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読書:『蜜のように甘く』イーディス・パールマン

書名:蜜のように甘く
著者:イーディス・パールマン
翻訳:古屋美登里
出版社:亜紀書房
発行日:2020/05

 ロンドン・タイムスいわく、世界最高の短篇作家。小川洋子さん推薦の滋味深い傑作短篇集です。
 世界に優れた短篇を書く作家は多く、彼女が"本当"に世界最高の短篇作家なのかどうかはわかりませんが、その称号はおかしくはないと感じる。
 短めの短篇ばかりの作品集ですが、どの作品も濃厚。しっかり長篇を読んだ後味が残る。短篇は「一場面」を切り取って描くもの、と言われますが、この作品集の短篇に関しては、「一場面」ではなく登場人物の人生がしっかりと刻印されているように感じました。
 そして題材もみなユニークで、技巧もすばらしい。こんな書き方があったかという発見すらありました。それでいて、いわゆる「奇をてらった」書き方をしているわけではないのですね。ここで言う「こんな書き方」というのは、語りの目線、場面の移しかた、そして幕引きに持っていく流れなどです。
 すべて2、3度ずつリピートして読んだのですが、まだ味わい足りない感覚が残る。読んでも読みつくせない深さがある。読んでいるうちはどこに連れていかれるのかよくわからないのだけれども、読み終わったとたんにハッとなる。そんな作品が多い。各話の最後の文章が胸のうちで共鳴する。だから読み返したくなる。
 特殊な人々ではなく、一般的な人々の物語で、たいていはとんでもなくすさまじいことが起こるわけでもない。でありながら、独特の物語が展開される。決して平々凡々な物語ではない。私たちみんなの人生がそうであるように。いや、これはやはりちょっとすごいですね。
 ときには人生の悲哀、ときには心温かくなる切ない話。素晴らしい作品ばかりでした。
 素朴感というか、大衆の生の人生を飾らずに取り出したようなどこかゴツゴツした感じもあって、これはフラナリー・オコナーに感じる「ゴツ味」にも近いような気がしたのですが、訳者あとがきを読むと、フラナリー・オコナーに近いという評は確かにあるらしいですね。

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