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書くことと、恋と、深夜の日記。

いつからか、書くことがわたしの一部になっていた。寝る時間を削ってでもやりたいと思うことに出会えて本当によかった。だれに何を言われても揺るがない。逆にだれかに何かを言われれば言われるほど、「書くこと」は頑丈になった。

それが本当に好きなことかどうかなんてやってみなければわからないし、続けてみなければわからない。書くことが嫌いだったわたしが今のわたしを見たらなんていうだろうか。


人生、なにが起こるか本当にわからない。


今やっていることが何に繋がるかわからずにひたすら書いた夏があった。わたしが書くことに正面から向き合った初めての経験は高校3年生のとき。


蝉が鳴く校庭を背に受験科目の小論文を書いていた。志望理由や将来の夢を800字にまとめる作業は、当時のわたしにとっては気の遠くなる作業だった。

第一に、将来のことなんてわからない。一生懸命書いたところで、紙切れ一枚に詰めた想いは知らない大人に切り裂かれてしまうかもしれない。そんな見えない理不尽に紺のスカートを短く折って少しの反抗をしないと今にも爆発しそうなイライラを抱えながら志望校に受かるためにひたすらに自分と向き合った。


書いては消して、書いては消して、原稿用紙をぐちゃぐちゃにしてやっとのことで書き終えても、次の日にはびっしりと「赤」が入って返ってくる。

それでも、手を抜かなかった。どうしたら相手に自分が伝えたいことが伝わるのか、どんなに辛くても絶対に逃げなかった。

言葉も文節も構成もめちゃくちゃなわたしの文章を、真剣に見てくれる人がいたから。支えてくれる人がいたから。


わたしは書き続けられた。


毎日、教室をキンキンに冷やしてその足音を待つ。赤色のペンを持つ指先から流れる体温のある文章に、いつも感動した。紡ぐ文章はなぜか尊くて、まるで魔法のようで、やわらかくて。それを真似をして必死に書いた。

そうしているうちにだんだんと文章が自分の手のひらのなかにかたちになっていく感覚がうれしくて、言葉と向き合う高校3年生の夏は今でもわたしを繋いでくれている。


***


わたしに文章を教えてくれたのは、先生だ。

好きになる、先生だ。


人生なにが起こるかわからない。

わたしが、先生を好きになるなんて地球がひっくり返ってもないと思っていたのに。

卒業式のあと、わたしはあっさり彼に恋をした。きっと、あの夏の彼を季節が過ぎたあともずっと好きだったように思うけれど、わたしがそれに気づくのはそのずっとあとで、離れて気づくなんてありきたりな言葉をつかえばそうなのだろう。




もう、卒業して何年になるのか。

呼吸をするように出会ったり離れたりするようになって何年になるか。



彼に、まだ、言っていない。

文章を書くことを生業として生きていくことに決めたことを。


一秒でも長く一緒にいたいと思ったり、もう一生会いたくないと思ったり、切っても切れないのは、言葉を紡いだあの夏が、彼の文章が、わたしの身体にべっとりと染みついているからなのかもしれない。


「おまえが書く文章、おれそっくりになったな。」


いつだったか彼が言ったその言葉にはにかむ自分がなつかしい。


わたしに、文章を教えてくれてありがとう
あなたの書く文章がわたしはとても好きでした
わたしのなかに流れているあなたのことばを、今日もわたしは紡ぎます


目を見て自分の声で言える日が喉から手が出るほど欲しいと思うけれど、そんな日は一生来なくていいとも思う。



行ったり来たりな曖昧な恋に、それでも伝えたい。

深夜の日記。

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