【韓国旅行記】〜ラブストーリーは突然に⁉︎〜前編
■ラブストーリーは突然に!?
その日は雨が降っていた。雨が降り続けていた。
九州北部が線状降水帯で覆われる7月10日の午後、わたしは福岡空港から韓国へ行く予定だった。
今回の目的はソンソックの舞台、「木の上の軍隊」の観劇である。
ソンソックは、2022年に配信された「私の解放日誌」や、「犯罪都市2」など多くの作品に出演しており、今韓国で最もホットな俳優の1人だ。
そんな人気俳優が出演する舞台。
奇跡的に前から2列目の席のチケットが取れたので、数ヶ月前から楽しみにしていた。
2列目ならオペラグラスはきっといらないし、オペラグラスで覗いたらソックの毛穴や鼻毛まで見えてしまうのではないだろうか。
そんなことを考えていた。
わたしが現在住んでいる地域から福岡空港までは、高速バスで約1時間ほどかかる。
数日前から激しい雨が降っていたけど、天気予報では出発日の10日には雨はおさまるという予報だった。初期の天気予報では確かにそう言っていた。
前日にちょっと仕事もあったので、仕事が終わってから夜遅くに大雨の中バタバタと福岡市内へ行くよりは、当日に少し雨が落ち着いてから行こうと考えていた。出発は午後からだから十分間に合うし。
しかし、前日の夜、仕事を終えてスマホをみると、一緒に旅行に行く韓ドラ沼の仲間から連絡が来ていた。彼女たちは東京発で、ソウルで落ち合う予定である。
確かにずっと雨が降ったり止んだりしている。結構やばそうだ。
*
少し話が逸れるが、わたしは荒れ狂う嵐の中、飛行機に乗ったことがある。
あれは、ワーキングホリデーを利用して台湾に住んでいた頃。
台湾のエアラインに勤務している日本人の友人と、タイ旅行に行こうとしていた。しかし、その日はあいにく大型台風が台湾に近づいていた。家を出る時にはすでに雨風が強かったので、ルームメイトの台湾人たちから、
「行くな、飛行機は絶対に動かない」
「こんな日に外に出るなんて、危険だ」
と止められた。
しかし、一緒に旅するエアライン勤務の友人曰く、雨風が弱まるまで遅延するかもしれないけれど、離陸さえできれば台風は関係なく飛行機は動くらしい。
彼女がそういうのなら…と思い、引き留めようとするルームメイトたちに「無理そうなら戻ってくるから」と伝え、空港へ向かった。
きっと、なんて無謀な日本人なんだ……と思われていたことであろう。
結局、その飛行機はやはり数時間の遅延を経て出発した。機内は「私の人生はここまでかもな…」と、人生を諦めかけるほど揺れに揺れたけども、なんとか無事にタイに到着した。
*
そんな嵐のフライト経験もあったので、雨が強いだけならきっと飛ぶだろう、という謎の確信がわたしにはあった。
しかし、私の懸念は別にあった。
自宅から福岡空港へ行くまでの道である。
福岡空港に到着するためには、水害の多い地域を通らなければならない。
そんな後悔の念に駆られた。
でもそんな事を言っても仕方がない。時間的には最終便に間に合うけれど、まだパッキングを一切していない。(おい)
わたしが住む地域は、観光地だ。国内外からの観光客もたくさんくるし、福岡市内へ高速バスで通う学生や社会人もたくさんいる。
そのため、福岡市内までの便はたくさんある。バスが動かないとなると、通学・通勤する人も大変だから、ギリギリまでは運行するだろうと踏んでいた。
パッキングを終え、0時が過ぎ、1時過ぎ、2時過ぎ……
残念ながら、雨足は一向におさまる気配がない。雨雲レーダーによると、午前中いっぱいまで福岡県全体が真っ赤に覆われている。
Twitterで福岡市内の様子を検索してみると、警報が鳴り止まずに寝れないというツイートがたくさんあって、わたしが思っていたよりことが深刻そうだった。
そして3時、4時と、ひたすら雨状況の確認をしながら、最近保護して飼いはじめた愛猫を愛でていた。
始発は5時。
兄がバスセンターまで送ってくれると言ってはいたけど、さすがに5時前に起こすのはなんだか気が引けてしまい、6時半ごろに兄に送ってもらってバスセンターに到着した。
しかし、バスセンターでスタッフさんに尋ねてみると、始発は出発したが、そのあとの便はもう運行見合わせになったと伝えられた。
本当にやってしまった。
兄に多少迷惑をかけてでも、5時前に叩き起こすべきだったか…
でも運行見合わせということは運休ではないんだよね…?ちょっとバスセンターで様子を見ながら待ってみようかな。
そう兄に伝えると、兄が言った。
か…神……。
はい、よろしくお願いします。ナイス兄貴……
このまま2人とも独身だったら、これからも兄妹で助け合って仲良く生きていこうな……
ということで、空港まで車で行くことになった。
それが確かまだ7時前だったので、飛行機の搭乗時間までは5時間以上ある。良かった…これで無事にソックを拝めそうだ…
そうしてわたしの運転でバスセンターを出発した。
わたしの住む市では雨がまだそこまで激しくなかったけど、運転してから15分ほどのところで、ちょっと雲行きが怪しくなり始めた。
道路脇の狭い水路から水が溢れていたり、対向車とすれ違う度にフロントガラスに水がバッッッシャーーーーーン!!!!!!とかかったりする。
それは、まるでスプラッシュマウンテンに乗っているようだった。
まぁ、対向車がまだくるということはまだ先に行けるということだよね?と兄と話しながら、「これはもう無理」と思うところまで行ってみよう、という話になった。命の危険を感じたら、引き返えそう。
しかし、そのすぐ先で完全に道路が冠水していた。有志で交通整備をしている方がいて、こっちは通れないからUターンしろ、ということを身振り手振りで伝えてくれていた。あぁ、やっぱり。ここは以前も水害で冠水した場所だ…
引き返して帰る道は行きよりもまた水かさが増していて、運転する手が震えていた。
まぁ、これはしょうがない…今回の雨を甘くみていた自分の責任だ。今日の遅い便か、明日の便が取れるか調べてみよう。どうしようもなかったら、諦めよう。命にはかえられない。ソックに会ってみたかったけど、またいつか、次の機会があるだろう。
そんなことを考えつつ、家に帰る前にもう一度だけ情報を得るため、バスセンターに立ち寄った。
朝一でバスセンターに行った時には、スーツケースを持った人が5〜6人いたが、2回目(8時前ごろ)行った時にはガランとしていた。みんな諦めて帰ってしまったのだろうか。
そこに、1人だけ張り紙をじっと見つめている若そうな男性がいた。
普段、わたしは道ゆく他人に話しかけたりすることはない。
しかし、災害が起きているという事と、「旅の恥はかき捨て」という気持ちが相まって、そのポツンと1人でたたずんでいる男性に状況を尋ねてみた。
彼が、声をかけてきた私に少し戸惑ったような顔をして返事をした。
その一言のイントネーションで分かった。
この人は韓国人だ。
続く。
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