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おじいちゃんが孫に教える世界一たのしい経済の教科書2

序章 ぼくと経済


おじいちゃん、現る

今日は、最悪な日だった。
今までの人生の中で、一番と言っていいほど最悪な日。
だってさ、保育園の時からずっと貯めてきたお年玉を、夏休みのハワイ旅行の資金にするってママが言うんだもん。「ここぞという時のために取っておこうね」って言うから、ママに預けていたのに。
ハワイは行ってみたいけど、どうしてぼくのお年玉まで使われなきゃいけないのさ。
こんなことになるなら、ママに預けなきゃよかった……。
でも、何万円ものお金をいつも持ち歩いて、落としちゃったら悲しいし、部屋の中に置いといて泥棒に盗まれちゃっても嫌だし、みんなどうやってお金を管理してるんだろう。
勉強机に向かってそんなことを考えていると、後ろからぼくを呼ぶ声がした。
領太。

その声は、聞いたことのない声だ。
え? 泥棒?
お金を盗まれることを考えていたら、本当に泥棒が来ちゃった?

領太、ワシのかわいい孫の領太。

ワシ……? 孫……? 何言ってるの? 誰なの?
パパもママもまだ帰っていない。おばあちゃんはキッチンでご飯を作っているし……。そもそも人間? それとも幽霊? ぼくのことを呼んでいるのは、いったい誰なの?

おじいちゃんだよ。

お、おじいちゃん?

そうだよ、領太のおじいちゃんだよ。
もうダメだ。心臓が止まっちゃうかもしれない。いや、すでに止まっていて、ぼくは天国に来てしまったのかも。

そうじゃない。ワシが領太に会いに来たんだ。

どうしてぼくの心の声が聞こえちゃうんだろう。振り返りたいけど怖くて振り返れない。
もしも、足のないおじいちゃんが立っていたら?
血まみれのおじいちゃんが、ぼくの方を見ていたら?

領太、心配いらないよ。おじいちゃんは血まみれじゃないし、足でしっかり立っているよ。ほれ、振り返ってごらんよ。

そんなこと言われても……。勇気が出ないよ……。

あ! こんなところに1万円が落ちておる!

え?
ぼくは思わず振り返ってしまった。すると……。
そこには足のないおばけでもなく、血まみれの幽霊でもなく、普通の人間の姿をした普通のおじいちゃんがベッドの前に立っていた。

おじい……ちゃん?

なんだい? ワシのかわいい孫の領太。

本当にぼくのおじいちゃんなの?

あぁ、そうだよ。ワシに会いたかったんだろう?

……。

領太? だんまりしちゃって、どうした?

ぼく……夢見てるのかなぁ……。

夢じゃないよ。ほら、ワシの手を握ってごらん。

え? 幽霊の手って握れるの? スケスケなんじゃないの?

普通の幽霊ならスケスケだけど、おじいちゃんはあっちの世界でめちゃんこ働いたから、普通の人間の姿で下界へ降りることを、天使が許可してくれたのさ。

へぇ~、あっちの世界にもいろいろあるんだね。それにしても、本当にぼくのおじいちゃん?

あぁ、正真正銘、領太のおじいちゃんだよ。

手……さわってもいい?

あぁ、いいとも。

うわっ、あったか~い。体温がある幽霊なんて聞いたことないや。

もう怖くないかい?

うん、もう大丈夫。ねぇねぇ、おじいちゃん。おじいちゃんは、ぼくに会ったことあるんだよね?

もちろんさ。ミルクをごくごく飲む領太のことも覚えているし、よちよち歩く領太と手をつないでお散歩したこともあるよ。

そうなんだ。ぼくは、おじいちゃんのこと覚えてないんだ……。

当たり前だよ。だっておじいちゃんが死んだ時、領太はまだ小さかったんだから。

そっか……。ねぇ、ぼくの名前をつけたのは、おじいちゃんなんだよね?

そうだよ。よく知ってるね。

うん。ママが言っていたから。おじいちゃんって、大学で何かを教えてた人なんでしょう?

