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動揺と反対(50)

 家に着くと母がいて、「お帰り、きょうは普通のカレーよ」と言った後、振り向いて「マヤ、スカートに血が付いているけど、大丈夫なの?月のものじゃないわよね、こっち来て」と言った。マヤは母の顔を見た途端こみ上げてくる涙を止められなかった。「秀が、秀が」と言ったまま、泣き続けた。「秀くんて、バイト先で、記憶喪失になって、やめた子よね」母は覚えていた。マヤは力なく、その場に座り込んだ。「この頃毎週土曜日に出かけるから、マヤにもとうとう彼氏ができたのかしらと思ってたのよ。何があったの」と尋ねた。マヤは苦しくて、これまでのいきさつを全部母に聞いてもらった。「そうだったの。バイトやめた頃から異変は感じてたけど、ボランティアに行ったり、いろいろ楽しいこともあったりしたから、元気になったかと思った矢先、佐竹さんたちが亡くなったから、そっちを心配してた。けがは本当にないのね?本当に幸いだったわ」と言ったあと、「秀くんとはしばらく離れて様子を見たほうがいいかもね」と母は言った。「つらかったわね」と言いながら抱きしめた後、背中をなでてくれた。「マヤに何かあったらお母さん耐えられないわ。本当にけががなくてよかった」「カナコさん、不安定になっているのね。その子とマヤを関わらせたくないわ。秀くんも事態がそうなるまでに追い込んだ責任はあるわね」「秀は悪くないの」マヤは言ったが、母は黙っていた。立ち上がると、温かいミルクココアを作って、飲ませてくれた。マヤも少し落ち着いた。「マヤの好きな普通のカレーだからタイミングよかったわね」と母は言った。宮本家のカレーは、父の好きなグリーンカレーやスパイシーなカレー、オーソドックスな日本のルーを使ったもの、和風にしたものといろいろあった。マヤが一番好きなのは、日本のルーの普通のカレーだった。

動揺と反対(50)

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