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おばあちゃんの万能調味料


小さい頃の私はめちゃめちゃおばあちゃん子だった。おばあちゃんにとって私は初孫だったので、とても可愛がってくれた。良いことがあればおばあちゃんに一番に知らせたし、嫌なことがあればおばあちゃんの部屋のこたつに入って泣いた。怒られて逃げたい時もやっぱりおばあちゃんの部屋のこたつの中に逃げた。おばあちゃんは手先が器用だったので、裁縫や編み物が得意だった。家庭科のお裁縫の宿題は全部おばあちゃんにやってもらっていた。おかげで、私はお裁縫が苦手なまま大人になった。

おばあちゃんはお料理も得意だった。化粧品店を営む両親は毎日忙しくて、母もお店に出ていたので、夕食の支度はおばあちゃんの担当だった。特におばあちゃんのちらし寿司は大好きだった。おばあちゃんは何でもない日にもよくちらし寿司を作ってくれた。具は一つ一つ別に炊いていた。ただ一つ、私は椎茸を炊く匂いが苦手で、ちらし寿司の日はその匂いで「今日はちらし寿司だ」と気付く。好きなものを嫌いな匂いで気付くとは、なんとも複雑な話だ。おばあちゃんは、私の分のちらし寿司にだけ椎茸を入れなかった。


我が家の台所には、いつもお醤油があった。ただのお醤油ではない。蓋付きの陶器の入れ物に入っていたお醤油には、いりこが入っていた。


今なら「だし醤油」のように、お醤油とおだしが一緒になったものが市販されているが、多分当時はまだそういうお醤油はなかったと思う。我が家のお醤油は「いり醤油(いりじょうゆ)」という名前があった。誰が考えたのかは知らない。とにかく我が家の台所にはそれがあった。冷奴や焼き魚にかけるも良し、卵かけご飯にするも良し。私はご飯にいり醤油をかけて味付け海苔で巻いて食べるのも好きだった。お醤油に浸かったいりこをおかずにもできる。今から考えると、万能調味料だ。


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私はよく、いりこの頭を取ったり、背中を開けて骨と内臓を取り出す下処理のお手伝いをした。袋いっぱいのいりこを一つずつ手に取って、頭と骨とを分けて、身だけお醤油に入れる。いりこの3枚おろしだ。2、3日もすればいりこから良いおだしが出て、いりこ自体もお醤油に漬かりしんなりと食べやすくなる。

結婚した当初、私はそれを作って旦那さんの冷奴にかけてあげたことがある。絶対美味しいって言うと思ってたけど、いり醤油を初めて食べる旦那さんは「何、これ?普通のお醤油無いの?」みたいに言ったので、それ以来作っていない。
でも今日こうして久しぶりに思い出したので、作ってみた。ちらし寿司のレシピはおばあちゃんに聞けず終いだったけど、いり醤油こそが我が家の秘伝の味だったと今にして気付いたから。



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