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#掌編小説

掌編小説「あめのにおい」

掌編小説「あめのにおい」

 アオイさんは雨の匂いに敏感な人だった。
 まだ女子高生だった頃、隣の席同士だったわたしたちは放課後によく雑談をした。他愛のない会話の合間に、彼女が突然、「雨の匂いがする」と呟く。その時は降っていなくても、昇降口を出る頃には雨粒の跡が地面に点々とした模様を落としていた。
 靴を履き終え、立ち込める雨雲を見つめるアオイさんの横顔は、嘘みたいに無表情だった。

 日曜日の朝、そんなとりとめのない記憶が

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掌編小説「としをとる」

掌編小説「としをとる」

 普段は降りない駅で降りた。職場への定期券内なだけで、いつもなら通り過ぎてしまう駅だ。
 イヤホンで両耳を塞ぎ、よく分からない街中を歩く。そうするだけで、自分がミュージックビデオの主役になれた気分だった。商店街も、高架下も、よく見かけるコンビニエンスストアでさえ、いつもとは違った風に映るから不思議だ。
 ランダムに再生される曲が切り替わる瞬間、歩いている街並みもまた違った角度で見える。明るい場所を

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