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レビューとレポート第22号特集「削除された図式/THE SIX MAGNETS」 1 はじめに/「削除された図式」の行方を追って 半田晴子

 2020年8月6日(木) – 8月24日(月)、私(半田)はグループ展「削除された図式/THE SIX MAGNETS」を両国のArt Trace Galleryにて企画・開催しました。

削除された図式1

 この展覧会は私が2019年3月に中国東北部を旅行した際の経験を基に企画したものです。戦前に日本が植民地支配した「満洲」が日本の近代化と密接な関係にあると気付いたことがきっかけになっています。満洲の首都だった新京(現在の長春)を訪れた第一印象は、エベネザー・ハワード「明日の田園都市」に書かれている都市構造そのものだ、というものでした。そこで私はこの第一印象からあるアイデアを思いつきました。それはハワードが「明日の田園都市」改訂の際に取り下げた都市の図式に注目することでした。改訂時に都市の要素として挙げられた「町・いなか・町いなか」という3つの要素に、エージェントの求めに応じて載せなかった「行政:俯瞰図」の章と、巻末にあった「補遺:水の供給」要素を加えてみたらどうなるか? 本来のハワードの意図を垣間見ることができるのではないかと考えたのです。
 「明日の田園都市」の中でハワードは田園都市の構想の中に3つの磁石(町・いなか・町いなか)を置くことで都市計画を展開しました。私はこの「磁石を置く」ことを手掛かりに、6名のアーティストの作品を「6つの磁石」として改めて置くことにしました。磁石はそれぞれ「田園・都市・境界線・流通・歴史(日本・植民地)」としました。

削除された図式30


 展覧会期間中、オープニングに予定していた出展アーティストによるトークイベントは非公開(一部ネットで動画を期間限定で公開)で行いました。今回はその記録を文章化して公開することにしました。
 また、私個人としては日本の近代化についての思考装置として企画した展覧会ではありましたが、展示期間中にCOVID-19の影響下で別の意味も考えざるを得なくなりました。パンデミック下における都市の脆弱性を問わざるを得ない状況になったからです。そんな折、展覧会終了後にみそにこみおでんさんとの打ち合わせの中で主催者・出品アーティスト以外の第三者の視点による文章が必要ではないかとの話になりました。文章はアライ=ヒロユキさん(美術・文化・社会批評)と福居伸宏さん(アーティスト、291workshop主催)にお願いすることになりました。お二人には展覧会終了後の急な依頼に対して快諾してくださり、本当にありがとうございます。
 今回、レビューとレポートの協力の下でアーティスト・トークを記録として公開することになり、大変ありがたく思います。また助言をくださった柘植響さん、そして何よりも一緒にこの展覧会をつくり上げてくれた各出品作家に心から感謝しています。(2021年2月)

半田晴子(美術家)

トップ画像:半田晴子
作品・展示会場撮影:田巻海

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削除された図式/THE SIX MAGNETS
企画者:半田晴子
参加作家:荒木佑介、田巻 海、半田晴子、平間貴大、三輪彩子、室井良輔
会期:2020年8月6日(木) – 8月24日(月)
会場:Art Trace Gallery
https://www.gallery.arttrace.org/202008-handa.html

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レビューとレポート第22号特集「削除された図式/THE SIX MAGNETS」
1 はじめに/「削除された図式」の行方を追って 半田晴子
2 「日本・現代・美術」の明日は何処に?〜「削除された図式/THE SIX MAGNETS」レポート  福居伸宏
3 アーティスト・トーク(作品解説) 荒木佑介・田巻海・半田晴子・平間貴大・三輪彩子・室井良輔
4 展覧会について 荒木佑介・半田晴子
5 歴史を召喚する天使の作法 「削除された図式」展レビュー アライ=ヒロユキ


レビューとレポート第22号(2021年3月)