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82年生まれキムジヨン


先日、アトリエ帰りに寄った書店で立ち読みしたら止まらなくなって昨晩一気読み。

82年生まれキムジヨン、
本好き界隈で話題になり有名な本である。

内容はあえて割愛させていただくが

私が一番バリバリと働いていた当時(30年近く前)
「男女雇用機会均等法」がなく
女というだけで22時以降働くことが出来なかった。
そういう時代だったのだ。
くだらない仕事には使ってもらえても大きな仕事やプロジェクトにはいつも自分よりポンコツだと思っている男の子が加わっていた。


平等主義の父の元、
姉も私も専門職で頑張っていた。
学校の成績は優秀(自分で言うか?っちゅうはなしやけど)
姉は建築、私は料理とそれぞれ男社会を必死にもがき泳いでいたように思う。


それぞれにコレは!
…と思う相手と結婚し覚悟を決めて家庭に入って子育てに邁進したが一方で捨てたもの、
当時は仕事か家庭の二者択一が当たり前。
バリキャリだった私たちの苦悩は計り知れない。

ある時、父に詫びたことがある。
あんなに苦労して学費を払ってくれたのに
ただの主婦になってごめんねと。

父は「社会に出て活躍することが全てじゃない。
あんたは学校に通ったことでたくさんのことを身につけたはずや。それでええんや。お金が惜しいとか考えたこともない…」
と言った。


私は泣いた…母はお嬢さん育ちで手に職もないまま就労経験もなく結婚したので姉と私にずっと「手に職」
と言い続け私たちはそれを「呪い」と呼んでいた。
手に職がないから離婚できない、あんたたちがいるから離婚できない…とよく言っていた。

離婚したら青菜に塩で途端に生きて行けないくせに
気位は高いので「私はいつでも離婚したいのだけど」…というスタンスは外さなかった。
父はそんな母でさえも可愛いと思っているようで、
大人になって鼻で笑えるものの、
子供のときは本当に離婚するのだろうか?自分たちのせいで離婚できないのだろうか?と真剣に悩んだ。


結婚生活の中で辛かったことは本屋に行くと女の先輩、同期、後輩の料理本が並んでいて
私の背中には次男坊、前にはお兄が貼りついていた。
その頃私は
「未浄化霊になる奴ってこういう風になるんやろな…生きてても未浄化霊や。それが生霊なんやろな」と、客観的に自分のことを見ていた。

心中はざわざわとしたものが去来して活躍する同僚たちを苦々しい思いで見ていた。
活躍した同年代の女性は皆、未婚だった。


現在ではもう子育てしながらかつての私と同じ仕事を続けている人も多いらしい。時代が進んだと思った。


私と同い年の伊勢志摩サミットで有名になった
志摩観光ホテルの女性料理長は同じ職場の
ご主人が「君の方が才能がある」と仕事を辞めて子育てに専念したらしい。まさかのそのパターン!
そんな稀なケースはなかなか無いだろう。


しかし、転んでもタダで起きるかよ、筋金入りの舐めんなよ姉妹。
家の中で子育てに邁進しながら、
それぞれに趣味の分野に邁進して身につけた技能で「売って欲しい」と言われるものを作り出すところまで趣味を昇華したり語学学習をしたり、姉は資格を次次と取得していた。家にいるだけあって勉強する時間はいくらでも捻出できるのだ。

われわれ姉妹の底力はなかなかのものではないかと思う。


そして姉妹それぞれに産んだ子供たちは
本当に素直に真っ直ぐによく育ってくれた。


今現在どうか?と聞かれたら子育てして姑と同居して身につけた忍耐力でポジャギ制作の忍耐力が培われたと思うし、ガンになってもスキップ踏んで過ごした日々も、それまでの人生、身を捨てて必死に存分に生きたという自負があったからいつ切れても悔いはないと思っていたからだ。

まだ死なないみたいなんだけど…。

そして今の自分の人生に満足している。


結果が出ない時…その時期が1番辛かった。


この本を読めば、
女性ならどこかで自分を重ね合わせるだろう。
女というだけで性的な対象になりうることも思い知らされる。


おばさんになって思い返せば、
無防備だった若い時代。
とある星付きシェフを招聘するのに
1人の先輩が真面目にこう言った。
「あの人はいい噂を聞かない、特に女好きだからお前は俺たちの側を離れるなよ。絶対に1人になるなよ。」
と注意を受けた。
若かった私は「私など相手にされるかよ」と思っていたが


昨今の #metoo 運動の記事を読む度に背筋が寒くなる。
その先輩はあなたの事が好きだったんじゃないか?…という下衆な勘ぐりはしないでほしい。
本当の意味で漢気があり、ある時は女扱いせず、ある時は守ってくれた。
今でも恩を感じている。


先輩が心配していたのは、
こういうことだったのだ。
社会的地位を利用して女をモノ扱いする輩など
世の中にたくさんいる。その道のプロを目指して夢見る若い女性が訴えられないことにつけ入りレイプをするなど社会的地位のある男にとって実にたやすい。

若い女とは危機に満ちている。


そういう男の性を理解し軽蔑していた先輩だからこそ
危険を察知して先輩によって守られたのだと思う。
私は今よりもうんと世間知らずで何も考えていなかった。


人に恵まれ、周りに恵まれたから
私はキムジヨンのようにならなかったのだ。



長らく病的に捨ててきたキャリアというもう一つの人生という考えが生き霊となって浮遊していた自分だが、長男が同じ料理の学校に通いかつての上司に教えを受けた。

卒業フェスティバルの日に25年ぶりに逢えたのだ。
次男坊を連れて過去の自分に逢いに行く旅。


かつての上司は
「○○(私)が仕事を辞めたのは本当に悔しいと思ったけど息子を見て『とにかく一所懸命に育てた』ということがわかった。あの子は稀に見る素直ないい人間やと思う。すごいことを成し遂げたな。仕事を辞めて正解だった。あの子は辛抱さえできたらいつか化けるぞ」と私に言い、

そして次男にこう言った。
「君にとっては、ただのお母さんかもしれないが、
僕にとっては大事な部下で本当に仕事ができたんだよ
君たちを育てるために夢を捨てたんだ。忘れないで」
………と。


積年の未浄化霊が浄化していくのを感じ
一瞬で自分の人生が正解に思えた。


あの時代、
限られた選択肢の中で必死に自分のベストな選択をして誰かのせいにすることなく自分で決めたと言い聞かせることで走り抜いたのだ。


この本で女の人は自覚していなかった「女」というだけで受ける不遇に気付き、男の人にとっては知らずに受けている特権を知る嫌な一冊であろう。


女が権利を主張するとヒステリックだと思う社会だ。まだまだ男に寛容であると思える日本。
昨今の性的な犯罪の罪の軽さにも出ている気がする。

しかし、私は巡り合った男運が本当に良かったのだと思う。要所要所で漢気に救われて男の人に失望することなくこの歳まで生きてきた。
キムジヨンに成り得なかった理由がここにある。

とにかく、過去を振り返り心をふるいにかけて
人生を一度洗うようなそんな価値のある本だった。

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