「梅林を歩いて春の季語採集」 俳句と暮らす vol.08
2月4日に立春を迎えました。
まだまだ寒さは厳しいですが、そんな寒さのなかに春の兆しが見えはじめるころ。
今日は、春の季語をたくさん採集するために、岐阜市にある「梅林公園」を訪ねます。
岐阜の梅の名所として知られている「岐阜市梅林公園」。
約50種、1,000本の梅の木が植えられています。
例年、1月中旬ごろから早咲きの梅が咲き始めて、3月には見頃を迎えます。
1月や2月は、まだ雪が降ることもあるので、雪をかぶった梅をみることもできます(「残雪梅」という季語もあります)。
春を待つ心の季語「探梅」
「春の季語採集を」と冒頭で気合いを入れたばかりですが、ひとつ、私の大好きな冬の季語を紹介させてください。
「探梅」。晩冬の季語です。
探梅(たんばい)とはその字の通り、梅を探しに行くこと。
漢詩では「観梅」が庭園や梅林の梅を観ることであるのに対して、まだ寒い冬のうちに早咲きの梅を求めて、雪深い山野を訪ねることを「探梅」と言います。
枯れた大地の中に春の兆しを探しにいく、その行動(や気持ち)をあらわした言葉です。
早くに咲いている梅をあらわす季語は「早梅」「冬の梅」など他にもあります。
ぽつりと一輪咲いている梅そのものを季語として大切にするのはもちろん、わずかに感じられる春のかけらを自ら探しに行く、その心延えを尊ぶ季語が「探梅」なのです。
春の季語「梅」にもいろいろ
春を告げる花、梅。
まさに今、早春の冷たい空気のなかでも、清楚な花を咲かせ、清々しい香りをさりげなく放ちます。
現代では「花見」と言えば桜のことで、歳時記にある「花」という季語は、桜を意味しています。
でも『万葉集』のころは、花といえば「梅」のことでした。
梅は万葉の時代に、遣唐使によって日本にもたらされ、以来、春の到来を告げる「よろこびの花」として愛されてきました。
「梅」のほかにも、いろいろな名前があります。
「春告草(はるつげぐさ)」「風待草(かぜまちぐさ)」
「花の兄(はなのえ)」「好文木(こうぶんぼく)」
すべて梅のことで、梅を意味する季語として歳時記に掲載されています。
春風を待って咲く、「風待草」。
その美しさ、その香りで、春の到来を告げてくれる「春告草」。
どの花よりも先に咲くことから、花の中の兄弟に見立てて「花の兄」。
人々が梅の開花を心待ちにしてきたことが、これらの雅称から伝わってきます。
さらに、春の季語には「梅見」や「梅月夜」「梅の宿」「梅東風(うめごち)」など、梅に関する言葉もたくさんあります。
じわじわ開花していく梅林公園の梅
岐阜市梅林公園は、1月から3月までグラデーションのようにさまざまな梅が楽しめます。
種類もさまざまで、白、紅色、淡ピンク、黄、…と、色とりどり。
一重の可憐な花もあれば、たっぷりの花びらで見栄えのする八重咲きもあり、梅林公園をぐるりと歩いているだけでもさまざまな花や蕾を愛でることができます。
1月からちらほら咲き始める早咲き種は、「寒紅梅」や「早咲鶯宿」、「紅冬至」など。
そのあと、中咲き種の「小梅」「茶青梅」「白加賀」などが咲き出して、3月ごろには遅咲き種の「楊貴妃」「豊後鶯宿」「蝶の羽重」などふくよかな花もたくさん咲いて、どんどん華やかになっていきます。
毎年、じわりじわりと咲いていく梅林公園の開花情報が、定期的に紹介されているのがこちらのページ。
「(一財)岐阜市みどりのまち推進財団」さんによる、「梅林公園 梅だより」です。
リアルタイムの梅の写真付きで、品種ごとの蕾や花のようすが綴られています。
公園の遊具で、春の季語探し
梅の香りが心地よい春の梅林公園で、梅以外の春の季語も探してみることにします。
たくさんの遊具がある梅林公園は、我が家の5才と2才の息子たちにとっても大好きな遊び場です。
遊具の隣には、蒸気機関車「D51」が展示されていて、日中は機関車の操縦席に乗り込むこともできます。
ここで見つけた春の季語は「鞦韆」。
「しゅうせん」と読みます。
難しい漢字ですが、鞦韆とは「ぶらんこ」のことです。
一年中、いつでも乗ることができる「ぶらんこ」ですが、これも春の季語。「ゆさはり」「ふらここ」とも呼ばれます。
日に日に暖かくなってきて、外に出る子どもたち。
ゆらゆらと揺られながら遊ぶのどかな風景は、春のやさしい光にぴったりです。
公園で鳴いていた野良猫たち
のんびりゆったりと公園を歩いていると、「ミーミー」とかわいい鳴き声。
人懐っこい野良の子猫たちが、ちらりと顔を出してくれました。
「子猫」は春の季語。
「猫の恋」や「浮かれ猫」「孕み猫」も、同じく春の季語です。
春は、猫の発情期。
春が近づいてくると、猫が発情した鳴き声が聞こえてきます。
「猫の恋」というのは、その様子のこと。
その声は、人間の赤ちゃんが泣きわめく声のような可愛らしさも、動物の本能が漏れるような物狂おしさもあります。
「猫の恋」という季語には、春の深夜にそんな声が響くイメージがあります。
発情期を経て、たくさんの子猫が生まれるのもこの季節。
なので、「孕み猫」や「子猫」も春の季語です。
そのほか、「蝶」「蜂」「かえる」「たんぽぽ」「つくし」「すみれ」「いぬふぐり」も春の季語。
ぶらんこのように公園で子どもたちが遊んでいそうなものだと、「しゃぼん玉」「風船」「風車」「凧」も季語です。
のどかな風景と、子どもたちの楽しそうな声が聞こえてきそう。
公園には、春の季語があふれています。
梅林公園で楽しむ春夏秋冬
早春の梅が有名な梅林公園ですが、梅以外にも見どころはたくさんあります。
桜が見頃を終える4月下旬頃、梅林公園の藤棚がきれいな藤の花を咲かせてくれます。
さらに5月になると、梅が実っていきます(残念ながら採取は禁止)。
やがて、梅の実が熟してくると、梅酒を漬けているかのようないい香りが公園中に漂います。
6月、梅雨の時期には紫陽花も咲き誇ります。
深緑のなか、雨に濡れた麗しい姿を見せてくれます。
早春の梅、そして数本咲く桜から、藤、紫陽花。
夏の新緑、秋の紅葉、冬の雪景色まで、山に抱かれた梅林公園は四季折々の美しい景色を見せてくれます。
まずは春。
ぜひこの時季にしか見られない、美しい梅の花をその目で見て、清らかな香りを感じてみてください。
まだ寒さの厳しい日々のなかに、小さな春を感じられるはずです。
暮らしの一句
探梅や自販機のぬるいポタージュ 麻衣子