見出し画像

*読了16冊目*『三体』

『三体』 劉慈欣著 を読んだ。

む、むずかしい。
理系脳ゼロの私には難しすぎる物理の話が延々と続くのだった。
だが、とにかくとんでもなく壮大な話であることは分かった。
ちょっと『幼年期の終わり』を思い出した。

文化大革命によって父親を公開処刑された葉文潔(イエ・ウェンジエ)。
明晰な頭脳を持った彼女は人間の愚かさを一瞬で見通した。
その後の人生をなるべく静かに過ごしたいと考えた彼女は、僻地の基地で秘密裏に進められている国家プロジェクトに参加することとなった。
異星人とコンタクトを取ることを目的としたその施設は、一度入った者は一生出られないと言われる場所でもあった。
しかし人間界に未練の無いウェンジェは簡単にそれを承諾した。

この『三体』という小説においての一つのキーとして「社会に不満を抱く分子」というのがあると思う。
もしウェンジエが人類に失望していなかったら、あの瞬間にたったひとりで全人類を滅亡させるような選択をするなんていうことは無かったはずだ。
そして後にウェンジェの協力者となるマイク・エヴァンズもまたそうである。
しかし元々彼は愛情あふれる人だったのだ。父親が運営する石油会社の船が海で座礁して海鳥をオイル漬けにした時、彼は自らその地へ出向き、作業員と一緒に真っ黒になって鳥たちを救出した。そして絶望した。自分たち以外の種を何とも思っていない人間の傲慢さに。
ウェンジエの憎しみも元はといえば父親への愛情から始まっている。

それなのに、である。
元は愛から始まったそれらの思いが、最終的に「全人類を滅亡させる」を是とする方向に走って行ってしまうのは何故なのだろうか?
ウェンジェもマイクも自分の外側に人類という敵を見続けている。
その悲しさに胸が塞がれる。

ふと『チッソは私であった』という本を思い出した。
以前100分de名著で『苦海浄土』石牟礼道子著の回をたまたま見た。
水俣病を取材した本だった。
4回放送の最終回に緒方正人さんという漁師の方が登場された。水俣病で家族を失い、自分自身も水俣病を患ったという。だが、明るかった。大きな声で話してガハハと笑い、とにかく被害者という言葉が全く似つかわしくない人物だった。

しかしもとからそうだったわけではない。
元々は原告訴訟団の先頭に立って国や企業(チッソ)に対して賠償を強く訴えていた。時には過激な活動になることもあった。
そうやって矢面に立って闘っていく中で、被害者側の損得勘定もまた見えてしまった。
何もかも嫌になって被害者代表を降りた。
それこそ自暴自棄になって暴れた時もあった。

しかし尽きることの無い闘いの日々の果てに、ふと視点がひっくり返った。
それまで外側の敵を憎い憎いと睨みつけていた目を、自分側に向けた。
その時にハッとした。
この雁字搦めの人間社会、そこに絡めとられて身動きひとつ取れなくなっている自分が見えた。そして自分もまたその原因のうちのひとつであったと。
そこから「チッソは私であった」という仰天の言葉が出てくる。

視点がひっくり返ってからというもの、緒方氏は漁が終わると毎日チッソの正門の前に座り込んで晩酌をしたそうだ。
もちろんチッソ側としては座り込みの抗議だと受け取る。
「お願いですから帰って下さい」と言われる。
それこそ「おいくら必要ですか?」と言われたりもする。
だが緒方氏としては、ただチッソという会社に寄りそって考えたかったんだという。そうして気の済むまで何ヶ月も会社の前に座り込んだ。そのうちチッソを愛しいとまで思うようになったと。

緒方氏は被害者ではなくなったのだ。
相手のせいにした時自分は被害者だが、自分がその責任を引き受ける時、もう自分は被害者ではいられなくなる。
それはすべての権限を取り戻すときでもある。
自由を取り戻すときとも言えるかもしれない。
とにかく人間というのはここまで行けるんだ、人類のポテンシャルはんぱないなと思ったのだ。

なんだか、『三体』の感想でなく『チッソは私であった』の感想文みたいになってしまったが、とにかくそれだけ悲しかったのである。
なぜ人類全部を敵に回して宇宙人に頼ろうと思っちゃったかなというのが。
それもウェンジエみたいに超絶頭のいい人がどうしてそんな(宇宙人に丸投げして終わりみたいな)発想になるのかな?と。

一方で史強(シー・チアン)のような希望の星もいる。
外側を見て何かを考える人物よりも、己の腹の中しか信じない人物の方が最終的には強いんだと思う。

おそらく主役である汪淼(ワン・ミャオ…登場人物が錯綜し過ぎて誰が主役かよくわからなかったので)にも、それこそ三体世界にもVRにも触れずに感想が終わってしまった。

『三体Ⅱ』『三体Ⅲ』もあるとのことだが、今のところ読むかどうかを決めかねている。



この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?