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Seventeen's Summer 17歳の最終楽章Ⅱ 第9話

Sventeen's Summer 17歳の最終楽章Ⅱ
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そんな話をしていたら窓の外が急に明るくなった。電車が山並みを抜け海岸線に差し掛かったのだ。真っ白な雲の下に、キラキラと太陽の光を反射する青い海が、見てくれ、と言わんばかりに広がっている。見慣れた東京の湾岸とは違った海。未知の海と初めて訪れるケンシの実家がシンクロして楽しい世界の入り口に感じた。思わず心臓が鳴った。太陽も海も自分たちを歓迎しているように見えた。

そこから熱海までは海や小山、建物の壁の色なんかが繰り返し車窓を彩り、心を和ませてくれた。ユウキは流れる景色を左に見ながら、右側にケンシを感じていた。胸の中で、これから訪れるケンシとの楽しい休日が大きく膨らんでいた。

熱海駅に到着し、ロータリーまで歩いた。荷物は斜め掛けのバッグひとつだ。二泊するだけだ、そんな多くの荷物はない。

駅の建物から出ると柔らかな風が顔と手をなでていく。風のせいか東京より涼しい気がした。空を見上げて空気を思い切り吸い込んだ。空も空気も東京より澄んでいる。感じるもの全てが東京とは違うように思える。この街が自分の街だと胸を張って言えるケンシをうらやましく思った。

「いいなあ熱海は」

「そうだろ、ユウキはたぶん気に入ってくれると思ったよ」

ロータリーの向こう側には雑居ビルが並んでいるが、巨大な建物はなく、空が見える分、明るい街というイメージだ。行き交う人もどこかしら、気楽に生きてます、と体が発信しているみたいに見えた。

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