見出し画像

ただ淡々と、あくまでも自然体の中から感じるオモイの深さ。


こんにちは!
中庄の未来をつくる部 刑部渉です。

とある縁があって香川県の高松にある古本屋「なタ書」の藤井さんとオンラインでお話しさせていただく機会をいただきました。

「なんでまた?」という話はさておき。(笑)

今回は、そんな藤井さんとのお話を綴っていこうと思います。

ではでは、お楽しみください。




ふとした瞬間、

「この先には、もっと違うかたちの未来があるのかもしれない。」
と人生を立ち止まって考えること。

それは誰しもが、一度は考えたことがあるのではないだろうか?


そんな瞬間から生まれたような古本屋が、
香川県高松市にある。

古本屋「なタ書」。

今回は、店主である藤井佳之さんにお話をお伺いしました。


高松へもどることになったきっかけ。


横浜の大学を出たあとは、そのまま東京の某有名出版社で会社員として働いていた藤井さん。

ある時、とある理由で自分の所属していた部署が無くなることになってしまった。

「それがちょうど29歳のときで、他の部署や他の出版会社からも、何社かお誘いがありました。でも、30歳を迎えるにあたり、5年後、10年後を考えたときに、このまま同じような仕事をし続けていても、なんとなく先が見えてしまった。」

「今後の収入や交友関係、自分の居場所のようなものについて、すでに想像できるようなものをなぞって生きるようなことが、急に無駄に感じてしまったんです。」

一度立ち止まってしまうと、誰しもが考えてしまうような感覚なのかもしれない。

「大学生のころに都会に憧れて香川県の高松から横浜に出てきて、東京の出版社に勤めて10年以上、横浜はもちろん東京でも遊び尽くしてきました。」

「そこに自分という存在が必ずしも必要なわけではないし、勝手に自分で故郷をはなれて、ただ東京に暮らしていただけ。」

もしも、自分の暮らす拠点が変わるとしたら、その先の自分のイメージはまったく想像のつかないものになる。良い方向に行くかもしれないし、路頭に迷うことになるかもしれない。

そんなことを考えたとしても、実際に動き出せるような人はそうそういないはず。

「当時は高松に戻ることは考えてなくて、京都や沖縄なんかに行こうかとぼんやり考えていました。高松にそんな良い思い出もなかったですし。というか、大学へ進学してからはほとんど帰省もしていませんでした。」

そんな事もあって、どうするにせよ半年間くらいゆっくり考えてみても良いのかな?と思い高松へ帰ってきた。


選択の可能性の中から生まれた予約制の古本屋「なタ書」。

いわゆる地元で「何かをしていきたい!」というような強い意志や想いがあったわけではなく、そもそも高松で何かをしていこうと考えていたわけではなかった。

「当時、今から15年くらい前は、今のように東京からの移住者や、地方に面白みを感じてくれるような人はいなかった。」

「今まで中目黒で暮らしていたこともあって、高松は比べてしまえば当然のように田舎ですし、面白くもなんともない。そんな中でも、街中を面白くしたいと、あくまでも個人レベルで考えるような人たちが何人かいて、街の大きな空きテナントの中でイベントの企画なんかをしていました。」

そんなことを続けているうちに、高松にいる時間が長くなってきてしまい、職を本格的に探そうかと考えていたが、自分の望むような求人はなかなか見つからなかった。

今までは出版社の中で、新規事業を立ち上げたり、プロモーションを行ったり、資金集めを行うような仕事をしていた藤井さん。

香川県にも出版社はあることはあるが、いわゆるタウン誌であり同じような仕事のできるような先はありませんでした。

「そもそも、出版社に入るくらいだったらわざわざ高松に戻る必要もなくて、東京に残って東京の出版社でいくらでも働き口がありますからね。」

「本当は東京の仕事を個人で請け負って、高松で働いていくようなことがしてみたかったんですよ。今でこそ、そういった働き方をしている人はいるけど、当時はそんな働き方が認められませんでした。」

結局、自分で何かを始めた方がいいのかなとぼんやりと考えるようになった。

東京にいた頃は、レコード屋と古着屋ばっかり行っていて、本には特に興味はなかった。でも、レコード屋も古着屋も高松には太刀打ちできないようなお店がすでに存在していていたんだそう。

ちょうど東京を離れることになった2004年あたりから、中目黒のカウブックスさんや、大阪にもベルリンブックスさんなどの、いわゆる新しい形の本屋さんがでてきはじめた。

四国にはまだそういった場所がないことに目をつけた藤井さんは、本にちなんだ何かしらの面白いお店をやろうと決意し、本屋を始めることにした。

「それがどうなるかは分からなかったけど、今まで出版業界にいたわけですから、自分の選択肢の中で本にまつわる何かをやっていけば、5年後、10年後、とりあえず生きていくことはできるだろうと考えました。」

「今はどこかで修行をしたり、本屋になるためのノウハウを学ぶ場はたくさんあるけど、その当時は何もなかった。ただの素人が始めたお店なので、はなからうまくいくとは考えてなくて、他にも仕事をしながらお店を開けられる方法として予約制の古本屋という形態をとることにしたんです。お客さんのくる時間に合わせてお店を開けて、それ以外は他の仕事で稼ぐ方が効率も良いでしょ。」

それが今もなお、延長線で続いているような状況なんだそう。

「今はさすがにもう古本屋だけでも食べていけるくらいにはなっていますよ。でも、この古本屋をしながら他の仕事をする感覚が自分の肌にあっているし、みんな真似できそうで真似できないじゃないですか?本屋に対して強い思い入れがなかったが故の働き方ですよね。がっつり毎日何時から何時まで古本屋をやるような事もできないですから。」

