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読書メモ|母

知っている人のお葬式にゆくと、その人の人生について考える癖がある。見知った人の人生って興味深い。青木さやかさんのことは知らないけれど、有名人だから顔やしゃべる様子がわかるせいで興味深く読んだ。


"2月のここぞとばかりの寒さが身に染みた。消費者金融という名の銀行に入ってお金をおろし、タクシーで中野まで帰ろうかと思ったが、その元気がなかった。急ぎ足で帰りたかったが足取りは重かった。肩から下げた荷物が時折道ゆく人にぶつかるたび、小さな声ですみません、と言った。泣きたかった。"


"「売れたいですねー」

「ネタ書きなさいよ」

「売れたいですよー」

「はい」

「あーもう」

「なんだよ」

「もう、ほんと許せないですよね」

「なにが」

「なにもかも、ですね」

「なにもかも、ってなんだよ」

「わかんないですね」"


"外食を減らし、カラダのことを考える食事を心がけるようになった。朝早く起きて夜は眠るようになった。昔よりは素直になった。生活が整うと、心身が安定するのはわかるような気がする。病気だけで悩んでいることはできないのだ。生活、仕事、学校。何があったって、泣きたくたって、それでも日々生きていくしかないのだ。"



"わたしのところには、誰も面会に来なかった。弱っているときは、誰にもみられたくなかった。本当の本当は誰かに頼りたい。病院のベッドで、こわいよこわいよ、と泣きつき、剥いてくれたフルーツを不機嫌に食べて、眠るまで手を握っていて、と言いたいときもある、ような気がする。だけど、そういう相手がいないだけ、のような気がする。"


"ママ友という存在が大きい。悩みを吐露する相手というよりは同志のように、自分と子どもと心と、いろんなものと向き合っている姿をみせてくれた。もがいて笑って泣いて立ち上がる姿をみせてくれた。隣にそんな同志がいることは、勇気になった。みんな、いろいろあるわけで。多分。"


"ごめんね、それはできないんだ。だけど、パパもママもあなたを心から大切に思っている、このやりとりを何百回したかわからない。"


"「iPad買ってください」

「いや、iPadは早いでしょう」

「みんな持ってる」

「絶対みんな持ってないから」

「持ってる」

「みんな、の使い方おかしいから」

「ともだちは、持ってる」"


"毎日は忙しい。いろんなことを経験したって、とても未熟だ。イライラするし、傷つくし、大切な人を傷つけることもあるし、消えてなくなりたい夜もある。"


"「ママ、死なないでね」

「ママは死にます、いつか死にますけど、ただの肉体がなくなるだけですから」

「だから、そういうこと言うママきらい」

「ママは、あなたが大好き」

「は?」

「あなたが、わたしを嫌いでもね、ママは大好きというわけ」

「いま、そんな話してないから」

「あ、そう」

「ママ」

「なに」

「今日いっしょに寝ようね」

「うん」

「猫とママと寝る」"

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