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目からウロコの大迷惑

中学生の頃から私は洋楽にハマっていた。ハマっていたというよりは、洋楽を聴いている自分が人とは違ってちょっと大人な感じがして気に入っていたのだ。当時はまだレコードやカセットテープの時代で、お気に入りの曲を集めたセットリストのカセットテープを自作していた。音源を持っていない時はラジオ番組を録音したりして、今考えるとそれはそれは苦労していたもんだ。苦労して制作したカセットテープは文字通り擦り切れるまで聴いた。洋楽=オシャレと信じていたので、逆に邦楽=ダサいと勝手にイメージしていた。とは言ってもヒットしている曲は全部歌えたし、歌番組も大好きだった。ダサいと思っていたのは日本のバンドだ。

ところがある日出会ってしまった。1989年12月、NHKで放送された”クリスマススペシャル ポップス&ロック”、当時既にバンドブームでジュンスカやプリプリなど、商業的に成功しているバンドがいくつもあった。当時の私は、ジュンスカにしろプリプリにしろヒット曲はどれも大好きだけど、アルバムは聴いたことがない。そういうスタンスだった。ところが、その番組を見て私はあるバンドにどハマりしてしまった。日本のバンドにこんなカッコ良いバンドがあったんだって思った。
その日そのバンドは、ジュンスカとコラボして『雨上がりの夜空に』『マイシャローナ』を演奏した。そしてそのあと披露したのが私が運命の出会いをした曲、『大迷惑』だった。そう、そのバンドとはユニコーン。もちろんバンド名は知っていた。デビュー当時のユニコーンはちょっと髪を逆立てたりしてアイドルバンドっぽかったのだが、そこを卒業し個性的なバンドへと変貌していたのだった。知らなかった。こんなにカッコ良いなんて知らなかった。

『大迷惑』は、マイホームを建てたばかりのサラリーマンが突然単身赴任を言い渡される悲哀を歌ったものだ。一見ふざけてる風にも思えるが、ユニコーンは決してコミックバンドではない。いやそうじゃない。ふざけるにはちゃんとした技術が必要だということ、そしてユニコーンはいとも簡単そうにそれをやっていたのだ。そこがカッコ良かった。後に聞いた話だが、ユニコーンの楽曲作りはこだわりが詰まっていて、歌詞もその一つ。しかし『大迷惑』の「街の外れでシュビドゥワー」のシュビドゥワーの部分だけはなんの意味もなくノリだけだったって。

その日から私はユニコーンを聴きまくった。デビューアルバムから全部買った。ファンクラブにも入った。ライブにも行った。一度なんか最前列で参戦したこともある。音楽性は初期の頃はキャッチーなメロディーの“いかにも”な曲が多いが、『大迷惑』が収録されているアルバム『服部』から大きく変化したように思う。曲のテーマも、普通の青春とか恋愛の曲なんて無いにも等しい。
自分たちよりずっと上のおじ様世代に好きな女の子を取られたり、パパがお金持ちだから僕を選んだほうが良いよって言ったり、どうしようもない男にほっとかれぱなしでもなかなか別れられない話だったり、幼馴染の男性同志の秘密の恋だったり。こういうストーリーがカッコ良いビートに乗って展開されていく。ニヤニヤが止まらない。

そして次のアルバム『ケダモノの嵐』ではその世界観がさらに進化して、ストーカーの話や、ラブホでの営み、結婚式の日に結婚を後悔する男、彼女に自転車を取られる話、交通事故で亡くなって自分のお葬式を見ている亡者‥オモシロすぎる。そして全部カッコ良い。メンバー全員がそれぞれ曲を作りその曲のメインボーカルをつとめるということをやっていたのも当時のバンドでは珍しいことだったと思う。このアルバムは“日本レコード大賞最優秀アルバム賞”に輝いた。サザンやユーミンを抑えての受賞だった。にも関わらず、バンドとしての一般的な知名度はイマイチである。バンドをやっている人たちからは一目置かれるバンドではあったが、ジュンスカやプリプリのようにはいかない。それはそれでユニコーンらしい。

その後のアルバムでも、イケイケ社長に彼女を取られたり、黒船でやって来た青い目の外国人女性に一目惚れしたり、おかしな宗教に勧誘されたり‥普通のバンドでは決してテーマにしなさそうなことを歌うのがユニコーンだった。

そうそう、ジュンスカとかプリプリとかミスチルとかジュディマリとか、人気のあるバンドってバンド名を縮めて呼ばれる事が多い。ユニコーンはそれが出来ない上に、バンド名に破裂音、“バ”とか“プ”とかが無くて口に出すとなんだか力が入らない。そこも脱力系なユニコーンらしい。

1993年に解散した時は、もうこれから先、ユニコーンの新しい曲が聴けないのだと思うと悲しくて、私のほうが脱力してしまった。2009年に再結成された時、Mステで初めて新曲「WAO!」を聴いた時は嬉しくて泣いてしまった。再結成してからのユニコーンは、以前とは違い“お揃いの衣装”を着るようになった。おじさんたちがお揃い‥可愛い。

今や奥田民生氏は大御所感あふれるプロデューサーでもある。“ひとり股旅”ライブにも行ったことがあるが、アコースティックギター一本で、Perfumeや西野カナを歌うその歌声は圧巻だ。『奥田民生になりたいボーイ 出会う男すべて狂わせるガール』という漫画(妻夫木くんで映画化もされた)になるくらいカリスマ性、というよりは、ホントはお仕事したくなくて毎日釣りをしてのんびりしていたいとか、スカパラとお仕事したらスーツを作ってもらえるから嬉しいとか、そんなのほほん、のんびり、脱力、でもちゃんと仕事はできる、みたいな感じに憧れる男性は多いのかな。それでもひとたび歌えばめちゃくちゃカッコ良いのはさすがだな、とやっぱりニヤニヤが止まらない。

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