 僕は尋問者の言葉に耳を傾ける。

「欠陥《バグ》を消去するためだ」

「僕が欠陥《バグ》を持っているというのか?」

「そうだ。キミの行動を観察させてもらった。どんな動きをするのか? どんな想いで感情をむき出しにするのか? 情報《データ》は集まった。これからキミが言う宇宙世界《ユニヴァーシア》を含む、すべての世界を修復するのだ。すべての生物の感情をコントロールする」

「やめろっ! そんなことをしたらロボットのようになってしまうぞっ!」

「キミが愛しているのはロボットだろうに。……まあ、別物だとは思うが。今の発言は『ロボットでなきゃ彼女ができない』と思い込んでいるキミにとって自分自身を苦しめる要素《ファクター》なのになあ――」

「――――」

「――さて。キミの殺処分を始めようか」

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