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わたしとキムくん #1 Ditto

【これまでのあらすじ】
渡韓の当日、九州北部はまさかの大雨。
バスは早朝から運行見合わせとなり、福岡空港までの公共交通機関は全てシャットダウン。

地元のバスセンターで同じく立ち往生していた韓国人男性(キムさん)と出会ったみるかく子は、キムさんと一緒に大雨の中タクシーで福岡空港へ向かう。

無事ソウルに到着後、最終日にキムさんと食事をした。
ソウル駅まで見送ってくれたキムさんから、さよならをした後にカカオトークでメッセージが入るのだった……


*ソウルで食事をしてからキムさんとの少し距離が縮まったので、呼び名が「キムさん」から「キムくん」に変わります。

また、キムくんの一人称は「わたし」なのですが、ややこしいので「僕」と表記します。



✳︎


「ヌナ、祇園祭に連れて行ってくれる?」


✳︎



わたしは思った。



キムくんは元々7月いっぱいまで日本を旅する予定だったけど、訃報が入り急きょ帰国した。祇園祭を観れなかったのが相当心残りだったのだろう。


まぁ別に断る理由はないし、ユッケとカフェでの時間が楽しかったので、わたしは「もちろん!」と返信した。



とはいえ、


祇園祭は日本全国にあるし、日程も違う。



キムくんがどういう予定で考えているのかは分からないけど、都合がつけば案内してあげてもいいし、一緒に行けなさそうなら最大限の旅の手助けをしてあげようと思った。


この韓国人の青年は、日本のお祭り文化に興味のある、とても熱心な青年なのだから。


そんなことを考えていると、またキムくんからカカオトークがきた。


暗黙の了解でお互いの言語に訳してから送り合うため、韓国語がわたし。



アリ・アスター監督の新作だ。


キムくんは、アリ・アスター監督の前作が面白かったから、新作の公開も楽しみにしていたとのことだ。






この人とは本当に仲良くなれるかもしれない…


少し趣味を疑われそうだが、わたしもアリ・アスター監督の前作『ミッドサマー』がとても好きで、何回も観て考察を読み漁っているのである。


非常に不気味な映画なので、あまりおすすめはしない。



好きな映画やドラマの話をきっかけに、わたしたちは楽しくやりとりを続けていた。


わたしが仁川空港から飛び立つときも、

福岡空港に到着してからも、ずっと。



「みるが好きな韓国ドラマは何?」

「『恋愛体質』かな。イ・ビョンホン監督の。」


ドラマ「恋愛体質」


「ふーん。見たことないな。あらすじを読んでみたけど、普段自分が観るタイプのドラマじゃない。僕がみても面白くないかも。
これにもソンソックが出てるね?」

「うん、ソンソックが出てるけど、このドラマではわたしはアンジェホンが好き。
あと、チョンヨビンがとても良くて、チョンヨビンのシーンはずっと泣いてた。」

「僕はドラマや映画をみて泣いたことは1回しかないな。チョンヨビンは『楽園の夜』が1番良かった。」


映画『楽園の夜』


「キムくんが一番好きな韓国のドラマは何?」

「1988」


わたしは「応答せよ1988」をまだ観たことないのだが、多くの韓ドラ沼民が認める名作であることは知っているので、謎の親近感を抱いてしまった。


「応答せよ1988」




続けてキムくんが言った。




「あと、トッケビも好きだよ。」


名作韓ドラ「トッケビ」



これは意外だった。



「意外だね。何でトッケビが好きなの?」


これまでの会話から、アクションやサスペンスが好きだという印象があったので意外に思って尋ねると、キムくんが言った。




「何でって……コンユかっこいいじゃん??」





なんだこのひとは。



本当に仲良くなれるかもしれない。



「わたしも韓国ドラマで一番最初に好きになった俳優は、トッケビのコンユだよ。」


例に漏れずハートを撃ち抜かれた、トッケビのコンユ。



わたしの言葉に、キムくんは相槌をうつ。



「コンユかっこいいし、トッケビのストーリーもシンプルでわかりやすくて面白いじゃん。コンユを見て惚れない人はいないと思う。」





このひと、よくわかってんじゃん……(何様)



