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『君の唇に色あせぬ言葉を』阿久悠


本について

何年前かは忘れてしまったけれど、たしか桜木町の商業施設の本屋さんで、映画の上映開始を待っている間にふらっと立ち寄った本屋さんで、目線より少し低い高さの棚の中に背中を向けて1冊だけ佇んでいて、「阿久悠」という文字を見つけて手に取った記憶がある。手に取って、カバーの背表紙の内側におそらく本人手書きの言葉が印刷してあって、それを見てまっすぐにレジに向かった記憶がある。

あとがきを読んで、この本は阿久悠さんの息子である深田太郎さんが編んだ本だということを知った。

父の東京の仕事部屋で、「逆境を好機に変える天才」と丁寧にレタリングされたメモ用紙を見つけた。この言葉は昔から父の著書に頻繁に登場する、いわば父の「祈りの言葉」だった。住んでまだ一年足らずの場所だったのでそう昔に書かれたものではないはずで、六年にも及ぶ闘病生活の末、自身を鼓舞する為に書いたのかと思うと涙が出そうになった。
(中略)
その時以来、父の著書をもう一度片っ端から読み返すようになった。読んでいて驚いたのは随分と沢山、息子である自分に向けてのメッセージと取れる文章があった事で、口では伝えられなかった事を文章に託していたのかもしれない。まるで手紙の入ったタイムカプセルを開けたようで胸が詰まった。
(中略)
父が旅立って十一年、気付けば一〇〇〇近い言葉が集まっていた。そしてある時ふと、父が遺した言葉達が自分だけではなく、他の誰かにも役立つのではないだろうかと思い始めた。阿久悠の言葉である事も父の言葉である事も超え、より多くの人達の胸に響く言葉があるはずだと。そうして一〇〇〇近い言葉は篩にかけて四〇〇まで絞られ、最終的に一七八の言葉が残った。それが本書『君の唇に色あせぬ言葉を』である。

(『阿久悠の言葉、父の言葉 深田太郎』p.195~196 )

感想

詩集のようなものは、読む人や、読む時々によって響く言葉が違うものだと思っていて、それが詩集のようなものの、言葉の魅力の一つであると思う。今の私が読んで印象に残った言葉は、178のうち10。

何が美しい、何がカッコいい、何が恥ずかしいか、
この三つの基準だけをしっかり持って照合すれば立派に生きられる。

人間が守らなければならないのは、
うまく生きる術ではなく、
自分の値打ちを正確に評価する感性だ。

個性とは奇異で目立つことではなく、
その人の中の最も自然な状態を言います。

世の中の何に反応するかということで、
その人の生き方そのものが表現される。

理不尽の壁があってこそ、新しい文化もエネルギーを持って誕生する。

たかが詞じゃないか。絵じゃないか。
「たかが」がいっぱいあふれている社会が一番望ましいのだ。

誠実は、損することはあっても負けることはない。

人間、日頃はどんなにぼんやりしていても構わないけれど、
誰と一緒に生きるかという時だけは、腹をきめて答えを出しなさい。

「しつけ」という字は、「躾」と書く。
身と美の組み合わせを「しつけ」と読ませる国に育ったことを、
もっと本気で感謝した方がいいかもしれない。

順位を決めるつもりはないけれど、きっとこの先もこの言葉は私にとってお守りのようなものになるんだろうな、という言葉がひとつ。

たくさんの言葉を持っていると自分の思うことを充分に伝えられます。
たくさんの言葉を持っていると相手の考えることを正確に理解できます。

(p.35)

自分の思うことが伝えられず苦しかった10代。言葉を知って、言葉に救われて、自分の気持ちを言葉にすることを知って、目の前の人とまっすぐ向き合えるようになった20代。そして30代、今までもらった多くのことを、言葉で返したい。まだ何も始まっていないけれど、この言葉はそんな私の道標になってくれるような気がする。

*****

『君の唇に色あせぬ言葉を』
著者:阿久悠
初版発行:2018年8月30日
発行所:株式会社河出書房新社

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