【EBPM実践チームD2PA×みらい創生課】データをベースに柳津町の未来に向けた施策を検証!(後編)
■柳津町でのEBPMの実践
ー柳津町でEBPMの考え方を取り入れた施策を実施するにあたって、どのように議論が進んでいったのでしょうか。
渡邊 町長からは公共施設の管理について問題意識を伺いました。どこの自治体でも共通の課題ではありますが、昔からある公共施設が老朽化し、それをどう効率的に改修・管理していくかは一つの論点だなと感じました。
そこに端を発して、打ち合わせを重ねる中で、柳津町の道の駅でイベントを開催した際にどのぐらい効果があるのかを検証したいというテーマにつながっていきました。より大きな視点で言い換えれば、「道の駅をどういうふうにしていったら、より街に観光客が来訪するようになったり、街の人流が活性化されるようになるか」というテーマです。人の動きや来場者数、売上などは、データ分析と親和性が高いですから、とてもおもしろくなりそうなお題だなと思いました。
ちょうど柳津町がKDDIの位置情報データシステム(Location Analyzer)を導入することを検討しているタイミングで、このシステムがあれば「何月何日何時に何人ぐらいがその場所にいたのか」ということが、データとして簡単に引っ張リ出せるので、ミラツナ会議で行ったナイト足湯のイベントなども含めて、色々なイベントの検証と親和性があると考えました。
現在は、道の駅のエリアをにぎやかしていくと、その恩恵というのは併設されている公営の宿泊施設だけではなくて、町全体に及んでいるのだということを検証しています。柳津町にはたくさんの宿泊施設がありますがそこにも人が訪れて、経済的な効果が見込めることを検証しています。
ーこうしたデータを使った現状把握に対して前向きなことも柳津町の特徴の一つかもしれませんね。
渡邊 リアルなデータを把握して分析する際には、必ずしも望んだ結果が出るというわけではありません。行政機関に限らず大きな組織にとっては、過去の取組み等を否定するような分析を行いにくいという性質があるように感じます。ある種、諸刃の剣のような側面もあるのがEBPMの考え方です。現状を客観的なデータでしっかりと把握した上で、トライアンドエラーを繰り返してどんどん良い方向に向かっていこうとする姿勢は、柳津町の素晴らしいところですよね。
以前のnoteの記事でも、町長自ら「失敗ということはなく、そこから検証して次につなげていけばいい」とおっしゃっていてびっくりしました。そこまで堂々と言い切れる地方自治体のトップの方は珍しいと思います。そんな柳津町のみなさんと一緒に挑戦させていただくことはとてもありがたい経験です。
ー実際、EBPMの考え方を取り入れている自治体は増えているのでしょうか。
石巻 その重要性は理解しつつも、自治体単位でEBPMを実践をしていらっしゃるのはまだまだ先進事例だと思います。データはコミュニケーションのツールとしてとても優れています。言わずもがなですが、政策の意義や根拠などが数字やグラフなどで見えた方がわかりやすいですからね。
現在では、情報公開の要請が高まりデータを公開する行政機関は増えていますが、基本的に「データを出しっぱなし」の状態にしてしまっていることも多いと感じています。つまり、コミュニケーションとして使っていない。コミュニケーションツールに使うには、コストもかかりますし、どうしても行政側が解釈を加えたメッセージを発することになるので、センシティブなテーマであればあるほど伝えにくいという側面もあるのだと思います。
ただ、分析や解釈がなされていないデータだけを公表されても誰も見ないですよね。データを公表するということではなくて、データを活かすという視点に立った柳津町の取り組みは非常に先駆的であると思います。
渡邊 今、石巻さんが触れましたが、そもそもEBPMというアプローチをとるのは何のためなのか、というのはとても難しい問いです。シンプルに考えれば、政策をもっと良くするため、ということだと思いますが、それと同時に、向かっていく方向性に国民や住民を巻き込んでいくツールでもあります。そのため、私たちから「データを突っ込んでみたらこういう分析ができました! 政策を変えていきましょう!」と伝えるだけでは役立ち度は低く、協働している自治体がその分析を通じてどのようなメッセージを発信していきたいのか、というニーズを理解しておくこともとても重要なのです。
ただ、D2PAで今後気を付けていかないければいけないことは、協働する自治体の方のニーズを理解すると同時にニーズは理解しつつもそれにただ合わせたようなデータ分析をするのではなく、きちんと客観性が担保された分析をお持ちすることだと思います。柳津町は事前の相談で率直にお話をいただき、どう活かしていくかを議論してくださるので、この両方のバランスが非常にとりやすいと感じています。
