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パチンコというタイトルの美しい装丁の本


私には、中学・高校の同級生に在日コリアンの子がいる。学生時代はさほど仲良くなかったが、社会人になって入った会社で再会した。まさか同じ会社に同級生がいるとは思っていなかったので、お互いシンパシーを感じ、一緒に旅行したり家を行き来する仲になった。


中学時代の彼女は人気者だった。裕福な家庭で育ち、美人で、誰とでも仲良くなれる社交性を持ち、皆から「あの子と友達になりたい」と思われていた。何よりそのきめ細かい美しい肌と、少しカールのはいった明るい色の髪に憧れた。ところが高校生になってからは少し風向きが変わり、何故か皆距離を置くようになった。私がいつも学校の登下校を共にしていた友達の一人も、彼女のことを差別的な目で見ていた。「あの子、日本人じゃないのよ」“在日”、当時私にはその意味がよく分からなかった。


社会人になって当の本人から「私は高校の時いじめられてた」と聞いてびっくりした。しかも、私もいじめていた一人だったと言うのだ。彼女のことを差別していた同級生と登下校を共にしていた私も、差別に加担していたと思われていた。彼女からしたら、私はサイレントマジョリティだったのだろう。しかし彼女はそのことを特に根に持つでもなく、冗談めかして私を責めて笑っていた。「知らなくてごめん」と謝ると、「別に気にしてないから、いいよ」と言ってくれた。


彼女の家に遊びに行った時初めて、彼女の父親がパチンコ店を経営していることを知った。豪奢な家に住み、彼女は自分のお給料は全て貯金されていて一円も使ったことがないと言った。必要な物は両親が全部買ってくれるから、お給料を使う機会がないと言う。パチンコ店の仕事はそんなに儲かるものなのかと思ったもんだ。彼女のご両親と一緒に在日コリアンの方が経営する焼き肉店に焼き肉を食べに行った。今まで食べた焼き肉のどれよりも美味しかった。


社員旅行でハワイに行った時、事務員が全員のパスポートを預かってくれていたのを、空港で配られた。その時彼女のパスポートが日本のものではないのを見て私は初めて彼女が韓国人であることにちょっとだけショックを受けた。私はそれぐらいそのことに対して疎かったのだ。


私が結婚してしばらくは行き来があったが、そのあとは年賀状のやりとりぐらいで付き合いは減った。彼女は、同じ在日コリアンの人と海外で結婚した。芸能人かと思うようなポーズでキメた写真が印刷されたハガキを受け取った。その結婚は長続きしなかった。私が子育てをしている間も、彼女はあれこれと様々な学校に通い、様々な仕事にチャレンジしていた。久しぶりに連絡してみると、たいてい前と違うことをして生活していた。3年前私が同窓会の幹事をした時にぜひ参加して欲しいと連絡したが、結局彼女は欠席した。「大学のレポートで忙しい」という理由だった。彼女はその時、大学院生だった。


彼女の人生を見ていると、私とは違う世界で生きていると実感せざるを得ない。良い意味でも悪い意味でもだ。そんなふうに思ってしまうのは、彼女が在日コリアンだからなのだろうか。彼女自身は日本で生まれて日本で育った。韓国語は話せない。彼女の家は裕福で、いくつになっても好きなことを自由に出来ていると思うだけ。そしてその裕福さは、パチンコ店の収入から得られていたのだ。


パチンコ/ミン・ジン・リー

『パチンコ』は、在日コリアン4代に渡る家族の物語だ。美しい装丁にひかれて、図書館で借りた。内容は知らなかったけど、在日コリアンとパチンコは私の中ですぐに繋がった。在日コリアンへの差別、劣悪な環境の中で生きる術を模索する家族、特に女性に対する差別や生きづらさには、同じ女性として胸が締め付けられる。命を削って家族のために働く女性たち。這い上がろうにも周りの環境がそれを許さない。


女の一生なんてね、ひたすら働いて辛抱するだけなんだよ。一つ辛抱して、また次も辛抱して。苦労に終わりはないって覚悟しておくといい。

この小説に登場する日本人は、差別する側だ。コリアンに対して汚い言葉を投げかけ、自分の得のために利用する悪のイメージ。


でも、と思う。ここに描かれるのは在日コリアンの物語だが、日本人でも戦中戦後の苦労はあった。ネットでは韓国版「おしん」と言われているようだが、貧しさや生きづらさは国が違えど変わりはない。また、海外に暮らす日本人は現代でも差別される側だ。noteでそんな記事を見かけると、普段差別などと無縁の、日本に住む日本人の私なんかは驚いてしまう。職業や出自の差別は日本人同士の間でも存在する。『パチンコ』、在日コリアンの物語だという先入観は一旦置いておいて、家族を描いた素晴らしい一小説として読んで欲しい。読後あとを引く覚悟で。



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