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小説評論

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#表現技法

江國香織 『落下する夕方』から学ぶ小説と映画の魅せ方の違い

 江國香織といえば、『号泣する準備はできていた』や『きらきらひかる』などに代表されるような恋愛小説作家として有名である。1996年に出版された『落下する夕方』も例に漏れず、恋愛小説である。恋愛小説というと爽やかな「青い」恋愛をイメージしがちだが、江國の小説はそうではない。もっと言葉にし難い複雑な感情が絡む「大人の」恋愛を描くのが江國の小説の特徴である。
『落下する夕方』という題名からも想像できるよ

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太宰治 『魚腹記』から小説技法を学ぶ

○「反復」からみるスワの「死」
四章でスワは鮒になり、滝壺のなかへくるくると吸い込まれていく。私は、スワはそのあと死んでしまったのではないかと考察する。
一章で、学生の死をスワが15歳の時に目撃したことが語られる。二章の「つまりそれまでのスワは~といぶかしがつたりしていたものであった。」と「それがこのごろになって、すこし思案ぶかくなったのである。」の間で学生の死を目撃し、彼女に自意識が芽生えたこと

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