■これからの柳津町や自治体との協働
ー今後、柳津町とどのような取り組みに挑戦していきたいですか。
渡邊 現在は、観光や人流みたいな分野を中心にデータ分析をやらせてもらっていますが、地方行政のさまざまな領域でEBPMの考え方は使えると考えています。多様な分野でデータをどう活かすか、実証事例を積み重ねていきたいと考えています。
また、リアルタイムな位置情報データやTwitterのログを使った分析など、オルタナティブデータといわれるデータの活用に力を入れているので、この部分ももっと事例を重ねていきたいです。
橋本 KDDIのLocation Analyzerで得られたデータを分析すると、どういう県に広告を打つと効果的かといったことが見えてきます。どこのエリアからの流入が多いのか、逆にどこのエリアが少ないのかがわかるので、次の施策につなげやすくなると思います。例えば、最も柳津町に観光に来ている県に広告を打つ方法もあるでしょうし、あるいは来ていない県にあえて広告を打つという発想もありますよね。時期やイベントによって訪れる観光客の特性が変わる可能性もあるので、それに合わせた効果的な施策を練っていくことができると考えています。
また、これは柳津町に限りませんが、自治体の医療施策に対するデータ活用にも関心があります。例えば、検診の受診率を向上させたい時にはどのような方法が効果的かといった検証に携わってみたいです。
窪西 手法の話になってしまいますが、RCT(ランダム化比較試験)という最も信頼度が高いとされる分析手法があり、その実践に携わってみたいです。RCTとは、同じようなAグループとBグループを用意して、Aグループにだけ特別な施策を打ち、A・Bグループの差を見て政策効果を検証する方法です。例えば、アメリカでは失業者の方々をAグループとBグループに分けて、Aグループにだけ補助金を渡し、その後の就職率を比較するといった実証実験が行われていました。補助金の有効性を推し量れるという意味では有効な手法です。ただ、社会実験をすることになるので、日本では理解を得ることがかなり難しい手法だといえるでしょう。
住民と行政の距離が近い柳津町のような場所で、住民の合意を得たうえで実証実験をするということは可能性としてなくはないと思っています。日本の人口減少は他の先進国の課題を先取りしていると思いますし、人口減少エリアでの先行研究は海外でも他に例がないと思うので、世界的に参考になるような結果が得られるかもしれないと期待しています。
石巻 私は経済産業省でエネルギー政策に長く関わっていました。その中で地熱発電の政策立案を担当していたこともあったんです。柳津町には西山地熱発電所という大きな発電所がありますよね。そもそも東北は非常に地熱に恵まれたエリアです。地熱発電は、ベースロード電源といって安定性に優れていて、優秀な再生可能エネルギーの1つとして注目されています。さまざまなエリアで、地の利を活かした再生可能エネルギーとして財産と捉えていけるとよいのではないかと考えています。
地熱開発における一番の課題は何かというと、旅館や温泉といった地元産業との調整や環境影響への懸念など、様々な利害関係者との合意形成が難しいことが挙げられます。これが地熱資源が豊富にある日本において、地熱発電がなかなか進んでいない大きな理由だといわれています。例えば、地熱発電による経済的な波及効果や、環境影響に関する定量的な評価をデータで示すことができればまた変わってくるのではないかと思うんです。熱を二次利用して、温水プールを温めるのに使ったりビニールハウスの暖房に利用したりと、熱の多段階利用の可能性を見せることで地域共生がより進むのではないかと構想しています。
もう一つは、EBPMに重きを置いた施策を進めると同時に、全体的なデータリテラシーの向上を図っていくことも重要だと考えています。求められるレベルはさまざまですが、実際に手を動かしてデータを作る行政部門の方はもちろん、他の部門の方も見方や扱い方を理解していくことが求められると思います。また、データ情報を受け取る住民側も、恣意的な情報に惑わされずデータを客観的に判断できる土台を築いておくことが重要です。そうした教育的な側面も今後興味がある分野です。
渡邊 EBPMという考え方は新しい価値づくりに挑戦する方々にとって、大きな武器になると思うので、みらい創生課やミラツナ会議のみなさんにどんどん活かしていただけたら嬉しいです。地域の中で勇気を持って行動する方の後押しができればこれほど嬉しいことはありません!
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