美食ガイドブックなどさまざまな賞を受賞した話題のフレンチ「レストラン パ・マル」をレポート
山形市のフレンチ「レストラン パ・マル」がいま話題沸騰なのをご存じでしょうか。昨年は「フランスレストランウィーク2022」で全国約550店からフォーカスシェフに選出。2023年3月には美食ガイドブック「ゴ・エ・ミヨ」に3トック(素晴らしいレストラン)として掲載。さらに6月にジャパンタイムズ「Destination Restaurants List」で全国10店のひとつに選ばれ、脚光を浴びています。
約20年かけて山形に本格フレンチを!ガストロノミーを確立
英字新聞のジャパンタイムズが主催する「Destination Restaurants List 2023」は、本田直之氏や浜田岳文氏といったガストロノミー界をけん引する審査員たちが、技術やストーリー性などを選考基準に、注目のレストランを選出。
地域活性化の観点から東京23区と政令指定都市を除いた地域が対象になっており、今年で3回目を迎えます。「日本人が選ぶ世界に伝えたい日本のレストランリスト」に全国から10店が選ばれ、その中のひとつに選ばれたのが「レストラン パ・マル」。オーナーシェフの村山優輔氏は、メディアからの取材に次のように受賞の喜びを語りました。
「山形の食材を使って、山形ならではのフランス料理を作ってきたことが評価されたと思う。山形の食材と僕の店だけではなく、山形の生産者が評価されたと思っている」。
山形県出身の村山シェフ(現在45歳)は、25歳の時、山形県天童市に「ビストロ パ・マル」を開業。2017年、県庁所在地である山形市に本格フレンチレストランが一軒もないことに気付き、山形市に現在の「レストラン パ・マル」を移転オープンさせました。
「山形でもガストロノミーを成り立たせたい」という村山シェフの約20年の取り組みが、ようやく結実した瞬間なのです。
現在はランチでは「ムニュ シェフ」6,600円、「ムニュ セゾン」8,800円の2種を用意。ディナーは「ムニュ テロワール」11,000円、もしくは「ムニュ スペシャリテ」16,500円。(いずれも消費税、サービス料込)。「予約ができなくなる前に行かないと!」とさっそく訪問してみました。
山形豚・庄内鴨・枝豆・サクラマスなど1品目から“山形づくし”
予約したのは夜の「ムニュ テロワール」コース。クラシックなフランスワインの他に山形のワインも提供しているというので、ワインペアリング(5種/7,700円)をセットにしました。
村山シェフの弟さん、村山竜章氏がソムリエとしてサーブしてくれるのですが、お酒の進み具合に応じてワインの分量はうまく調整してくれるので安心です。まずはピノ・ノワールのシャンパーニュで乾杯! 青リンゴやカリンの香りが広がり、ほどよい酸味。茶色のリーフ型のアミューズ(上の写真、左上)は、中に山形豚と庄内鴨のリエットがはさんであり、パリパリした食感と濃厚なうまみが美味。
上の写真、中央は山形産のやわらかいヤリイカ。ゆずの風味がやさしく包み込んでいます。そして地元のサクラマスのうまみが豊かに広がるパウンドケーキ(同、右上)は、山形産の枝豆とのハーモニーが絶妙。1品目から“山形づくし”で、わざわざ山形に足を運んだかいがありました。
2品目は新玉ねぎの水分のみで作ったという、凝縮された甘やかな冷製スープ。とろりとやめらかなスープと一緒にそら豆、そして甘エビをいただくと、とてもやさしい気持ちに。
スープの上に茶色のジュレもかけてあり、一緒に味わうと一気に深みが増し、滋味のあふれる野生感が芽生えます。料理の趣が一瞬にして変わるので驚き。その正体は宮城県石巻産の鹿のコンソメジュレ。ひと口ごとにおいしさが変化するのが面白い。
ベルウッドヴインヤードと高畠ワイナリー。山形ワインが2種も!
