読書:『ジニのパズル』崔実

書名:ジニのパズル
著者:崔実
出版社:講談社
発行日:2016/07
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062201520

 在日韓国人のジニ。中学から朝鮮学校に通うことになったのだが、朝鮮語はまったく話せない。しかし朝鮮学校では日本語は禁止されている。金日成と金正日の肖像画が正面から居丈高に見おろす教室で孤立していくジニ。
 一方、北朝鮮がテポドンを発射してきたある日、ジニは街で、警察を名乗る男たちに取り囲まれて暴力を受ける。

 読み始めは、文章があまりうまくない気がして、いまいちかなあと思ったのですよ。しかしすぐに気にならなくなりました。
 うまいかうまくないかで言うと、やはり文章も小説もそれほどはうまくはないと思います。けれどもそんなことを軽くカバーしてしまう熱量、伝えたいこと、絶対に語られなくてはならないという必然があって小説を書いているのだという揺らぎない作家性、この小説をどうしても世に出したいと願ったのであろう思い。
 胸打たれました。

 ジニは在日韓国人であるということから、日本人から汚い言葉を投げつけられたり暴力をふるわれたりします。しかし彼女が受ける仕打ちからすれば奇妙なほどに彼女の怒りは日本人には向けられない。
 怒りが向かうのは、むしろ同胞たち、教室にある金日成と金正日の肖像画に何の疑問も持たない同級生たちであったりします。これが興味深いと思ったのですが。

 目の前にあるおかしなことに気づかない鈍感さ、理不尽さをあたりまえのものとしてしまっている鈍さ。そういったものなのかな。
 学校の通達で、チマ・チョゴリで通学するのは危険だから体操服で通学して校内でチマ・チョゴリに着替えるようになるのだけど、みんながわいわい騒ぎながら(楽しげに?)着替えている場面でジニが強烈に異質感を感じる場面なども非常に象徴的。

 ジニがかかえる葛藤、生きにくさ、苦しさが最後になって噴き出す。噴火のように。
 それはまさに理性を吹き飛ばす爆発で、決して「正しい」ことではないのだろうけれど。

 小説の最初、あるいは最後で明らかにされているのだが、現在のジニがオレゴン州にいるというのはなんだか好きです。「外」に出たんですね。

 ところで、この作品、2016年の発表作なのだけど、まだ金正日政権の時代の話なんですね。北朝鮮が射ってきているのは大陸間弾道ミサイルではなく、テポドンだし。
 この小説を世に出すのにそれだけの時間がかかったということなのかなと、ふと思いました。
 ぜひ次作に期待したいです。

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