暮らしの中に拠り所となる場所を作る
毎日の生活の中で、少し足をのばせば触れられる距離に、お気に入りの場所がいくつもある。そんな暮らしを望んでいる。そして、京都に暮らし始めたことで、その望みがじんわりと叶えられている実感を味わっている。
京都に引っ越してきて2ヶ月半。「京都に住み始めてよかったなあ」と、そして「そんなことを感じるのは何度目か」と思う。
それは、有名な観光地に近いからとかそういうことではなくて。なんかもっとこう、拾い上げないと気づきもしないかすかな部分で、そう思っているのだと感じる。そしてそれは、ほんのささいな日々の暮らしの中でじわじわと染み渡ってくるような。
京都に引っ越してくる前に、散歩中にふとお気に入りの場所を見つけた。北区の大徳寺の近くにある「船岡山」という丘。5分もあれば山頂に登れてしまうほどの高さで、その気軽さに、京都に滞在するたびに何度も足を運んでいた。
気軽に登れてしまうのに、山頂の開けた部分からは、京都市内が一望できる。遠くに京都タワーなんかが見えたりして、嬉しくなる。少しだけ登った爽快感と、京都の街中にいながらこんなに広い景色を眺められるんだという意外性と。山登りというほどの大それたものではなくて、けれど散歩の中にスパイスが添えられたような。そのちょうどよさが、私にはなんとも心地よかった。
船岡山の中には「建勲神社」という神社がある。散歩のついでに参拝をして、景色を眺めながらしばらくぼーっと過ごす。こんな過ごし方が、何でもない、ささやかな暮らしの中でできてしまうなんて。そんなお気に入りの場所。京都に引っ越しをしたときにも、「家からふらっと船岡山まで歩いていける場所にしよう」と、船岡山基準で住む場所を決めたほどだ。
そして、京都に暮らし始めて2ヶ月半、仕事に疲れた日やなんだかモヤモヤする日、逆に天気がよくて気分がいい日。日課のように船岡山へ向かった。天気がいい日には、市内の奥の奥まで見渡せる。どんより空の日には、それはそれでくっきりとした家々の姿が眺められる。
また、違う日には鴨川をひたすら北へ北へと歩くことがある。街中にいても、肩の力がふっと抜けて、シンプルな心持ちになれる場所。異様なほどに空が広くて、山が近く感じる。このシンプルさが、私の日々に渦巻くモヤモヤをそっと取り除いてくれる。
晴れた日には、ベンチに腰掛けて本を読む。水筒にコーヒーを入れて、近くのお店でスイーツを買って、ひとりピクニックをすることもある。鴨川のある景色とともに暮らす。
「天気がいいから、鴨川まで歩こう」、そんな単純さで、私は日々を過ごしていたい。
こうやって、暮らしのすぐそばに、拠り所となる場所を作る。たったそれだけで、ささいな日々が豊かさで満ちあふれる。うれしいとき悲しいとき、逆に何も考えていないとき。
そんなときに、ついつい立ち寄りたくなってしまうお気に入りの場所が、すぐそばにあれば。その景色とともに日々の暮らしを営んでいけたら。きっとそれだけで、何でもない日々が豊かになる。そんな暮らしを愛せるようになる。
散歩でふと立ち寄れる距離に、お気に入りの場所をいくつか見つける。私にとっては、船岡山だったり鴨川だったり下鴨神社だったりするけれど。お気に入りの場所に囲まれた暮らしは、何でもないささやかな日々の中にそっと彩りを添えてくれる。そんな場所を京都で暮らす中でたくさん見つけていくことが、私にとっての密かな目標だ。
いつだって、お気に入りだけに囲まれて生きていたい。そう思える単純さで、これからも過ごしていこう。
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