2杯目は山形ワイン。上山市のワイナリー、ベルウッドヴインヤードで造られた製造本数920本という2022年の限定ロゼワイン。マスカットベリーAやメルローなど5つのブドウ品種のワインをアッサンブラージュ(ブレンド)したもの。
同じような色合いのカツオのたたきは、ニンニクやアンチョビ、玉ねぎで香ばしく風味をつけたもので、寒河江市産の唐辛子で辛みを効かせています。鉄分を含んだカツオの香りとうまみが辛口ワインと相性が抜群。思わず笑みがこぼれます。
カツオの上にはドライトマトやミョウガ、大葉、そして山形特産の食用菊をあしらって、和のテイストが漂う一品。色鮮やかな黄色の菊ソースは酸味が効いていて、カツオのうまみが引き出されます。3品目も山形らしさが全面に表現されていて、シェフのど真ん中に山形食材が存在していることがよくわかります。
3杯目はフランス・アルザス地方の白ワイン。ピノグリというブドウ品種で、蜂蜜のような甘い香りが漂います。無農薬栽培により力強いブドウを育て、遅摘みすることでブドウの糖度を高め、コクのある辛口に仕上げているのだそう。
エチケット(ラベル)はジョスメイヤーらしいアーティストシリーズ。凛(りん)としたたたずまいのジャガイモフリッターは、エスカルゴやコンテチーズのうまみが広がり、トマトソースの酸味がいいアクセントに。
山形と言えばご飯のおとも“だし”。フレンチ仕立てで登場!?
4杯目は山形を代表する高畠ワイナリー。イタリアの登山列車の民謡「フニクリ~、フニクラ~♪」の歌詞がそのままワインの銘柄にもなっている通り、急傾斜で苦労して育てられたシャルドネを使用したワイン。フレンチオーク樽(たる)で熟成させた辛口で、上品な甘い香り。
お料理は平目のヴィエノワーズ。ピスタチオやアーモンドなどをのせた表面だけを香ばしくカリカリに焼いた一品で、下の身は驚くほどふわふわ。ワインがまるでソースのように染み込んで一体化していきます。
トマトやズッキーニ、赤パプリカなどの野菜を、山形特産の“だし”のように細かく刻んで平目の下に盛っているのがユニーク。ご飯のおとも“だし”が今夜はおしゃれに変身。魚は温かく、ソースは冷たく、その温度差も楽しい。
肉料理は鶴岡産の仔(こ)羊カシスソース。「できるだけシンプルに地元の素材の魅力を伝えながら、フランス料理の芯であるソースはキッチリと丁寧に作ります」と話す村山シェフの信念を思い出す一品。ほどよい酸味を含んだカシスソースは濃厚で、果実味が豊かで、なめらかな繊維質のラム肉のうまみをより引き出してくれます。
付け合わせの野性のアスパラガスや、まろやかな人参のピューレもバランスが良く、赤ワインがほしくなりますが…。ここで提供されたのはなんと2種。フランスのシャトーブリオン1993と山梨のサントネージュ2019 樽熟成かみのやまメルロー。
左側のボトルには「プルミエグランクリュ、ペサックレオニャン」と書いてある!? もしかして?本当に!? 高級フランスワインが突然登場してびっくり!ソムリエによるとたまたまイベントがあって少しだけ残っていたからだそうで、なんてラッキーな夜なのでしょう。
30年間も熟成させた赤ワインは、しっかりとした骨格と豊かなボディ。その風格に、ひと口を味わっただけでため息がもれます。対する山梨のサントネージュは山形県上山市で栽培されたメルローを100%使った、281本限定の貴重なワイン。なめらかな豊満さと、爽やかなキレ。こちらもすばらしい味。5種のペアリングワインのはずが、6種になっているから、もう胸いっぱい!
デザートは山形産の米を使ったリオレ(ライスプディング)にトリュフアイスをのせたものや、ほうじ茶プリン、フィナシエなど、かなり充実。中でもフランボアーズのソースがかかった唇型の「Kiss」は、「こちらはシェフの唇です!」と提供されるから、客席中が笑いに包まれます。
最後は村山シェフの遊び心が詰まったデザートで最高のフィナーレ。最後の笑顔で客席が一体化するので、おひとりさまでも全く居心地が悪くありません。村山シェフの枠にとらわれない独自のスタイルはSNSでも積極的に発信されています。国内外のシェフたちとのコラボディナーも定期的に開催しているそう。
山形ワインは今回紹介した2ワイナリーの他に、タケダワイナリーやウッディファーム、イエローマジックワイナリー、朝日町ワイナリーなどもそろえているとのこと。
「東京は世界一星の数が多い都市」と言われていますが、地方にこそ日本各地の風土とその土地に根ざした個性が埋もれているということに気づいたディナーでした。オーセンティックなフレンチと、地方ならではの素材力が輝く独自の料理が見事に融合し、あっという間でした。
2023年下半期はフルーツ狩りや温泉めぐり、ワイナリーや酒蔵見学などと一緒に、山形旅で「レストラン パ・マル」に出かけてみてはいかが?
レストラン パ・マル https://yamagatafrench-pasmal.com/
所在地:山形県山形市七日町2-3-16
電話:023-687-1099(完全予約制)
定休日:水曜日/第2火曜日ランチ:12:00~15:00 (LO13:00)
ディナー:18:00~23:00(LO20:00)
席数:テーブル10席/カウンター6席
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