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64.嵐と"ちばりく"

チームつくばタイトル

2019年10月12日。
台風19号が、日本を襲った。
後に「令和元年東日本台風」と名付けられたこの台風は、猛烈な勢力を保ったまま東日本に上陸、死者100名超、建造物被害10万棟にも及ぶ、甚大な被害をもたらした。
公共交通機関は大きな影響を受け、イベントも中止が相次いだ。

台風の被害はもちろん心配な案件だったが、関東エリアの大学長距離陸上関係者や駅伝ファンにとって、さらにもう一つ心配なことがあった。
第96回箱根駅伝予選会の申込期日が10月15日だったのである。

第 96 回東京箱根間往復大学駅伝競走予選会要項から、参加資格と申込期日についての記述を画像引用する。

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申込期日直前の、12日(土)13日(日)には、いくつかの競技会、記録会が予定されていた。しかし台風の影響で、順天堂大学競技会、東海大学記録会と中止が相次いだ。

予選会への出場資格と闘っている大学さんにとって、この週末の記録会中止は、死刑宣告にも等しい。
13日夜に開催予定の、東京学芸大学第2回10000m競技会、通称「学芸大ナイター」の動向を、関係者たちはかたずをのんで見守っていた。
台風は予想より早く接近、12日深夜には関東地方を過ぎ去る見通しがついた。

競技会の開催が決まった。
多くの選手たちが、箱根駅伝予選会への「最後のチャンス」を失わずにすんだ。
この10月13日の学芸大ナイターは、「記録会は当たり前に存在するものではなく、たくさんの人の協力と支援によって支えられている」ことを、陸上関係者があらためて認識する機会となったのではないだろうか。
ネット上に溢れた「開催への感謝の声」に、温かい気持ちになったことを覚えている。

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台風通過後の13日夜、学芸大ナイターは開催された。
この競技会で、箱根駅伝予選会への切符を手にした大学があった。

【注】以下に使用しているスクリーンショットは、筆者がまとめた【第96回箱根駅伝】予選会へのカウントダウン&結果発表!&予選会目指してがんばりました!まとめから引用しています。

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そして、出場の夢が叶わなかった大学も数多くあった。
そのうちの一校が、千葉大学陸上競技部、略して「ちばりく」である。

国立の千葉大学は、陸上競技では「非強化校」に分類される。しかし、この年は箱根駅伝出場の可能性があった。
ちばりくのエース、今江勇人(当時4年)さんは、9月に開催された日本学生陸上選手権(日本インカレ)の3000m障害で2位に入賞していた。もし、10人が10000m34分の標準記録を突破し、予選会に出場することができれば、「関東学生連合チーム」に選ばれるレベルの実力者だったのだ。
学芸大ナイター前のちばりくは、標準記録突破者10人まであと2人。

今江さんを箱根へ。

ちばりくの部員たちの想いはひとつだっただろう。
この日の学芸大ナイターでのちばりくの様子を、レポートに残してくださっている陸上ファンがいる。

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(ご本人様のご承諾を得て画像転載しております)

それに呼応するように、現地に足を運んでいた他の陸上ファンの方も当日の様子をTwitterにアップしてくださった。

箱根駅伝の記録には残らなかった、ちばりくの挑戦。
けれど、チーム全員で高い目標にチャレンジするその姿は、現地応援した人々の心を打った。

私はこの頃、予選会に出場する大学さんたちがTwitterで発信している、カウントダウン情報のまとめをつくりはじめていた。
筑波大学箱根駅伝復活プロジェクトのアカウントで、カウントダウンを始めたのを見て、せっかくならと、他の大学さんの分も一緒に拾うことを思い付いたのである。

軽率に始めたのが運のツキ。最終的に20チーム以上も集まり、カウントダウン更新作業は死のロードと化すことになる。
そのまとめの最後に、ちばりくさんをはじめ、予選会に出場できなかった大学さんのことも、わかる範囲で拾って追加した。

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(詳細はまとめ本文を参照ください)

私は、陸上シロートの自分が、箱根駅伝に関するTwitterまとめを作る「ささやかな意義」を、自覚するようになっていた。

陸上シロートだからこそ、できることがある。
公式記録に残らない多くの学生さんたちの想いを、記憶に留めること。
たとえそれが死のロードであろうと。

【あまりに細かすぎる筑波大学駅伝ガイド番外編】
この学芸大ナイターで予選会出場を決めた、東京学芸大学陸上競技部の入野翔太さん(当時4年・記事中に当時のつぶやきを引用)は、卒業後に筑波大学大学院へ進学。勉学に励みながら、現在、箱根駅伝復活プロジェクトの一員として、元気に競技を続けていらっしゃいます。


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