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知らない世界へ向かっていく勇気を“ミライ”と呼ぶらしい


NEWS。2003年にデビューしたジャニーズのアイドルグループ。ジャニーズに詳しくない人でも昨年の手越くんの会見を見た方は多いのではないか。現在のNEWSはメンバーが3人だが、デビュー当時は9人グループだったことを知ってる人は?今や世界的に人気のロックバンド、ONE OK ROCKのボーカル・タカがメンバーだったことを知ってる人は?山Pや錦戸亮もいたNEWS。
だけど今は、残された3人だけのグループになった。9人から3人。ジャニーズで、デビューする。このこと自体がすごいことで3人になろうともエールを送りたくなる。ライブ映像とか見ると、やっぱり彼らはジャニーズで、キラキラのアイドル。だけど、どうしても寂しい感じが否めない。


ところが、だ。メンバーの一人が書いた小説が、今年第164回直木賞候補になった。惜しくも受賞は逃したものの、それは第42回吉川英治文学新人賞受賞、今年の本屋大賞にもノミネートされている。


『オルタネート』/加藤シゲアキ


高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」が必須となった現代。東京のとある高校を舞台に、若者たちの運命が、鮮やかに加速していく。

オルタネート:①交互に起こる、互い違いになる、交互に繰り返す②《電気》〈電流が〉交流する③代わりのもの、交代要員、代理人、補欠


シゲの小説を読むのは2作目だ。デビュー小説『ピンクとグレー』は読んだ。設定に捻りがあって面白かったし映画化もされたけど、芸能界のお話だったので、芸能人なら思いつきそうなもんかと思ったりして、そのあとシゲの小説は読んでなかった。それが、直木賞の最終候補になったと知り、急に興味がわいた。私もいい気なもんだ。受賞したりなんかしたらどうなっちゃうんだろう?って、でもこれでNEWSに箔がつくと思ったら応援したくなった。結局受賞は逃したけど、NEWSにホンモノの小説家がいることは世間の知るところとなった。直木賞候補になるなんて、あのシゲがどんな小説を書いたんだろう。でもまだ私の中には疑いがあった。シゲがアイドルとしての活動の傍ら、そんなに良い小説が書けるなんてことが信じられなかった。


読んだ。すごい。いつの間にこんなん書けるようになったんだ。すごく上から目線だけど、私の率直な感想は「うまいこと書いたね」


オルタネートは3人の高校生(一人は高校中退)のそれぞれの話が交互に描かれる。うまく言えないけど、3人それぞれの章のリズムというか、空気感が違って感じられた。個性とか環境とか、青春とか恋愛とか、暑さや匂いや音や、3人三様のリズムがあった。オルタネート自体は、この三様を描くために使われていた。一人は距離をおき、一人はのめり込み、一人はそこにいる資格を無くして尚、再度そこに身を置くことを選択した。


私は、私を育てていく。

帯にもあった一文。例えば主人公の一人である、“のめり込む”者。オルタネートの信奉者であり、いつかはオルタネートを通じて自分にピッタリの相手に出会えると信じ、それが理想であり夢。そのために、少しでも出会いの精度(相性)を上げるために自分の全ての情報をオルタネートに提供している。育てていく、それはオルタネートの中にある自分の情報であり、それが自分というアイデンティティそのものだと思っている。
でもやがて気付く。機械が弾き出す人間関係なんて希薄なものであり、人は結局人と関わることでしか本当の自分に向き合えない。人は一人じゃないんだ。それは現実でもバーチャルな世界でも同じ。家族、友人、学校の先生、高校生の世間なんて狭い。狭いながらにもがいている。良いことばかりじゃない。むしろ悩んだり傷ついたりする日のほうが圧倒的に多い。本当の自分のことを認められずに強さや明るさという鎧を着て持ちこたえる。それをはずしてもいいんだと分かった時に、青春が訪れるのかも知れない。


“祝祭”と名付けられた章はワクワクが止まらなかった。文化祭の日、3人それぞれが一歩前に進むために動き出す様がキラキラ眩しくて、どの子のことも応援したくなる。行動した結果が良い方へ傾くとは限らない。それでも行動せずにモヤモヤしたまま諦めるという選択が無かったことが嬉しい。青春とは実験だ、と言う人もいる。青春とは辛いものだ、と言う人もいる。青春とはどどめ色だと歌ったシンガーがいる。この小説を読んだ今、3人(主人公の3人そしてNEWSの3人)に捧げたい歌がある。

誰も知らない世界へ向かっていく勇気を
“ミライ”というらしい
世界中にあふれているため息と
君とぼくの甘酸っぱい挫折に捧ぐ‥
“あと一歩だけ、前に進もう”
          (progress/スガ シカオ)


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