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サプライズは難しいの巻


うちのちゃまの趣味は、囲碁だ。将棋じゃないほう。指す、じゃなくて、打つ、のほう。去年の夏に、自宅の1階を整備して囲碁サロンを始めた。とはいうものの、毎日誰かが来るというわけでもなく、今のところは毎週木曜日に5、6人多い時だと8人くらい集まって打ってる。たまに他の日にもポロンと誰かがやって来て打ってることもあるけど、まだまだ訪問者は少ない。囲碁好きな人は自宅とか公民館みたいなとことか、打つ場所を既に確保している人がほとんどなので、お金を払ってまでサロンに来てくれるかというとそんなにしょっちゅうは難しいのかも知れない。
別に、それで儲けようなどとは思っていなくて、私としては病気をして以来塞ぎがちだったちゃまが、人に会って囲碁でも打とうかと思うようになってくれたことが嬉しいから、細々と続いていけば良いなと思う。

昨年の秋ごろ、いつも囲碁大会に使われている県内の会場が、古くなった碁盤や碁石、対局時計などを欲しい方に差し上げますという広告を出していた。中には壊れてる物もあるかもしれないけれどそこは責任は持てません、みたいな、とても不親切な広告だったけど、ちゃまは「時計があったら欲しい」と言う。が、とにかく早い者勝ちで、電話での取り置きは出来ないし、平日しかダメで、しかも壊れてるかもなんて、そんな不確実な状況でわざわざそこまで行く元気はなく諦めたようだった。
それから私は、ずっとそのことが気になっていた。対局時計。うちのサロンにも欲しかったんだろうな。

そこで、私はちゃまに、サプライズで対局時計をプレゼントすることにした。サプライズなんて結婚して初めてかもしれない。

ここで、対局時計とは何かというと、囲碁や将棋の試合では持ち時間が決められていることが多くて、あとどれくらい持ち時間があるかを計る時計だ。時計が2つくっついたみたいな形で(トップ画像)、自分が考えてる間は時計が動いて持ち時間が減っていく。考え終わって自分が次の手を打ったら時計を止める。すると今度は相手の時計が動き出して相手の持ち時間が減っていくのだ。
ネットでいろいろ見てたけど正直どれも同じような感じ。テレビの対局とかでよく見かける、文字盤がアナログのタイプで世界のSEIKO製、しかも『将棋・囲碁協会推奨品』とある。これなら間違いないでしょう。文字盤がデジタルのタイプもあったけど、こんなのなんだか邪道な気がする。やっぱアナログだよね、と一人納得して注文ボタン、ポチっ。
ちゃまの喜ぶ顔が今から楽しみ。

そして数日後品物が到着した。

「なんか買ったん?」
「はい、じゃじゃーん。これ、ちゃまにプレゼント」
「え?そうなん?」
「開けてあげるね」

ビリビリっと袋を破って箱を取り出す。
「何?あ、対局時計?」
「そう。欲しがってたでしょ。」
「あぁ、う‥うん。あぁ、これか、アナログのやつだね。これ昔からあるやつだ」
「これじゃダメなの?」
「いや、これだとね、残り時間が何分何秒っていう、何秒のほうがわかりにくいから、デジタルのやつでもっと簡単にセットできるのがあるんだよ」
「これじゃダメなの?」
「いや、これね、昔持ってたんだけど、電池も入れにくいし。てかさ、買うならちょっと相談してくれたら良かったのに」
「いや、それじゃサプライズにならんじゃん」
「いや、高い物買うんだからちょっと聞いてくれれば、これはダメとかこれが良いとか言えたのに」
「いいじゃん、もう買っちゃったんだし。それはダメなわけ?使えないん?」
「いや、使えなくはないけど、もっと簡単なやつあるんだよなぁ」


それからちゃまは自分でネットで調べ始めた。「ほら、こういうやつ。なんだ、こっちの方が安いんじゃん。安くて使い勝手が良い、こっちが良かったのに」
「そっちの方が安いのは知ってたけど、テレビとかで見るタイプはこっちだからこっちが良いと思って。ああそうですか。すみませんねえ。相談もせずに勝手なことして」
「だって、高い物買うんだからちょっと聞いてくれればこっちのほうが良いとか言えたのに」
「だからもう、わかったってば。はいはい、すみません。もういいよ。気に入らないなら使わなくていい。返品するわ」
「返品出来るの?」
「知らんし」(返品するの、めんどくさいなぁ‥)
「返品出来るなら返品しといて。はい、じゃ、これ」と、時計を返された。

「えーっ、マジで私に返してくるん。こっちはせっかく良かれと思って買ったのに。すげー失礼じゃん。傷ついたー」
「いや、返品するっていうから。返品しないの?なら、それ使うわ。」
「無理して使ってくれなくて結構です」
「いや、使う、使う。ありがとね。」

は、はぁ?ありがとうが遅いんじゃっ。

て思ったけど、でも、ホントはちょっと後悔してた。確かにちゃまの言う通りだ。私だってせっかくあげるなら気に入る物をあげたかった。サプライズをとるか、気に入った物をあげるほうをとるか。喜んでもらえないサプライズは虚しいし、人を喜ばせるのは難しい。
それに私はちょっと傲慢だった。私が買ってあげた物なら手放しで喜んでくれると勝手に思ってたから。だから二重に傷ついた。品物を気に入ってもらえなかったことと、私が買ったというだけで喜んでくれると思ってたのにそうじゃなかったこと。
ならば私はどうだ?いつもちゃまがしてくれることに感謝出来ていただろうか?いやいや、私の思い通りじゃなかったら文句言ってるよな。そう考えたらそれ以上何も言えなくなった。



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