まぁね。経済という分野を教えていたが。

ケイ……ザイ?

そう、経済だよ。マクロ経済とか開発経済とか国際経済とか都市経済とか……。

ちょ、ちょっと待ってよ! 何がなんだかチンプンカンプンで、幽霊としゃべってるというより、地球の裏側の人と話してるみたいだよ!

地球の裏側の人? 日本の裏側のことかい? それならブラジルだね。ポルトガル語で経済は、エクォノォミクァ……。

そうじゃなくて! ちょっと待ってってば。

領太、お前はいったい何を聞きたいんだ?

何を聞きたいってわけじゃないけど……。

悩みがあるなら、遠慮なく言ってごらん。おじいちゃんと一緒に解決しようじゃないか。

おじいちゃんと一緒に?

ぼくは、なんだか心が軽くなった気がした。
自分だけの味方ができたみたいな気持ちになって、お年玉のことをおじいちゃんに話してみた。するとおじいちゃんは……。

な、なんだって? 領太の大事なお年玉を、ハワイ旅行の資金にされてしまうって?

大きい声出したら、おばあちゃんが来ちゃうよ。

それは大丈夫。おじいちゃんの声は領太にしか聞こえないから。

え……。そういうのやめてよ。急におじいちゃんが他の次元の人に見えちゃうじゃん。

たしかにワシは他の次元から来たが、怖がることはない。

急に消えたり、火の玉をドロドロ飛ばしたりしない?

火の玉をドロドロ飛ばすことはないが、消えることはできるぞ。ほら、こんなふうに。はい、ひょっこりはん。

うわ! やめてよ! 首から上だけ消したり出したり、幽霊版の「ひょっこりはん」なんてぜんぜん見たくないから!

現代で流行っているギャグなんだろう?

こっちでは流行ってるけど、そっちでは流行らせない方がいいと思うよ。

どうして?

どうしても。とりあえず消した顔を早く出してよ!

りょ。

「りょ」って……。幽霊も流行語とか意識するんだね。けど、もうおじいちゃんなんだから、「了解」ってちゃんと言った方がいいよ。

幽霊って言うな。それより領太、これからは、お金の管理を自分でするといい。

自分で? だってぼく、まだ小学3年生だよ?

小学3年生だって、銀行に預金口座を作ることはできる。15歳以上であれば、今の時代、スマホで手続きすることだってできるんだ。

なんだかすごく詳しいね。

あったりまえだ! おじいちゃんを誰だと思っている? おじいちゃんは……おじいちゃんは……大学の先生である前に、領太の名前をつけた名付け親だぞ!

あぁ、領収書の「領」と「太い」で領太って名前ね。

たしかに領収書の「領」でもある。けど、大統領の「領」でもある。

大統領の……領?

そうとも。他にも、先頭に立って率いるという意味の「領導」の領でもあるし、心に受け入れるという意味の「領承」の領でもある。領太という名前は、さまざまな意味を幅広く持つ素晴らしい名前なんだ。

大統領の……領太……。うん、なんだか自分の名前が好きになってきたよ。

それは良かった。おじいちゃんが教えていた「経済」という分野も同じなんだ。さまざまな分野に関わり、そして世の中のお金の流れに大きく関係している。そうだ、領太。おじいちゃんが領太のために経済の授業をしてあげよう。お金を安全に貯める方法や、ハワイへ行く時のために日本のお金を海外で使えるように交換する方法や、税金の話や、保険の話や、これからの領太がよりよい暮らしを送るために、おじいちゃんが専属の先生になってあげるよ。

本当? それはありがたいけど……。

けど?

えっと……。

どうした? おじいちゃん、いや、おじい先生になんでも言ってみたまえ、領太君。

じゃあ、おじい先生。一つ質問してもいいですか?

あぁ、いいとも。なんでも聞くとよい。

そもそもケイザイって……何?

次回、第1章「経済ってなんだ?」へ続く

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