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火事と噂話〜長女のご近所付き合い


ある日の夜、特にすることもなく早めにベッドに入っていた。すると突然廊下からバタバタと急ぐ足音が。何かあったことを察して、寝室のドアが開くと同時に私は跳ね起きて訪ねた。

「何かあった?」

すると次女が、

「おんちゃん(長女)ちの横のお家が火事だって」

「なんですと!」

とりあえず次女は「先に行く」と言って家を出て行った。長女宅まで歩いて5分もかからない。私はというと、まずパジャマを脱いで着替える。着替えながらちゃまに

「ちゃまはどうする?行く?行かない?」

と尋ねる。初めは「行ってこい」と言っていたが、私がグズグズしてるうちに

「やっぱり行こうか」と気が変わる。うん、だと思ってた。だってちゃまは近所で火事があると見届けに行きたい人。


2人で着替えてやっと出発。ご近所の人たちも何処が火事かと大勢外に出て来ている。お隣の奥さんに
「何処が火事?」と聞かれ、
「娘の家のお隣が火事みたいなんです」と答える。
「あらあら、そりゃ急いで行かないと。」


長女宅が見える所まで来ると、火は既に消えているようだった。それでも消防車が何台も来て、放水中だし、消防士さんがお隣の家の裏口辺りに集まってドアのガラスを割ろうとしているのが見えた。私たちは消防士さんや消防団の人たちでごった返す中を悠々と歩いて、長女宅に入る。夜の9時すぎ。お孫ちゃんは寝ているようだ。


長女によると、突然玄関のドアを叩く音がして、誰かと思うとお隣のご主人(50代後半)で、「助けてください」と言っている。が、当時家には自分と子供の2人だけで、何が起きているのかが分からず怖くて直ぐに開けられなかったと。すると、
うちが火事なので、お宅の庭のホースを貸してほしい」とのこと。それならどうぞと言ったものの、家庭用のホースでは届かず結局消防車の到着を待つしかなかったらしい。


結果的には大した火事ではなく、お隣さんと長女宅は間にお互いの駐車場を挟んで建っているため、長女宅への被害もほとんど無く、良かった良かったと胸を撫で下ろす。何しろ私はお嫁に来てから2回も間近で大きな火事に遭遇しているもんで、火事の怖さはよく知っている。


さて、そんなことがあってから2週間以上も経ったある日。
私は毎朝義母を義母が通う病院の近くまで乗せて行くことを日課にしているのだが、その義母が火事の話題を出して来た。何でも、長女が住んでいる地区の町内会長さんが義母の知り合いで、その人から聞いたという話を私に教えてくれたのだ。その内容というのが、

・お隣さんがうちの長女に「消防署に電話してくれ」と言ってきたんだってよ
・その、お隣の家のご主人というのは随分難しい人らしいよ
・仕事中の事故で腕をケガして、仕事辞めたんだって
・今は義手をはめてるって
・その人の奥さんは中国人なんだって


‥はぁ、、、そこまで聞いて私は思わず言った。

「確かに片腕は無いみたいですけど、奥さんが中国人とかは火事と全然関係ないし、そういうのはもう結構です」って。義母はもっと話したそうだったけど、ちょうど病院に着いたので私はホッとした。朝イチに聞く噂話は気分が萎える。義母はもちろんうちの長女を心配して良かれと思って教えてくれたのだろうけど、残念ながらその思いは伝わってこない。いや、どんな言い方をされてたとしても私はやっぱりキレたかもな。他の人からの情報だったら素直に聞けたかもな。義母だから、だったかもな。と、後からいろいろ反省する。


隣のおじさんの話は長女から聞いている。私もたまに見かけるが、私より年上だと思っていたら私よりも若いことが判明してちょっとだけショックだったし、片腕が無いことも聞いていた。


長女宅がある場所は、交差点から一本入った所で、そこに新しい家が4軒ある。そこから、交差点のある道路に出る時、右手はちょっとした坂道でそれを下った所が交差点の信号、下りなので結構スピードを出して下って来る車も少なくない。そこでおじさんは、役場にかけ合ってミラーを付けてもらった。そのおかげで、右手から下って来る車がよく見えるので本当に助かっている。また、交差点の信号で信号待ちをしている車が連なっていて、なかなか出られないことがよくある。それを解消するために、よくある“緊急車両用ゾーン”みたいなのを作ってもらって、そこには信号待ちの車が停まらないようにしてもらえたら、スムーズに道に出ることが出来る。

というのを、今、役場?警察?とにかく何処かにかけ合っている最中らしい。「それが叶えば良くなるよー」とおじさんは自信満々。


もしかすると、そういう積極的行動が“難しい人”というレッテルの原因なのかな?と思ったりする。ゴリ押しみたいな、無理難題みたいな、モンスターなんとかみたいな。でも、それもこれもその4軒が暮らしやすくなることを願ってくれているのであるから、そこに住んでいる者からしたら文句は無い。それに、おじさんは長女宅の前の溝から生えている雑草を抜いてくれたりする。
「抜いといたよ」と言われれば「いつもありがとうございます」と笑顔でお礼を言ってるよ、と長女。それくらいのことは言わなくても出来る娘に育ってくれていたようだ。


私が家の前でお会いしてご挨拶しても、ジロッと見られて微かに頭を下げる程度、決して愛想の良い人ではない。けど、私がお孫ちゃんと一緒にお隣さんちのワンちゃんを遠くから眺めていると、しばらくしておじさんがお家からワンちゃんを抱っこして出て来られ、うちのお孫ちゃんにワンちゃんを近くで見せてくれ、
「噛まないから大丈夫だよ」
と触らせてくれた。お孫ちゃんは最初こそワンちゃんの鼻のあたりを鷲掴みにしていたが、そのあと少し怖くなったようで手を引っ込めた。それを見たら
「ちょっと怖いんじゃな」
と気づいてくれてワンちゃんを離してくれた。

確かにぱっと見はちょっと怖いおじさんだけど、じっくり付き合えば案外頼もしいご近所さんなのかも知れないし、上辺だけの情報であれこれ言うより、上手にお付き合いする方が賢明なんじゃないかな、と思う今日この頃。


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