見出し画像

企業倫理とは何か :合法編

企業倫理においては、常に合法性を第一に考えなくてはなりません。合法性が欠如した企業経営は、企業存続そのものに影響を与えます。また、社会は合法性の欠如した企業に対して、とても厳しい目を向けます。なぜなら、非合法的な企業経営によって被害を直接受けるのは一般消費者だからです。

過去には様々な合法性を問う事件が起っています。例えば、2010年4月に田辺三菱製薬が、新薬の試験データを組織的に改ざんした子会社の監督責任を問われ、子会社とともに厚生労働省から一部業務の停止(25日間)を命じられた一件も、合法性が問われた事件です。

データ改ざんは、新薬のアレルギー反応を確認するラットの試験で行われ、一部に陽性が出たにもかかわらず別のサンプルで試験をやり直し、陰性の結果を出して記録として残したというのが、この事件の真相です。

同社は、薬害C型肝炎の感染源とされる血液製剤「フィブリノゲン」を製造販売した旧ミドリ十字を引き継いだ三菱ウェルファーマと田辺製薬が2007年に合併して誕生した会社です。薬害肝炎訴訟の被告企業として08年の和解の際、薬害発生を謝罪して再発防止と健全な企業経営を誓っていました。それだけに「再発防止と健全な経営理念の約束は守られているのか」といった厳しい社会的批判は免れることはできません。

人の命を救う使命を担う薬を製造する企業が薬害に再び関与したという事実は、その企業の社会的使命と倫理観に対して半信半疑にならざるを得ません。「子会社が勝手にしたこと」といった理由で非難を逃れようとするならば、まさにその企業の倫理欠如を社会に対して顕にすることになります。

同社の違反行為は、試験データの差し替えや捏造など、確認されただけで16項目に及んだと報道されています。厚労省は「治験の妥当性に疑義を生じさせる重大な薬事法違反」と厳しいコメントを当時発表しています。

同社は、内部調査で改ざんが発覚後、昨年3月に自主回収を行ったうえで、「健康被害の報告はない」という声明を出していますが、このような会社側の都合で述べられた非反省的な発言だけで、この事件を「問題なし」と片付けることは、社会的に許されないどころかむしろ消費者の心をその企業から遠ざけることを促すだけです。

そもそもこうした事件が起った原因は、製造販売承認を早期に得る目的があったとされています。過去に安全軽視の企業姿勢や倫理観の欠如が指摘されて反省していたはずの親会社が不正を見逃した責任は重く、これではかつての薬害への反省が全くなかったと非難されるばかりでなく、企業経営の倫理観を疑う社会評価が下されても仕方ありません。

この事件の背景には日本の製薬業界が主力製品の特許が相次いで期限切れとなる「医薬品2010年問題」に直面していることが影響していると言われています。それゆえに一日でも早い新薬の開発や許可を国から取って市場マーケットに商品を販売していかなければならないという事情からの焦りがこうした事件を起こしたと考えられます。

このように業界内での競争は益々激しさを増していきますが、合法性に背いたデータ改ざんに手を染めることは合理的経営として許されることではありません。命にかかわる医薬品であれば、なおさらのことです。この事例は、純粋な効率性の観点から判断すれば合理性があるといえるでしょう。しかし、こうした行為は完全な違法行為であり、経済的合理性が即ちに合法性につながらない良い例です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?