未だに心の中にひっそりとコンユファンクラブを抱えているわたしは、この発言により、キムくんへの親近感と信頼度がグッと上がった。

「ユミの細胞たち」より



わたしとキムくんはパパゴなしに会話をすることはできないのだけど、それからも不思議と会話が弾むのだった。






帰国した日、大雨の影響でまだ高速道路が一部通行止めになっていた。


バスは、高速が通れない場所は迂回して一般道を通るため、自宅に到着するまで時間がかかる。


わたしは少し疲れていたので、福岡市内の親戚の家に一泊した。


「今日は叔母さんの家に泊まる。今から叔母さんたちと食事するから、またね。」

「うん、暇なときはいつでもカカオトークしてね。」


叔母の家での食卓は、韓国のお土産話で持ちきりだった。叔母は福岡市に移り住んで長く、もうすっかり「博多のおばちゃん」だ。


叔父も陽気な性格で、わたしはこの叔母の家が大好きだ。


静かでお堅い雰囲気の我が家と違って、明るい笑い声が響く叔母の家の食卓は、小さい頃からわたしの理想なのだ。


「あの大雨の中、どうやって韓国までたどり着いたのか詳しく教えてほしい」


という叔母たちに、事細かく話した。


最初はお兄ちゃんと車で向かおうとしたけど道路が冠水していて諦めたこと、バスセンターで韓国人の青年と出会ったこと、タクシーの運転手さんの英断などなど。


叔母も、叔父も、いとこも、わたしの話を興味深く聞いてくれて、大いに盛り上がった。



酒が入って普段よりさらに陽気な叔父が冗談まじりに言った。



「もう、その韓国人の彼に嫁にもらってもらえ!」


「いやー、それはちょっと、、、わたしより6歳も年下みたいだし。」


「いいじゃない、わたしとカズちゃん(叔父)と同じくらいの年の差じゃない!!」

叔母は叔父より5歳上の姉さん女房。


「いやいや、それでもやっぱりないない。韓国に嫁ぐのは大変だとよく聞くし。」


「まぁ、そうね…大変だとよく聞くわね……」



食事のあと、キムくんから連絡がきていて、わたしたちはまた夜更けまで雨の日のことやお互いの旅行話で盛り上がった。




✳︎



翌日。



叔母たちの家を後にし、博多駅へ向かう途中で、自分が鼻歌を歌っていることに気がついた。



"Ra-ta-ta-ta 울린 심장ウルリン シンジャン……"



何気なく口にしていた NewJeans  "Ditto"の1小節。



そういえばどういう意味なんだろうと思い、調べてみた。




《和訳》
"Ra-ta-ta-ta 高鳴る心臓……"







あれ…?わたしの心臓、高鳴ってる……のか……??






続く……

【あとがき】
前回の「ラブストーリーは突然に」から楽しみにしていただいてありがとうございます!

今後、この続編「わたしとキムくん(나랑 김군ナランキムクン)」は毎週水曜日にnoteに投稿していこうと考えています。

毎回、わたしの気持ちや情景を表す曲をテーマに執筆していこうと思うので、そちらも楽しんでいただけると嬉しいです。^^

わたしは幼い頃から鼻歌を歌うクセがあったのですが、大人になってからいつしか、特にここ2〜3年は鼻歌を歌うことはすっかりなくなっていました。

今回の"Ditto"は本当に無意識に口ずさんでいて、自分でもびっくりしました。"Ditto"という言葉は、相手の言ったことに対して「わたしも同じだよ」という意味で使われる、少し昔の口語表現のようですね。^^

では、また来週〜


▼NewJeans "Ditto"


*このエッセイは、「【韓国旅行記】〜ラブストーリーは突然に⁉︎」の続編です。

▼物語の始まりはこちらから


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