画像2


今、目の前のことを精一杯やる大切さ。

「これから先やりたいことはありますか?」

という質問に対して意外すぎる答えが返ってきました。

「今後の展望は?」とか、「今後やっていきたいことは?」とかよく聞かれる事があるのですが、それはちょっと良くない事なのかなって思っています。そうなるとこの先もっと何かをやっていかなきゃいけないのかなって思ってしまう。

「それは他店舗展開かもしれないし、もっと盛り上がる企画かもしれない。そんなもっともっとを考えた結果、本来の面白さを踏み外してしまう人たちも沢山いる。この先どうなるかなんてわからないのだから、私自身は現状を淡々と続けていくことが大切だと思っています。」

「今は5年後、10年後がどうなりたいかみたいなのはなくて、ただただ日々のお客さんとのやりとりに応えていく、その積み重ねでしかないのかなと思います。当然、本屋としての質を上げていこうというのは毎日考えていますよ。毎日のお客さんとの会話の中で、分からないことについて調べるというのは繰り返してきました。今だってわからないことばっかりだけど、お客さんは僕のことを本屋だと思って聞いてくるので、そこでわかりませんとは言えないですよね?一旦時間をもらってでも、調べてお客さんにちゃんと回答をする。これは5年後、10年後もずっと続くことだと思うし、古本屋をやっている中での醍醐味のひとつだと思っています。」

「それによってお客さんは本を買ってくれるし、またお店に来てくるし、お客さんを紹介してくれたりする。知の欲求というよりかは、そもそも仕事ですから。」

藤井さんの、仕事に真剣に向き合うという意識の高さと、お客さんに対して真摯に向き合うプロとしての考え方を聞くことができました。


街全体をひっくるめて「なタ書」の魅力。

ご来店していただいたお客さんに対して、街の案内なんかもしているのですよね?

「はい。ただそれは、僕自身が本屋に居続けることが苦痛で、お客さんを外に誘い出しているところがあります。もちろん無理強いはしないですよ(笑)」

「高松の街は、歩いて回るのにちょうど良い大きさなのですよ。「なタ書」だけで見れば、ただの本屋ですが、街全体を案内し、お店を紹介することで、「なタ書」という本屋さんが街全体とつながり拡大する。お客さんはただの本屋にきたつもりが、高松という街全体とつながることができる。そんな本屋は他にはないですよね。営業時間が決まってないからこそ、こんなことができる。それは「なタ書」にしか出来ないことです。「なタ書」から飛び出した高松という街全てのものをひっくるめて、お客さんは予約をして「なタ書」に来てくれていると僕は考えています。」

コロナの影響で、2ヶ月間臨時休業していた「なタ書」。海外のお客さんも減ってしまって、客数自体は例年より減ってしまっている状況だが、それもあって街案内もゆっくり出来ているんだとか。

いままでは働きすぎていたと感じる部分もあったと話す藤井さん。

コロナ前はどこかしら、仕事をしないと落ち着かないというような感覚があった。でも、お店を2ヶ月間閉めることになったのをきっかけに、もっと休んで良かったんだと気づけたそう。

「開業から約10年以上経つけど、休んだという気分になったことは今まで一度もなかったんですよ。だから、いまは2週間に一度休みを作ろうとしています。まー側から見たら、街をうろついているので休みに見えるでしょうけどね。(笑)」


新しい事に挑戦するということ。

最後に、僕自身が気になってしまい、経験者である藤井さんに新しいことに挑むにあたっての心の持ち方を聞いてみました。

「いちいち一喜一憂することはせずに、自然体で淡々と日々を紡いでいくこと。そして、あくまでも客観的な目線でこれは面白いのか?と確認すること。なるべく自分より若い人間から意見を聞いた方がいいですよ。おかげさまで当店には高校生なんかも来てくれるので、よく話を聞いたりしますよ。」

「でも、面白くなかろうが、お金さえ払ってくれるものが作れれば何でもいいんですけどね。(笑)」

そんなおちゃらけた言い方にできるのが、藤井さんらしさなのかもしれない。その中には、対価としてお金をいただくだけのプロとしてのしっかりとした軸が感じられました。

今回、お話を聞かせていただくことも、「後で、請求書を送るかも」と笑ってくれました。

なんて言いつつ、突然の依頼、且つ訳もわからない弊社の活動に「noteに書かなきゃ、ただの雑談じゃないですか?爪痕くらい残して下さいよ。」と快く承諾してくれました。

こんなお話を藤井さんとしてみたい方は、是非とも「なタ書」へ訪問していただきたい。

画像2


「本は娯楽コンテンツの中で、電気を通さなくても楽しめるもの。今色んな業界が大変な最中だけど、ライブなんかが盛り上がっているのも、みんな生のつながりというものを求めているからじゃないのかな?あと電子機器に囲まれた生活しているから、みんな電気に疲れているんじゃないかなって思う。」

「これは完全にある方の受け売りで、僕の意見ではなんですけどね。(笑)」

どこまでいっても藤井さんらしさ全開の取材となりました。最後に、「また新しいタイプのよく分からないやつが現れた。」と笑ってくれました。


「なタ書」さんはVIRTUAL ART BOOK FAIRに出展予定(11/16〜11/23)。今年はコロナの影響で、実売ではなくバーチャルでの開催のため、「なタ書」さんも参加できたそう。オンラインで藤井さんとお話も出来たりするチャンスかもしれないので、ご興味のある方は是非詳細をご確認下さい。

https://www.facebook.com/natasyo/
https://virtualartbookfair.com

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?