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本の感想

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『なぜ働いていると本を読めなくなるのか』についての非常に脊髄反射的な感想

『なぜ働いていると本を読めなくなるのか』についての非常に脊髄反射的な感想

さて、感想を書く前に要約を書くのが習わしであるが、この本の内容は著者のこの2行に言い尽くされている。

本書は趣味の一つとしての読書を、自分自身とは離れた文脈に触れる機会であるとしている。読書と働き方についてのレビューから、最終的には社会構造の変革こそが働きながら本を読めるようになる方法であるという主張にまで踏み込む。
そう、実はこの本、働きながらでも本を読める方法のハウツーを教えてくれるわけでは

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『自分の中に毒を持て』感想

『自分の中に毒を持て』感想

太郎氏が全身全霊をかけたドロップキックを喜色満面で繰り出しているそんな時、私のはせいぜいが右ストレート(それも体重を残して左手を顔の横にした形で)とかだろう。

雑なまとめ方をお許しいただきたいが、本書は「自分として純粋に生きること」、「無条件に生命をつき出し爆発する」ことのススメである。
彼の本、『自分の中に毒を持て』を読み始めた時、その姿がチャールズ・ストリングランドと重なった。モームの『月と

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ネタバレ『神に愛されていた』感想

ネタバレ『神に愛されていた』感想

2時間で読んで、30分余韻に浸って、今、これを書いています。
素敵な素敵な小説でした。

光と影という表現があります。
本作の二人の主人公は、ほんの一時だけの重なって、正にその光陰を繰り返します。
光が当たる天音の影に落とされた冴理。天音は初めて読んだ小説、冴理の小説を聖書として、冴理は天音の小説に受難し、十字架を背負いながらすれ違いや回り道を繰り返して坂を登り、最後には互いに感情を束ねたブーケを

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森見登美彦『夜行』感想

『夜行』、夜を行く。YOASOBIは駆けていたが、森見氏はどうももう少しゆっくりと夜を楽しむらしい。『夜は短し歩けよ乙女』というタイトルも同氏のものである。
ところで以下はネタバレを含むから、読む人は気をつけて欲しい。

物語はある画家の「夜行」という連作を中心に展開する。「夜行」は「永遠に続く夜」をテーマとする連作であり、それぞれ「尾道」であったり「奥飛騨」であったりの場所と、一人の女性がモチー

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舞踏会中毒と葱

『愛じゃないならこれは何』という斜線堂有紀さんの短編集の中の「きみの長靴でいいです」の感想になります。

舞踏会中毒というのは作中からの持ってきた言葉なのですが、相手との関係性に夢とかロマンとかを乗せすぎるというような意味になるかと思います。この物語においてはあるブランドの天才デザイナーの女性と有名カメラマンの男性が、ブランドが世間に見出されて成功していくきらきらしたシンデレラストーリーの中で、お

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